番外編.01 水の都市・アヴィニヨンへ
※このお話は、エピローグより前の時系列のお話となります。
2年生の夏を迎える1ヶ月程前。
2年になっても相変わらず特Aクラスの担任であるグレイ先生から、夏の修学旅行の行き先が発表された。
移動の日数を含めないで計算すると、旅行先には5日間の滞在だ。皆で観光地を巡る日もあるけれど、それ以外の自由時間もかなり設けられているので、結構のんびり出来そうである。
勿論、今カフェテリアで昼休みを過ごす私達の話題は専らこれである。
「結局アヴィニヨンになったかー、アリスが前に話してた通り、リゾート地になったな」
「うん。嬉しいなぁ〜」
アヴィニヨンには嫁いだキャロル姉様がいるので、あわよくば自由時間に会えるんじゃないかな、なんてちょっと期待している私である。赤ちゃんも無事に産まれたそうなので、会えたら嬉しいな。
「アヴィニヨンの海は澄んだ色をしていて、本当に綺麗なのよね」
エタリオル王国と友好条約を結んでいる、島国アヴィニヨン。一応、隣国と呼べる程の距離にある。別名水の都市と呼ばれており、リゾート地として有名で、海の幸も豊富なのだ。
エタリオル王国出身の人も結構いるので、有名な観光地ならエタリオル語が通じるところも有難い。
「新鮮なお魚……すごく楽しみです……!」
「あぁ、それもいいよね! あと、海辺で売ってるらしい串焼きを食べようラウル君……!」
私とラウル君は、海の幸を食べる計画に夢中である。
「確か、アヴィニヨンの魔法学園との交流会もあるんだよな?」
「えぇ、1日だけあちらの学園にお邪魔するのよね。歓迎会みたいな感じで出し物をしてくれるらしいけど、やっぱりここは魔法の発表会かしらね……?」
「シェリはそこで、ルルクナイツ代表でお礼の言葉を述べるんだろう?」
「そうなの。出発までに練習しておかないとだわ」
各々の話題が盛り上がる中、何故かちょっとだけ浮かない顔をしているミレーユとルネ様。ルネ様なんか特に喜びそうな話なのに、どうしたんだろう。
「2人とも、何か元気なくない?」
「う〜ん、皆で旅行に行けるのは楽しいと思うんだけどね〜……」
「まぁ……向こうの学園に行った時に、顔を合わせなきゃ何とかなるかしらね……」
私の問いかけにも、このようにやや上の空の返答である。
「……? 2人は何かに追われてるのか……?」
「さぁ……よく分かんないねぇ……」
珍しい2人の様子に、私達は首を傾げたのだった。
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日差しが眩しく感じられる、夏の空。本日は晴天なり。
エタリオル王国の港から出航した大きな客船が、アヴィニヨンへと舵を向けてゆっくりと進んでいた。
「う〜み〜は〜広いな〜大きいな〜」
穏やかな風を浴びつつ、思わず前世の歌を口ずさんでしまうくらいにはご機嫌な私である。
「わぁ……アリス様、見てくださいっ! あそこで魚の群れが海面を跳ねてます!」
「本当だ! 飛び魚かな〜」
「その様子だと、ラウルとアリスは船酔いの心配はいらなそうだな」
そう言いながら、よっと入口の扉を閉める。サラも甲板で風に当たりに来たらしい。
シェリとミレーユは船に酔ってしまい、休憩室で休み中だ。ルネ様はここには居ないけど、さっき見かけた時はいつも通り女の子に囲まれていたから……まぁ元気だと思う。たとえ船酔いをしたとしても、女の子達が喜んで介抱するだろうしな。
「うん、大丈夫そう。これだけ大きな船だから、思ったよりも全然揺れを感じないや」
「僕、こんな大きな船に乗ったの初めてです……! 快適ですねっ」
「そうだな。今日は波も高くないし、シェリとミレーユももう少ししたら慣れると思うぞ」
「あ、そういえば僕、魔法薬学の授業で作った酔い止めに効くハーブの飴を持って来てたんでした! 渡してきますね」
いってらっしゃ〜いと、私とサラは手をヒラヒラさせてラウル君を見送った。
「アリスはアヴィニヨンに着いたら、1番何したいんだ?」
「う〜ん……折角だし、やっぱり海で遊びたいかなぁ。確か水の魔法石を使った、海に入る用の洋服を借りれるんだよね?」
いわゆる前世の水着みたいな素材の、露出の少ない洋服バージョンである。日焼けも厳禁だし、ちょうど良いのでは。あ、浮き輪もあったら借りて、プカプカ浮きたいな。
「へ、へぇ……アリスは泳げるのか?」
「うん? まぁ、多分?」
前世では25m位は泳ぎ切る事が出来ていたから、きっと今世も泳げる……ハズ。
「多分って……アリスは本当度胸があるよな……」
「サラは……もしかして泳げない?」
「泳げないというか、泳いだ事がない、が正解だな。生まれてこの方、海に入った事がなくてな。そもそも、あんまり水自体好きじゃないんだよ」
「あぁ〜、なるほど」
似たような人がいたなぁ……強い火属性持ちの人って皆こうなのかな。私の脳内にニャーさんが登場したのは言うまでもない。
あれ、そういえばニャーさんの姿を見てないけど、この船に乗った所からもう付いてきてるのかな?
「見てる分にはいいんだけどな。それこそ私はビーチでイカ焼きでも食べて、皆を見ながら寛いでるよ」
「うぁ、私もイカ焼き食べたい……!」
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シェリとミレーユもあの後無事に復活して、皆でお喋りをしている内に、客船はアヴィニヨンの港へと到着した。
「ほわぁ……」
ラウル君と2人で宿を見上げた拍子に、思わず同じ声が出る。
100名程の生徒数なので、泊まる所もかなり大きな宿だった。セキュリティもしっかりしてそうな、お洒落な造りの宿である。
夕方到着の今日は、ひとまず荷物を部屋に置いて、夕食までは宿での自由時間。ちなみに2人部屋の割り振りは、今回は私とサラ、シェリとミレーユである。
「明日は観光名所を巡るんだよね。で、次の日が学園交流会でしょ? お土産はいつ買おうかなぁ……」
「アリスのお姉さんとはいつ会うんだ?」
「えっとね、最終日の自由時間で、お家にお邪魔してくる予定。赤ちゃんもまだ小さいし、ほんのちょこっとだけ顔を見たらすぐ戻ってくるよ」
「1人じゃ危ないし、一緒に行こうか……でも、大勢で行ったら逆に迷惑になるよな」
「ありがと。実は、それにはフォルト様が付き添ってくれるらしくてね……」
「あぁ、そうか。なら安心だな」
思い出したかのように、サラはニヤリと笑った。
これはシェリだけが知らない内緒の話である。というのも、卒業後シェリへの過保護っぷりが増した殿下。視察という名目を使って、こちらにやって来るというのだ。忙しい中で時間を作ったらしいので、流石に滞在期間は私達より短いのだが。
それはつまり、フォルト様もエヴァン様も、勿論ニャーさんも来るって事で。
フォルト様と会える機会を作ってくれてありがとうございます、殿下。と、こればっかりは素直に殿下に感謝した私なのだった。
いつもありがとうございます(*´꒳`*)




