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第145話 夢から覚めたら

 



 ふわふわ、ぽわぽわ。何だかあったかくて心地よい。


「これって夢の中だよね」


 そりゃそうだ、だって魔力枯渇で倒れたんだからと、自問自答した。


 ちょっと不思議で、変な感覚。夢の中にいるのに、まるで現実世界のような。これが魔力枯渇の状態なんだなぁと、呑気にしみじみと思う私である。


 それから少しして、賑やかな声に釣られてか私の意識がふわりと、少しだけ現実世界に浮上したのだった。




 ────────────────




「あのっ、どうしてアリス様はまだ目が覚めないんですかっ……!?」


「全くもう……これ聞かれるの、何回目かしら……あの子は元々魔力のキャパシティが大きいから、意識が戻るのには、ある程度の魔力が貯まらないと無理なのよ」


 目が開かない私は、ニコラ先生の話を夢うつつに何となく聞き流しながら、そうだったんだと納得する。


「4大魔法の魔力譲渡魔法だって、使える人が限られているから、まだ解明されている事が少ないんだもの」


「確かに……殿下が魔力譲渡魔法を使う時、データはまだまだ足りないから、自分が積極的に使おうと思っているっておっしゃってました」


 そう話すシェリらしき声も聞こえた。


「でしょ? アンタ達2人は、もうこの子の魔力譲渡魔法を体感したから分かると思うけどね? この子は自分の魔力を他人に送って、それを更に他人が使えるようにサポートしてたのよ? それってきっと、アタシ達が思っているよりも、何倍もの魔力を消費するハズなの」


「はい……そうですよね……」


「だからね、もう少し休ませてあげなさいな。目を覚ましたらすぐに連絡してあげるから。ほら、ポトリー君は怪我した箇所も確認するわよ! いい加減、全員一旦退出しなさい」


 皆を追い出すニコラ先生の声が聞こえた。


 私は心配かけてごめんね、と思いながら、また夢の世界へと意識を手放すのだった。



 ──あれからどれくらい時間が経ったんだろう?


 再び遠くから聞こえたのは、ニコラ先生と誰かの話し声。その後すぐに、カーテンが静かに開く音と、誰かが私のベッド横の椅子に座った気配がした。


 その人の手が、私のおでこにそっと触れる。その動作も触れた手のひらも、優しくて温かかった。



 何でだろう。誰かわからないのに、心地よい。


 私、この手を離して欲しくないなぁ。



 ──なら、そろそろ目を開けないと。この人、どこかに行っちゃうかもよ?


 夢の中の私に語りかけられて、それは嫌、と思った私はゆっくりと瞼を開いた。途端、フッと茜色の光が差し込んだ。


 今日の空の色だろうか。綺麗だなぁと思いながら、私は優しい手の持ち主の方へと、ゆっくり視線を移した。


「フォルト、様……?」


「……っ! ……アリスティア」


 目が合ったフォルト様の瞳は、何だかとても優しくて、いつもよりもキラキラと透き通っていた気がした。


「心配、かけちゃいましたか?」


 なんだか今にも泣きそうな表情でこっちを見つめるから、もう大丈夫ですよって伝えたくて。私はおでこに添えてくれていた手を自分の手で引き寄せて、絡ませたその指にそっと口付けした。


 以前、フォルト様がしてくれたみたいに。


 ハァ、と安堵からか溜息をついたフォルト様は、私の存在を確かめるように、絡めた手をギュッと強く握り返した。


「目が覚めると分かっていても、心配したんだ」


「……はい。いつも心配ばかりかけて、ごめんなさい」


「アリスティア」


「はい。ただいまです」


「おかえり」



 お互いの視線が、自然と重なり合う。


 夕日が沈みそうな、深い赤色でいっぱいの部屋で。私達は引き寄せられるように唇を重ねていた。




 ────────────────




 ニコラ先生の診察を終えて、私はひとまず様子観察という事になり、今日はそのまま保健室に一晩泊まるようにと言われた。どうやらまだ完全には魔力量が回復していないらしい。


「うぅ、丸1日寝てたのにですか……?」


「何言ってんの。アンタの魔力量を考えたら想定の範囲内よ。色んな子達がアンタが起きてないかって何度も保健室に来るから、今世紀最大に騒がしかったわぁ……」


「そ、それは色々と申し訳ないです……」


 私は試験当日の夕方から眠っていたらしく、目を覚ました今は、もうあれから2日経った日の夕方に差し掛かろうとしていたのだった。どうりで目を覚ました時に、空が夕暮れの色をしていたと思った。


「ていうかアンタ、熱でもあるの? ほんのり顔が赤い気がするんだけど……」


「いっ、いいえ!? ないです、魔力以外は元気いっぱいです!」


 さっきの(キス)は、恥ずかしすぎて絶対誰にも言えない……!


 フォルト様は、私が目を覚ました事を皆に報告しに行ってくれ、戻ってきた時にはシェリと殿下も一緒だった。もう夕方でアリス自身はまだ安静にとの事だからと、他のメンバーはどうやら遠慮してくれたらしい。


 シェリから、皆ホッとしていたわと聞いて、嬉しいような申し訳ないような気持ちでいっぱいになったのだった。



「さてと。ニコラに追い出される前に、アリスティア嬢は色々と聞きたい事があるんじゃないか?」


 ……どうやらニコラ先生の設定した、厳しい面会時間があるらしい。


 ちなみに私はベッドから起き上がるのも禁止されているので、3人に囲まれながらモフモフしたお布団に包まれていた。……なんか、元気なのにすみません。


「はい。あの、私達が倒れた後って結局どうなったんですか……? お恥ずかしながら、全く記憶がなくて」


「そうだね、じゃあそこからの一部始終を、簡潔に話そうか」


「……へ? え、で、殿下がお話してくださるんですか?」


 てっきりシェリが話してくれると思ったんだけどな?


「というか、1年生の実技試験の一部始終を、なんで殿下がご存知なんでしょう……?」


「寝起きにしては勘が鋭いね、アリスティア嬢」


 そう言いながらクスクスと笑った殿下の口から、実技試験の後日談という名の、驚きの展開が語られたのだった。




いつもありがとうございます(*´꒳`*)

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