番外編.03 マリチェ魔法学園
旅行3日目は、アヴィニヨンにある魔法学園との交流会だ。他国の魔法学園にお邪魔するのは初めてで、緊張とワクワクが止まらない私である。
恐らく魔法実技場であろう会場へと案内され、アリーナを見渡せる正面のスタンド席に着いた。
会場内の照明が落とされたかと思うと、アリーナにスポットライトが当たる。そこには、マリチェ魔法学園の生徒達がズラリと並んでいた。
「「「マリチェ魔法学園へようこそ!」」」
歓迎の言葉に、大きな拍手で応える私達。
『ルルクナイツ魔法学園の皆様、ようこそおいでくださいました。ここからは暫しの間、マリチェ魔法学園生徒による歓迎のパフォーマンスをお楽しみください!』
魔法で拡張されている先生らしき人の声が、会場いっぱいに響き渡ったかと思うと、複数の生徒達が声を揃えて魔法を唱え始めた。
『空から降り注ぐは、流れ星の如く 色彩の星泡』
カラフルなシャボン玉のような泡がポンポン、とテンポよく天井から降ってくる。
「これ、濡れない水の魔法ですね……!」
「えっ?」
シャボン玉は私達の手元で小さく弾けてしまうのだけど、ラウル君の言う通り、私の手は全く濡れていなかった。
「ほんとだ。手元で弾けるまで本物だと思ってた……」
水魔法で水を出すのは初級魔法の内だけど、こうした泡状の濡れない水の幻想を生み出すのは、繊細で高度な魔法なのだ。更にはシャボン玉のようなカラフルな色付けまで。本当に丁寧で凝っている。
更には、アヴィニヨンの伝統舞踊とともに、他の属性の魔法も続けて披露された。水魔法のイメージが強いけれど、他の属性も洗練された魔法で、クオリティが高く見応えがあった。
「芸術的だわ」
シェリのその一言に尽きます、と私はウンウンと同意したのだった。
歓迎会を終えた後は、グループ毎に分かれて学内を案内してもらう。ルルクナイツ魔法学園と建物の雰囲気が全く違うので、どこを見ても面白い。
全体的に白を基調とした学園のようで、明るく広々としている。ガラスの窓も多く使われており、開け放たれた空間が心地よく、空気が澄んでいるような感じもする。
「というか、皆さん本当にエタリオル語がお上手ですよね……」
思わずそんな感想が出てしまう私である。冗談抜きで会話だけしていると、あれ……ここってエタリオルだったっけ……と、錯覚してしまいそうになる。
「ありがとうございます。エタリオルの方にそう言っていただけると凄く嬉しいですわ」
「私は外国語があまり得意じゃないので、尊敬します。アヴィニヨン語も帝国語もまだまだ勉強が足りてなくて、いつもテスト前は友人に助けてもらってます」
ね、とミレーユに顔を向けると、私が帝国からの留学生なので、と相槌をうつ。
「そうなんですね。あっ、帝国といえば、この学園にも帝国からの留学生がいらしてるんですよ」
もしかしたらご存知の方かもしれませんね、とマリチェの生徒が微笑んだ。
「帝国は留学生制度が盛んだな」
「目立つお方達なので、きっとすぐ……あ、噂をすればあそこにいらっしゃいましたわ」
「わぁ……確かに目立つなぁ……」
そこには、男女問わず沢山の人に囲まれている2人がいた。不思議な事に、その2人は同じモスグリーン色の、少しクセっ毛のような髪の毛である。
「あれ? 同じ髪色の方が2人……?」
瓜二つとまでは言わないけれど、顔つきや背格好も何となく似ているような。
「はい。双子の留学生なんですよ」
しかも女の子の方は、ショートヘアーだ。貴族令嬢だとしたら、ショートヘアーなのはかなり珍しいかも。
「へぇ……じゃあ帝国でもきっと有名ですよね? ね、ミレーユとルネ様の知ってる方だったりする?」
何の気無しに2人へと問い掛けながら、視線を向けると、2人の目線が明らかにす〜っと泳ぐ。
……そういえば学園内に入ってから、2人とも心ここに在らずな感じだったような。修学旅行の行き先が決まった頃にカフェテリアで話していた時と、同じ感じである。
「2人とも、どうしたの……」
「「……あーっ!!!」」
突如廊下に響き渡る声に、ビクッとなる。
「ルネ様!」
「ミレーユ殿!」
こちらへと一目散に駆けてきた双子が、それぞれに抱きついた。ルネ様ファンのエタリオル女子が悲鳴を上げている。あ、ミレーユはサッと避けてたけど。
「ミレーユ殿……久しぶりの再会なんだから、この位いいじゃないか」
「……アドルフ様。気安く触れないでいただけます? 私、婚約者がいる身ですので」
そう淡々と言い放ったミレーユは、肩に置かれていた手をペイッと振り払った。
「いつもそう言って距離を取るんだよな。まぁ、簡単に捕まらないから、そこがまたいいんだけど」
こ、この状況……よく分からないけど、このアドルフ様って方はミレーユが好きって事……?
「……アメリア嬢、ちょっと離してもらえるかな〜? 今、学内の見学中なんだよね〜……」
「嫌です! 愛しのルネ様にせっかく会えたんですよ!?」
上目遣いでキッとルネ様を見つめるショートヘアーの女の子は、どうやらアメリア様というらしい。ルネ様ファンからの睨みつける攻撃も何のその。イヤイヤと抱きついて離れない。
愛が強いな、リバーヘン帝国……
女の子だから無下にも出来ず、困ったように微笑むルネ様である。
「そろそろ離してやりなよ、ルネが困ってるだろ?」
横からニョキっと手が出てきたかと思うと、サラがヒョイとアメリア様を摘んでルネ様から離した。
「な、何するんですかっ!?」
「何って……友達が困ってたから助けただけ」
「やだ、サラ嬢かっこいい……」
待て待て。何でルネ様はヒロインみたいな立ち位置になってるんだ。
「貴方、ルネ様の何なんですかっ……!」
「えぇ……? 友達だって言ってるんだけどな……」
結局その後、騒ぎを聞いて駆けつけた先生が介入してくれて、その場は一旦落ち着いて見学は再開となった。……のだけど、何かもうこの双子の印象が強くて、学園の見学が途中からうろ覚えだった。
宿へと戻る馬車の中で、ミレーユが口を開いた。
「……いつだったか私、婚約者事情について話した事があったわよね?」
「うん? あ、女子会の時?」
確か……婚約者はいるけどお互いに乗り気じゃない、とか話していたような。
「後で皆には部屋で詳しく話すけど」
ふぅ、と溜息をついた。
「あの双子が、私とルネ様の運命共同体たる所以なのよ……」
「おぉう……?」
……今夜は何だか長くなりそうである。
いつもありがとうございます(*´꒳`*)




