第144話 私の、4大魔法の使い方
バッとグラウンドに目を向ける。目を凝らすとサラやシェリ、ミレーユ、ルネ様がいるのが見えて、私達が大きく手を振ると手を振り返してくれた。
よかった……皆、無事にゴール出来たんだね。
「グラウンドの中心にある円が見えるかの? あの魔法で引かれたラインの中がゴールじゃ」
学園長が指差した場所は、線引かれた白線の様なラインが魔法によって光っていた。なるほど、あそこの円に踏み入れればゴールになるのか。
「……うん? これは……ちと急がないと、順位がマズイかもしれんな」
「へっ!? 本当ですか!?」
「なに、まだ間に合うから安心しなされ。今こそ学んできた事を活かす、魔法の出番じゃろう?」
そう言って学園長はニンマリと笑った。
そっか。ここからなら、上手く魔法を使えばゴールまで一直線だ。そして幸いにも、私とラウル君は風属性持ちである。
「ラウル君、風魔法で一緒に……」
「……アリス様。先に魔法を使って、ここからゴールに向かってください」
「えっ!? な、なんで? ラウル君は……?」
「実は僕、魔力がもう底をついてしまっているんです。これ以上魔法を使ったら、魔力枯渇で倒れて、それで失格になってしまいそうなので」
えへへ、と困った様に笑った。
「大丈夫ですっ! 自力で走ってグラウンドに向かいます! すぐに追いつくので、先に行ってください!」
「そんな……」
ここからグラウンドまでの距離を、魔法を使わずに走って行くなんて、間に合う保証はどこにもない。それに防御魔法だって、もしも切れてしまっていたら、掛け直す事も出来ないのだ。妨害行為を防げなくて危険なのに。
何か私に出来る事はないの……?
でもこの試験、確かゴールする為には、最後まで自分で魔法を使ってじゃないと違反になってしまうって、ルールブックに書いてあった気がする。
そんな時、頭の中に1つの可能性がポツリと浮かんだ。
「あの魔法なら……」
これならラウル君もルール違反の対象にならない筈だし、ここから一緒にゴールへ向かえる。
でも、もしそれをしたら──……
「アリス様……?」
心配そうな顔をしたラウル君と目が合って、悩んでる暇なんてなかったんだと思い直した。
私は自然と魔力を纏って、ほとんど無意識にあの特別な魔法を唱えていた。
『思い連なる魔力を、君に捧ごう』
またこの魔法を使う時が来るなんて、思ってなかったけど。
『|名もなき4色の贈り物《名もなきカラーズギフト》』
魔力譲渡の魔法、何だかんだで私、好きなんだと思う。
誰かの助けになれているって実感するから。
淡く光った私の魔力が、ふわりふわりとラウル君の手のひらに吸い込まれていく。
「えっ……!? これって4大魔法の……!?」
「……今まで黙っててごめんね」
嫌いになられちゃうかな。……それでも私は。
「自分の秘密を黙っているよりも、大事な友達と一緒に進級したいと思ったから」
それに、これは元々ラウル君にも言おうと思っていた事だ。
そして、例え4大魔法を使ったのを、ゴールにいる皆に見られてしまっていたとしても。今このタイミングで伝えた事に悔いはないのも、全部私の本心だから。
「アリス様……」
「色々話したいし、きちんと謝りたいんだけどね、とにかくまずは私達、ゴールしないと! ここからの飛距離だと、風の上級魔法を使わないと危ないかもだよね?」
「……はい! そうですね……試した事はないんですが、恐らく浮遊の上級魔法じゃないと難しいかと思います」
私はラウル君の言葉に、こくりと頷いた。
得意な属性の魔法とはいえ、いきなりの上級魔法だ。失敗するかもしれないと思うと、少し怖い。私達は互いに手を差し出してギュッと握ると、手すりに近づいた。
「最後まで気を抜かずにな、あと少し頑張るんじゃよ」
「はいっ!」
魔法を使う直前、私がくるりと後ろを振り向くと、学園長と目が合った。
学園長は、私達を優しい瞳で真っ直ぐに、微笑みながら見つめていた。
「学園長!」
「うん?」
「やっぱり私、4大魔法は誰かの為に使いたいみたいです!」
遠回りして、やっと見つけた。
これが私の、4大魔法の使い方。
「……そうか、マーク君は自分の行く道が定まったようじゃな」
学園長からの言葉に、私はくしゃりと笑って、大きく頷いた。
「ラウル君、行こう!」
「はいっ!」
『花散らぬよう、我を包め』
『風よ、風の花よ』
どこからともなく巻き上がった風が、優しく私達をそれぞれ包み込む。
目的地は、皆のいるあの白いラインの向こう。浮力を感じ取ったら、あとは目的地を魔力で定め続けるだけ。
連れて行ってよ、アネモス。私達の目指すゴールまで。
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「よ、よかった……着いたぁぁぁ……」
何とかゴールまでギリギリ魔力も足りた……!
──『アリスティア・マーク、ラウル・ポトリー、同着!!!』
グレイ先生の声が高らかに響く。
そしてワンテンポ遅れて、ワァァァッと、大きな歓声が湧き上がった。
「うわっ!? すっ、すっごい歓声ですね……!?」
「う、うん……どこから響いてるのかな……?」
地面に手を付いてハァハァと息を切らした私達は、周りを見渡しながら、途切れ途切れにそう呟いた。
ここにいるゴール済みの生徒達の声にしては、ヤケに多い気がする。まるで、スタジアムにいる満員の観客に囲まれているかの様だった。
な、なんでだろう……?
ポカンとしていると、今にも泣きそうなシェリとミレーユや、心配そうな顔をしたサラやルネ様が駆け寄ってくる様子がボンヤリと視界に映った。
「あ……あれ?」
次第にふにゃりと身体に力が入らなくなる。
私とラウル君は、肝心の順位を聞く事なく、そこで意識がパタリと途絶えたのだった。
「……あぁ、これが誰しもが一度は体験する、魔力枯渇なんだ」
私は僅かに残っていた意識の中で、一瞬そう思ったのである。
いつもありがとうございます(*´꒳`*)