番外編.06 恋する気持ちの確かめ方
前半の会話部分のみ、三人称視点です。
アリスとサラが先程まで寛いでいたパラソルの下に、今度はティーグルとエヴァンが腰を下ろしていた。2人は荷物番を立候補し、海で遊ぶ皆の様子を眺めているようだ。
「ユーグもフォルトも楽しそうで何より」
「アイツら澄ました顔してっけど、いつもより浮き足立ってるのが分かるよな」
「確かに。フォルトなんかはアリスティア嬢といる所をよく見ると、結構笑ってるもんね。ここ最近は激務だったし、いいリラックス時間になってるといいな」
「激務なのはユーグが修学旅行の日程とどうにかして合わせようと、仕事を早めたからだけどな……」
「あはは」
エヴァンの、時折ボーッとある一点を眺める姿をチラリと横目で見たティーグルは、思わず口を開いていた。
「なーんかエヴァン……お前さ、今日調子でも悪いん?」
「え? 別に、体調は万全だよ?」
「体調っつーか……いや、めんどくせぇから単刀直入に聞くけど、さっきのサラ嬢とルネの事、案外気にしてんじゃねぇの?」
そう問われて、エヴァンは心底驚いた様子だった。
「……僕が?」
「んだよ、無自覚かよ」
ティーグルは呆れた様子で、追加で買ってきたらしいホットドッグを頬張り始める。
「今だってお前、目で追ってたじゃねぇか」
「まぁ……足元の安定しない海でもよく動けてるから、流石だなって感心はしてたけど」
「見てる所が何か可笑しくね……? ま、安心しろって。ルネは多分、サラ嬢の事は女として好きな訳じゃないと思うぜ」
「別に僕には関係ない事だけど……ていうか、いつになく自信満々じゃない?」
その根拠は何さ? と真っ直ぐ見つめられたティーグルは何故か自信たっぷりに言っていたのとは裏腹に、目が泳ぐ。
「……俺の勘は当たるんだって」
「一気に胡散臭くなったんだけど?」
「いーからエヴァンも得点係として海、行ってこいよ。旅行中にサラ嬢と話す機会を作って、お前ももうちょっと自分の事を省みろって」
そう言ってシッシと手を振って追い出す。海へ向かうエヴァンの背中を見つめながら、は〜……と溜息をついた。
「……あいつは多分あーさんが好きだと思う……なんて、俺の一存で勝手に言えねぇわ」
あー、男女の仲ってややこしい。
そう呟いて、食べ終えたホットドッグの包み紙をクシャッと丸めてゴロリと横になったティーグルなのだった。
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「うわ、サラごめん! そっちにいっちゃった!」
「オッケ、任せろ」
パシャン、と水しぶきが上がるのと同時に、パンッと軽快な音を立てて、ボールが青空へと高く上がった。
「ナイスー! あ、と、おっとっと……」
空ばかり見上げていた私が、後ろへよろけそうになった時。私の背中はそのまま海にダイブする事なく、トン、と支えられた。
「あ……わ!? フォルト様!」
「上ばかり見てるとよろけるぞ」
「ありがとうございます……!」
泳がなくても遊べるように、腰まで浸かるくらいの所でのビーチボール対決中なのである。
4人対4人の戦いなのだけど、これがかなり盛り上がるの何のその。線とかはないので、3ターン以内に向こうチームへボールを返せなかったらダメ、というザックリしたルールでやっている。
途中でエヴァン様が得点係をやってくれる事になり、大分やりやすくなった。
ちなみに現在得点は、13対14という接戦だ。私とフォルト様、サラ、ラウル君のチームの方が優勢である。15点先取した方が勝ちで、勝利チームには殿下がアイスをご馳走してくれるらしい。
まぁいくらゲームとはいえ、殿下にうっかりボールなんか当てられないから、その点は気をつけないとですけどね!
……とか何とか思っていたら、バシッと殿下の頭にビーチボールが落ちた。
「……ポトリー?」
「あっ、で、殿下、すすすすみません……!」
ぴぇっと泣きそうな顔で謝り倒すラウル君である。
ラウル君、流石すぎる。まぁ殿下も本気で怒ってる訳じゃないみたいだ。どうやらラウル君の反応を面白がっている節がある。
「ふくく……ゲームセットだね」
エヴァン様が笑いを堪えながら、片手を挙げて試合終了の合図をし、ビーチボール対決は私達のチームが勝利を収めたのだった。
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海辺のカフェでアイスをテイクアウトしてきた。暑いので私は桃味のシャーベット。さっぱりとした甘さが美味しひ。
「おーい、宰相殿」
私の隣でマンゴー味を食べていたサラが、ちょいちょいと手招きをしながら呼ぶ。
「サラ嬢、どうしたの?」
不思議そうに私達の近くへやってきたエヴァン様。サラは持っていたスプーンでアイスを掬ったかと思うと、それをエヴァン様の口へと入れた。
「……ん!?」
何で、と言わんばかりの驚いた様子のエヴァン様の表情に、ニヤリとしてやったりの笑みを浮かべたサラの表情。
「得点係、やってくれたじゃないですか」
半分こしましょうよ、と屈託のない笑いを見せるサラに、ちょっとだけ面をくらった様子のエヴァン様。でもそれはすぐに優しげな微笑みへと変わっていた。
「……うん、ありがとう。じゃあお言葉に甘えようかな」
そんなやり取りを間近で見た私は、あれ、これってもしかしてもしかしたりする? なんて思ってしまったり。
だって今のエヴァン様の笑い方……私といる時のフォルト様みたいだったから。
そっと2人から距離を取った私は、溶けかけたアイスを片手に、ドキドキと早まる鼓動を落ち着かせながら、頭の中を整理する。
「んん……? でもそれだと、誰が誰かを好きなのかよく分からなくなってきたかも……」
そうなるとエヴァン様とルネ様は、ライバル?
いやいや、ルネ様がサラを好きだと決まった訳じゃないし、サラが誰を好きなのかもよく分からない。そもそも好きな人自体いない可能性の方が高いような気もする。
「おっ、お嬢も勘が鋭いっすね」
自分の事はてんで鈍いのになー、といつの間にか近くに来てカラカラと笑うニャーさんを、ジト目で見上げた。
海に無理やり引っ張っていってしまおうかなと、ちょっとだけ意地悪な気持ちが働いた私は、ニャーさんにポツリと提案してあげた。
「……まだ日没まで時間もありますし、泳ぎます?」
「うぇっ!? い、いい! ごめんって!」
うむ、やっぱりニャーさんは水が苦手のようだ。
いつもありがとうございます(*´꒳`*)




