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第134話 ちぐはぐな心

9/8(水)にも更新をしております。まだの方は、よかったらそちらからどうぞです。

 



「そういえばさっきのシェリ! サラの魔法枯渇の状態をすぐに判断してて、かっこよかったなぁ〜」


 私に褒められたシェリは、えぇっ? と驚きながら、照れた様子でおずおずと話し始めた。


「……光魔法の勉強をしてると、やっぱり治癒について学ぶ項目が多いの。私なんてまだまだだけど、今後もし治癒魔法を使う場面に出くわした時、キチンと判断できるようになりたくて」


 少しは勉強の成果が活かせたかしら、と小首を傾げて微笑んだ。


「お医者様もシェリと同じ見解だったし、バッチリだったと思うよ」


「ありがとう、アリス。それとね、私、ここ最近ずっと考えていたのだけど……2年の選択科目は医療の事についても学べる、魔法薬学に進むつもりなの」


「おぉ……シェリは魔法薬学かぁ。ミレーユは決まってる?」


「私も魔法薬学には少し興味があるけれど、今のところは錬金術学かしら……今日も魔法石作りをしながらデータを取るのが、結構楽しかったのよね」


「ふむふむ……そこで寝てるサラは、聞かずとも魔法騎士学を選ぶでしょ? うわぁ、皆決まってて凄いなぁ……」


 私は未だに決まっていなかったので、皆が案外ほぼほぼ決まっている様子に、ちょっと焦る。そ、そろそろ決めないとな。


「もしアリスが魔法師学を選んだら、皆見事にバラバラになるわね」と、クスクスとシェリが笑った。


「そうね。あ、でもルネ様は魔法師学に進みそうじゃない? ラウル様は、魔法薬学かしら……アリスやルネ様と同じ3属性持ちなら、魔法師学も捨てがたい所よね」



 うん……? 3属性?


 私はそう話すミレーユの言葉にふと、引っ掛かりを覚えた。


 あ、そっか。そういえば私の4属性持ちの件って、サラやミレーユ、この場にいないけどラウル君にも、結局黙ったままなんだよね。


 いつも一緒のメンバーの中でも、ルネ様にだけはあのシェリ誘拐未遂事件の時にバレちゃったのだけれど、皆には黙ってくれているのだ。


 公表は避けて、隠しておきたいって……自分で言った事だけど、大事な友達にこのままずっと黙ったままでいるのって……どうなんだろう。


 4属性だという事がバレそうになる度に、ツキンと心が痛み、考えてしまう。


「アリス? どうかしたの?」


 不思議そうな表情を浮かべたシェリに話しかけられ、私は慌てて首を横に振った。


「あ、ううん。何でもないよ」


 伝えたい気持ちと、隠すと決めたんだからと、踏み止まる気持ち。


 実はずっと静かに(くすぶ)っていたのかもしれない。


 私の心の中で起き始めたそんな矛盾が、また少しだけ、チクリと胸を刺したのだった。



「くぁ……」


 2時間程して、サラがむくりと起き上がった。スッキリとした表情で、どうやら程よいお昼寝タイムを過ごせたようである。


 私はデイジーに頼んで、お医者様を呼んできてもらう。


「体調はどう?」


「多分、問題なさそうだ。魔法枯渇ってあんな感じになるんだな」


 そう言いながらサラは、んー、っと両腕を上へと伸ばした。


「サラは魔力量が人より多いから、軽い症状で済んだけれど……それでも魔法石作りで魔力が枯渇しそうになるなんて、やりすぎよ」


 シェリはそう言いながら、お医者様の横で一緒にサラの様子を確認しながら、プンスコしている。


「確かに意地張ってやり過ぎた。ごめん」


 珍しいシェリの様子に、流石のサラも反省気味である。


「まぁ、シェリも私達も、それだけ凄く心配してたって事! 起きれそうならこっちで水分摂った方がいいよ」


 私とユス君は、チョイチョイとサラを手招きした。


 お医者様のチェックも済み、身体も特に異常ないので、もう大丈夫でしょうとの事だった。


「アリスの家にも迷惑かけたよな。ごめん」


「いやいや、気にしないで? これでも侯爵家だから、一応マーク家お抱えの主治医がいるもんで」


「さ、お医者様からも許可が下りた事だし、忘れない内にさっきの魔法石の件、レポートにまとめましょうか?」


 サラが寝てる間に、私達は済ませてしまったけどね、とミレーユがニッコリと笑った。


「レ、レポート……」


 レポートを書かねばいけないいう事実を思い出したサラは、再び絶望している。


「手伝うよ」


 ユス君がポフポフとサラの腕を叩いて慰めていた。


「ほんとミレーユって、何か一枚上手なお姉さんっぽいよなぁ……」


「たまに母様みたいな時もあるわよね……」


 私とシェリは何だかしみじみとしながら、その光景を眺めていたのだった。




 ────────────────




 その日の夜。


 後はもう寝るだけの状態で、ベッド横の灯りを消そうとした時に、シェリから話しかけられた。


「ねぇ、アリス。昼間はどうしたの?」


「へ?」


「選択科目の話をしてる時、何だか考え込んでたみたいだったから。アリスは何でも1人で考え過ぎるところがあるから、ちょっと気になって……」


「うっ、私まで心配かけてごめん……」


 私はポツリポツリと、今モヤモヤしている事をシェリに打ち明けた。


「……あのね、アリスの事を決める権利が、王家にある訳じゃないわ。アリスにあるの。だから例え気持ちが変わったとしても、それを我が儘だなんて言う人はどこにもいないわ」


 優しいシェリの言葉が、ベッド横の小さな灯りの様にじんわりと暖かく広がる。


「それに、秘密を守ってくれる友達が何人もいるのって、逆に安心じゃない?」


「勿論そうだけど……」


 ……多分私は、今更秘密を打ち明けて、皆から嫌われたり、悲しませたりするかもしれない事が怖いんだと思う。


 それでも、シェリの言葉が私の心を軽くしてくれたのも確かだった。


 伝えたい人には、自分が後悔する前に伝えなきゃ、だよね。


「うじうじ考え込んでても、1年ってあっという間に経っちゃうよね……うん、前向きに考えてみる」


「不安だったら、話す時に私も一緒にいるから」


「ありがとう……でもさ、シェリが婚約者に確定したからには、今後危険な事が起こり得る可能性も、ないとは言えないよ?」


 前みたいに、他国から狙われる可能性だってあるはずだ。


「私も魔法についてこの約1年でだいぶ学んだし、自己防衛も少しは出来るから大丈夫よ。それに……」


「それに?」


「で、殿下が、これからはもっと側で守るからと、おっしゃってくれたから……」


 照れ照れとしながらそう呟くシェリに、私は漫画みたいにガーン! となった。


 何か、ちょっと……もしかして私、お役御免みたいな……?


 いや、ていうかシェリを完全に奪われた気がして、かなり寂しいんですけど……!


「ぐぅぅ……殿下めぇっ……!」


 私はクッションを抱えて、ピョンッとシェリのベッドに飛び移り、うりゃっとシェリに突撃した。


 きゃー!、と笑いながら倒れ込んだ私達。そのまま枕投げならぬ、クッションポフポフ対決になった。


「ア、アリスお姉ちゃん、シェリ様……?」


 部屋に来たユス君が、小さく開けたドアからビックリした顔でこちらを見ていて、私とシェリは顔を見合わせて、思わず吹き出した。


 こんな夜も、たまにはいいよね?



 

いつもありがとうございます(*´꒳`*)

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