第15話 入学2日目の朝
「ふぁぁぁ…………」
私はフカフカのベッドの上で、あくびをしながら腕を伸ばした。
おはようございます、入学2日目の朝です。
昨日は寮に戻ってきてから荷物を片付けたり、シェリの部屋にお邪魔したりと、なんだかんだ色々してたら、時間があっという間に経ってしまった。
怒涛の入学式からまだ1日しか経ってない事に驚きを隠せないけれど、ひとまず準備をしよう。私はよいしょとベッドから降りて、洗面所に向かった。顔を洗ってから薄くナチュラルメイク(眉を整え、色付きリップクリームを塗るくらいである)をし、部屋に備え付けられているクローゼットから制服を取り出して、いそいそと着ていく。
「世の貴族の方々は、自分たちで支度出来るのかな……?」
15歳で初めての一人暮らしをするようなものだ。まぁ食事は学食があるから心配ないのだけれど、それ以外はほとんど自分でやらねばならない。私は侯爵令嬢という高位貴族よりの貴族だけれど、前世の記憶もあるので、割とスムーズに支度は進んだ。
「う〜ん……髪型、どうしよう……」
昨日は家でメイドのデイジーにやってもらったので凝った髪型だったけれど、今日からは、そうはいかないのである……!
私の髪の毛は癖っ毛で、毛先が勝手にくるるんと緩く巻いた状態になってくれているので、巻く手間が省けて有り難い。ちょいちょいとクシで軽く解かしてから、万能アイテムであるカチューシャをスチャッと装着した。
「これでよし!」
簡単且つ手抜きだが、学園に行くわけだしこれくらいで問題ないだろう。姿鏡で全身を確認してから、私は部屋を出て、シェリを朝食に誘いに行くのだった。
シェリの部屋は公爵家専用なので、警備の関係上フロアが違う。さらにはメイドや従者の付き添いも許可されていている為、部屋に入ると中には更に複数部屋があり、他の人よりも広いのだ。ここは本当に学生寮なのかと問いたいレベルである。
ちなみにシェリの部屋まで迷子にならない様に、昨日のうちにバッチリ予習済みだ。あと、実は私の部屋も、何かあった時に早く駆け付けられるように、シェリの部屋へ最短ルートで着く部屋をこっそりと手配してもらっているのである。名目上はそういう事になっているけれど、遊びに行きやすいし、普通に嬉しい。
部屋の前に、よくお見かけするカルセルク家の従者の方が待機していたので、声を掛けて呼んでもらう。すぐにシェリが出てきた。
「おはよう、アリス」
「おはよう。混まないうちに朝食に行こう〜?」
寮内にある学食の朝食は、自分で食べたい物をチョイスしていくバイキング形式になっていた。食べる量を自分で決められるから有り難い。私たちはそれぞれ食べたい物を選んで席についた。
「えっと、今日は1限が学園の探索でしょう? 残りの午前時間が魔法学の座学で、午後は実技。で合ってる?」
指を折り数えながら私はシェリに確認した。
「そうね、今日は魔法の初歩を座学で学んで、ついに初めて魔法を使ってみるって事よね。今度ある魔法薬学や魔法石学は実験もあるって聞くし、どれも楽しみだわ」
うんうん、どの授業も楽しみだ……!
私は冷えた牛乳をコクコクと飲みながら、目を輝かせたのだった。
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教室には無事、遅刻せずに余裕を持って到着した。まぁシェリも一緒だから迷う事はあり得ないのだけど。
「おはよう。ラウル君も遅刻は免れたね」
「おはようございます。寮から教室までの道は覚えたから、もうバッチリですっ」
自分の席に着き、教室を見渡すと人はまだ、半分位しかいなかった。気のせいかもだけど、特に女の子が少ないような……? やっぱり貴族の子は慣れない支度に手間取っているのだろうか。
「2人とも〜おはよ〜」
「「パタナーシュ様、おはようございま……す?」」
私たちのそばにやってきたパタナーシュ様の姿を見て、あれ、となった。髪が結んでないぞ?
私たちの視線に気づき、よくぞ気づいたと言わんばかりに、私の机に手を乗せてしゃがむと、言葉を続けた。
「俺ね、自分で髪の毛結ぶとグチャグチャになっちゃうの。結んでくれない〜?」
「えっ、じゃあ今までやってもらってたんですか? ……1つ結びを?」
どこのお貴族様だ……!
1つにくらい普通結べますよね……! いや、そういえばこの人、こんなゆるい感じだからついつい忘れそうになるけど、帝国のお貴族様だった。
「私がパタナーシュ様の髪に触れたら、クラスの女子から嫌われる事間違いないので、丁重にお断りしますっ」
「僕もですっ」
私たちは息ピッタリに、サッと目の前でバツ印を作った。
「えぇ〜〜〜 2人ともつれないなぁ。ていうかルネって呼んでって言ってるのに〜」
「たしかに、パタナーシュ様だと毎回話す時に長いものね。それはありです」
「ですね、変更させていただきましょう」
私とラウル君は、コショコショと内緒話をして検討を終えた。今日からルネ様と呼びましょう、そうしましょう。
「ん? この髪を結えばいいのか?」
しゃがんだルネ様の後ろを、赤髪ポニーテールの女の子がフラッと通りかかったかと思うと、パパッとあっという間にルネ様の髪を一括りにしてまとめた。
「すごい……綺麗にまとまってる!」
「自分で毎朝やってるからな。慣れれば簡単だぞ?」
私の驚いた声を聞いて、ニッと笑う女の子は、たしかサラ・ナースズ様だ。ナースズ辺境伯の長女で、騎士を目指してると自己紹介で言っていたはず。
戦う女の子、かっこいい。私は運動神経がすこぶる悪いのですごく憧れる。これは是非ともお友達になりたい案件である。
「ナースズ様、ですよね? アリスティア・マークと申します。よかったら仲良くしてくださいっ」
僕も俺もと、男子2人も私に続いて自己紹介した。
「サラでいいよ。よろしくな、アリス、ルネ、ラウル」
やだ、サラは見た目も中身もイケメンだ。これはシェリに報告しなきゃだわ。
結局、何人かは始業のチャイムが鳴るギリギリに来たので、グレイ先生が言ってた事は、あながち間違いじゃなかったのである。
「よーし、全員集まったか? じゃあサクサクっと行くぞ〜」
グレイ先生を先頭に、魔法学園の探索スタートだ!
いつもありがとうございます(*´꒳`*)