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第136話 甘えてほしい

 



「冗談だよ」


 ゲンナリした私の顔を見て、殿下は笑いながらベンチから立ち上がった。


「ま、僕が今話した事は、何となく答えを考えておいたらいいかな〜位に思ってもらえたらいいよ」


「はぁ……分かりました……?」


「そろそろフォルトが来そうだから退散しようかな。アリスティア嬢、また新学期にね」


 殿下はユス君にも軽く手を振ると、颯爽と飼育場から出て行かれたのだった。


 ユス君がテテッと私の元へと駆けて来る。


「アリスお姉ちゃん、殿下は何のご用事だったの?」


「う〜ん……()えて言うなら面談、かなぁ……?」


 又はただの冷やかしか……


 殿下って、シェリの事ならすぐ顔に出るから分かりやすいんだけどなぁ。逆にそれ以外の事は上手に隠されてるから、何を考えていらっしゃるのか謎なのだ。



「2人とも、ごめん。待たせたな」


「フォルト様」


「フォルトお兄ちゃん」


「今日に限って、ユーグに余計な仕事を追加で押し付けられた」


 自分がシェリに会えないからって、地味な嫌がらせだな、と言いながら顔を(しか)めている。


 ごめんなさい、フォルト様。その殿下……ついさっきまでここにいて、楽しげにお喋りしてました。


「えーっと、お疲れのようなので、今日は動物達と触れ合って、癒やしていただいた方がいいと思います! まずはりーちゃん、出番だよ!」


「キュイ!」


 私の肩にいたりーちゃんが、シュタッとフォルト様の肩へと飛び移る。天才リスザル、りーちゃんである。


「お前、りーちゃんって名前になったのか」


「……っ!」


 フォルト様がちゃん付けで呼ぶの、何か新鮮で可愛い……!


 私は口元に手を当てて、(しば)しギャップ萌えにコッソリと(もだ)え苦しんだのだった。



 フォルト様が加わって、室内飼育場の見学を再開した私達は、馬のいる厩舎(きゅうしゃ)にやって来た。馬を見上げて唖然(あぜん)とした様子のユス君である。


「ちょっと怖いかな?」


 私の問い掛けに、ユス君はプルプルと首を横に振った。


「思ってたより、近くで見ると大きくて、ビックリしただけ」


「そっか。大丈夫、ここにいる子達は皆、穏やかで優しいから」


 ね、と私の背に合わせて首を下げてくれた馬に、そっと手を添えた。


「ユス。動物は優しい人をすぐに認識できる、不思議な力を持っているんだ」


「だからアリスお姉ちゃんは人気者なんだね」


「いやいや、人気者じゃないよ……? 私はニンジンとリンゴいう名の、素晴らしいアイテムを2個持ちしているからね」


 はい、スーパーアイテムを君にも授けましょう、と私はユス君にパスした。


 そして飼育場内を大方回り終えた頃には、ユス君は色んな動物にすっかり慣れた様子なのだった。




 ────────────────




 飼育場の見学を終えて、私達3人は休憩も兼ねて、カフェテリアに立ち寄った。カフェテリア内は、休暇中なので普段よりも人が少なく、まばらにしかいないみたいだ。


「ユス、魔法学園は楽しそうだろう?」


「うん、凄く面白そう。……でも、学園が始まったら、アリスお姉ちゃん達にまた会えなくなるから……」と、シュンと視線を下に向けた。


「ユスもすっかり自分の感情を上手に出せるようになったんだな」


 向かい側に座っていたフォルト様は、そう言って優しく微笑んだ。


「私が休み明けに学園に戻っちゃうから、寂しいって思ってくれたんだね」


 勿論私だって、ユス君とまた暫く会えないのは寂しいけれど、そう思ってくれている事がちょっと嬉しく感じてしまった。


「でもね、学期末の最終試験が終われば、あっという間に春季休暇になるんだ。だから1ヶ月ちょっとで、すぐ家に帰ってくるからね」


「うん……分かった。2人とも、試験頑張ってね」


 私達はユス君からのエールに、ありがとうとお礼を言ったのだった。



 それから、手紙には書ききれなかったお泊まり会での出来事を、フォルト様に色々と話した。勿論、サラとミレーユに秘密を伝えた事も。


「そうか……2人にも伝えたのか。俺もその選択、間違っていないと思うぞ」


「ありがとうございます……無事に言えて、少しだけ肩の力が抜けたような気がします。でも伝えるまでが凄く怖くて。シェリにも沢山相談に乗ってもらっちゃいました」


 少し甘え過ぎちゃったかもしれないです、と照れ笑いをした私を見て、フォルト様がポツリと呟いた。


「……ちょっと妬けるな」


「え……? シェリにですかっ……!?」


「俺にも、甘えてくれて構わないんだけど?」


「あまっ!?」


 衝撃的な発言に、私はガタタッと思い切り音を立てて、椅子ごと後ろにのけぞった。


 少し離れた席にいる、他の生徒たちや一般の方から、どうしたのかと視線を受ける。


「す、すみません……」


 ペコッとして、椅子に座り直す私である。落ち着け私、また揶揄われてるってば。いい加減学ぼう。


 フォルト様は、むぅ……とちょっと不機嫌な私に、ほんのりと意地悪な、でも甘さを含んだ笑みを向けてきた。


「言っておくが、嘘じゃないぞ。アリスティアが甘えてくれるなら、全力で可愛がる」


「ユ、ユスく……」


「大丈夫、僕は今、パンケーキに夢中」


 頼みの綱のユス君は、バニラアイスメープルシロップがけのパンケーキをいそいそと切り分けながら、目線を上げずにそう言っている。


 こんな時は、空気を読まないでいいんだよ……!?


「あぅ……」


 いくら人が少ないといえど、学園のカフェテリアで甘えるなんて。……そもそも甘えるって何をしたらいいの!?


「その件に関しましては、学園が始まるまでの宿題にさせてください……」


「答え合わせ、楽しみにしとく」


 ふくく、と笑ったフォルト様を、私は真っ赤な顔で見上げていたに違いない。


 ……冬の課題はもう終えた筈なのに、何で今日は宿題が増えていくんだろうか。




 ────────────────



「──ハッ……!? フォルト様に揶揄われてオーバーヒートしてたら、すっかり忘れてた……!」


「え? 忘れ物?」


 帰りの馬車の中で、外の景色を眺めていたユス君が不思議そうにこちらを見た。


「物じゃなくて、聞くべき事を聞かずに帰って来ちゃった……」


 ダメだ、幸せボケしてるのかな、私。お付き合いの事もまだハッキリしてないのに、会えただけで嬉しくて、ポワポワ浮き足立ってる気がする。


 学園が始まってから、聞けるタイミングがあればいいんだけど。


 試験もすぐに始まるし、フォルト様もきっと忙しいだろうし……休み明けは、何だかドタバタになりそうだ。




いつもありがとうございます(*´꒳`*)

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