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第138話 悩める子リス

 



 テスト週間に入った私は、シェリと保健室で試験勉強に励んでいた。


 というのも、多忙な殿下が今日こそはシェリに少し会える時間が取れそうだ、との事で、殿下を待つ間ニコラ先生に保健室を提供してもらったのである。


 後期試験の内容は勿論前期試験と違うけれど、テストの流れ自体は全く同じだ。筆記試験は、特に問題なく当初の日程を終える事が出来そうである。


 私達は、週明けから始まる魔法実技試験に向けて、対策を練っている所だった。


「攻撃魔法は、初級までしか使えない制限があるでしょう? 攻撃よりも、生活魔法とか便利な魔法をなるべく沢山覚えて準備していた方がいいわよね……」


「そだねぇ……あと問題は、それぞれに配られる謎じゃない? 魔法の知識とか歴史に関係してるのかな……」


「ほらほら、ちょっと休憩したら?」


 ニコラ先生が長テーブルに紅茶とクッキーを置いてくれる。


「ありがとうございます」


「いただきます〜」


 頭を使った後は糖分をしっかりと摂らないとね。ミルクティーとチョコチップクッキーの甘さが、身体に染み渡る。


「アンタの作るお菓子、また食べたいわねぇ」


「試験が無事に終わったら、お礼も兼ねてすぐに作って持ってきますよ!」


 試験が終わると開放感からか、お菓子も色々と作りたくなるんだよね。学園でってなると、シェリの部屋を借りる事になっちゃうから、まぁそんなに頻繁には作れないのだけど。


「それにしても……ラウル様の件、心配ね」


「うん……ルネ様が気にしてくれてるらしいけど、あれから特に音沙汰なしだね……」


 あの日から分かった事といえば、どうやらラウル君は私だけではなく、いつものメンバー全員を何となく避けているようだった。


 だからルネ様も、中々ラウル君に聞き出せない状況みたいなんだよね。ましてや後期試験も始まってしまったから、あまりラウル君と顔を合わせられていない。


「そんなに色々心配事を抱えちゃって……大丈夫なの?」


 ニコラ先生には、試験勉強の前にフォルト様との一件を相談というか、恋愛トーク的な事をしていたので、伝わっているのだ。


「あ、試験は試験、それはそれですから。その辺はちゃんと気持ちを切り替えてやってます」


 そう言って、ふんすと、手をグーにして気合いを入れる私。


「ウジウジしてんのかと思ったら、アンタ意外と割り切れるタイプなのね……」


 何か心配して損した気分だわぁ……と、ニコラ先生に呆れられた。


「いやいや、逆に考え込み過ぎると、それしか考えられなくなっちゃうので……」


 現に、私の脳内は試験と、フォルト様との関係、それからラウル君の件の、3つの問題がひしめき合っているのである。なので私の脳内にいるミニ私が、試験にベクトルを合わせていないと、試験が疎かになるのは間違いないのだ。


 それだけは避けとかないと、進級に影響があるからね……! ラウル君とこのままの状態でクラスも離れちゃったら、絶対に後悔するって断言できる。



「くぁ〜……」


 保健室の奥のベッドから、小1時間程お昼寝をしていたニャーさんがモソモソ起き出してきた。


「あれ、ニャーさん起きたんですか?」


「甘い匂いがしたからな〜」


 ドカッと私の隣に座ったかと思うと、ヒョイとテーブルの上にあったクッキーを1枚、1口で頬張った。


「あ、そーいやさ、ユーグとフォルトが、あと1時間位で学園業務が終わるから、終わり次第お前さん達を迎えに来るって言ってたぞ」


 ……クッキーでいっぱいになった口をモゴモゴとさせながら話すニャーさんを見ながら、私とシェリは、え? と目が点になった。


「……ニャーさん、それ言うの遅くないですか?」


「1時間前にそれをおっしゃってたって事は……」


「お待たせ、迎えに来たよ」


 そう私達が考えたのとほぼ同じタイミングで保健室の扉は開き、いい笑顔の殿下と、私がすごく会いたかった人はやって来たのだった。




 ────────────────




 久しぶりに会えたなぁ……


 新学期が始まってから全然会えていなかったし、少し会えただけでこんな風に感動さえもしちゃうなんて。


 試験で疲れてたせいか、私は顔を合わせたフォルト様をジッと見つめながら、しみじみとしてしまった。


「疲れたのか?」


 フォルト様は、ボンヤリしていた私の頬を、すり、と優しく撫でる。その手から伝わる体温の心地良さに、一瞬ウットリしそうになった。


「わ、わ、すみません! ボケッとしてました……!」


「うん? 試験勉強、頑張ってたんだろう? いいよ」


「フ、フォルト様だって試験もあるのに、沢山お手伝いされていて……お疲れ様ですっ……」


「う〜わ、久しぶりに激甘間近で見ちゃったわぁ〜……」


 ソファーで未だ寛ぐニャーさんの声が聞こえてきたけど、私の正面にいるフォルト様は何故か私の頬に添えた手を離そうとしないので、そっちを向いて弁解出来なかった。


 ……離れたくない気持ちが私にもちょっぴりあるから、恥ずかしいけど少し嬉しいのは内緒だ。


「ちょうどいいわ。アタシ職員室に用事があるから、席を外してあげるわよ」


 全く、世話が焼けるわね〜と言いながら、机から書類をいくつか取ると、出て行こうとするシェリと殿下、ニャーさんの後についた。


「えっ、あの、ニコラせんせっ……!?」


「……15分位で帰ってくるから、それまでにフォルトに聞きたかった事、サクッと聞いちゃいなさいよ」


 驚いた私が、バッと先生に目を向けると、バチッとウィンクをされた。神様はここにいた……!


「フォルト、アンタ保健室(ここ)でうっかり手を出さないでよね?」


「……ニコラのテリトリーで何かする程、馬鹿じゃない」


「ふぅん、ならいいけど? まぁアタシが疑ってんのは、アンタの手を出す(・・・・)とアタシの手を出す(・・・・)の、認識の違いなんだけどね……」


 そう(たの)しげに笑うと、軽快に保健室の扉を閉めたのだった。




いつもありがとうございます(*´꒳`*)

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