第132話 魔法石学 冬の特別編1
ユス君は淡く黒光る天然石を手に取ると、何かを確かめるように手のひらでコロリと転がせてから、魔法を唱えた。
『とこしえの時を刻め 発酵・短縮』
スゥッと石の中に魔力が流れていき、魔力が満タンになった合図をするかのように、石はキラリと輝いた。
おぉ〜……と、自然と拍手が沸き起こる。
「ん、完成」
やっぱり魔法石作りを難なくこなすユス先生は、子供だけど、もう既にこの道のプロなんだなぁ……
「闇の魔法石の特徴、知ってる?」
「えーと……確か、ほとんどが禁忌に触れる物なんだよね?」
「うん。だから闇属性持ちは、魔法の使用とか、魔法石作りに制限がある。それに、許可の下りてない物は、研究所以外で作っちゃダメって決まりになってる」
「なるほど……危険な魔法が多いのは重々承知だけど、もっと日常生活でも使える、便利な闇魔法が生まれるといいね」
自分の使える魔法に制限があるのって、きっと歯痒いよね。そんな私の発言に、ユス君はうん、と頷いた。
「ちなみに今作ったのは、発酵石」
「発酵……って事は、魔法薬学の保管庫に使われてたのって、闇の魔法石だったんだな」
保管庫のおかげで、実習の時の発酵時間が短縮出来て、とっても便利なのだ。
「この位のサイズの石だと、一定期間なら小さい保管庫で使う分には充分」
大体これくらいの保管庫ね、とユス君は説明しながら、自分の片腕を真横に伸ばした。
「でも、もっと大きい保管庫になると、これより大きな魔法石か、数が沢山必要になる」
「なぁなぁ。さっきユスがやってた、手のひらで転がすのって……もしかしてコツだったりするのか?」
「うん。石の重さは大事だから、必ず確かめる。ずっしりとした重みがあるのは、密度が高い証拠。それに合わせて魔力を入れなきゃいけない」
「やっぱり結局のところ、見極めには感覚と経験が物を言うって事なのよね……」
「ミレーユ。何回かは重さを測ったり、教科書の表を見て、確認しながらゆっくりやってみましょう」
慎重派のミレーユとシェリは、どうやら教科書に載っているデータを元に、魔力量を調節していく作戦らしい。
2人とも水の魔法石を作るのかな、と何の気なしにバレッタの天然石を見て、私はそういえば、と気が付いた。
「あれ、ちょっと待って? 私達、自分の瞳の色でバレッタを選んだけど……魔法石にするには、天然石の色と魔法属性が、かなり関係しているんじゃなかった?」
バッとテーブルに並べたバレッタに視線を向ける。
ええっと……天然石の色は私がピンク、シェリが紫、ミレーユが水色、そしてサラが……黒だ。
パラパラと教科書をめくって、魔法属性と色の組み合わせ表を確認する。
色のグラデーションが円状に描かれており、そこにイラストで描かれた相性の良い属性が当て嵌められていた。
ピンクは赤に近い色だから、火魔法でも大丈夫だろう。水色は問題ないし、紫は青と赤の中間に位置していて、青みのある物だから、水魔法に入らなくもなさそうだ。
「……てことは私の選んだ黒って、結構ヤバいんじゃないか……?」
「ちょ、ちょっと2人とも、落ち着いて。できるわよ?」
「へ?」
教科書を食い入る様に見つめていた私とサラは、バッと顔を上げた。
「相性があんまり良くないってだけで、無理な訳じゃないって授業で習ったじゃない? ね、ユス先生」
ミレーユに問い掛けられて、ユス君はコクンと頷いた。
「属性によって、色のイメージが固定されてるのは確かだけど、それ以外の色の天然石も沢山あるから……」
「そっか。よく考えたらそうじゃんね……焦ったぁ……」
私はへなへな〜っと、肩の力が一気に抜けた。
「でも、魔法属性の色のイメージが固定されている、赤、青、黄、緑、白、黒は、それぞれ他の属性魔法を、石に入れるのが難しいっていうのも、ホント」
うーん、とサラの黒い天然石を見て、ユス君はちょっと困った顔をしていた。
「これは、黒の色味がかなり濃いから、特に頑張らないと……難しいかも」
「くっ……! あの時赤を選んでおけばよかったっ……!」
「絵に描いたように後悔してるなぁ……」
打ちひしがれているサラの肩をポンと叩いて、ミレーユがウフフと意味深に微笑んだ。
「サラ、これは逆によかったかもしれないわよ? 天然石の色と属性魔法の敢えて悪い組み合わせをする事で、一体どのくらいの確率で魔法石が完成するのか。いいレポート課題になるわ」
「うわぁぁぁ、面倒な課題がより複雑になったじゃないか……!」
……こんなに絶望しているサラも珍しい。いや、前言撤回。課題に絶望してるのは、いつもの事かもしれない。
あ、でも火と闇持ちの人なら、複合魔法も上手く扱えるだろうから、魔法石の上手な作り方も知ってたりするのかなぁ。
私の頭の中には、火と闇持ちのニャーさんがドヤ顔している姿が、ボンヤリと浮かんだのだった。
ミレーユとサラのコントの様なやり取りを横目で見ながら、私とシェリ、ユス君で、何の魔法石を作るかについて話し合う。
「というか、バレッタの天然石を魔法石にするなら、魔法の種類もちゃんと考えないといけなかったわね」
普段使いするアクセサリーだもの、とシェリが話す。
「そうだね。そうなると、やっぱり無難な生活魔法にする……? あ、それか防御の魔法石とかどうかな?」
「防御魔法?」
「うん。前に、自分にかけた防御魔法が切れてたのにうっかり気付かなかった事があってさ。そんな時でも、これならすぐに発動できて便利じゃない?」
我ながら、ナイスアイディアかも。
しかも防御魔法は、どの属性でも魔力さえあれば発動可能な魔法だ。だからある意味、石の色も選ばないで作る事が出来るんじゃないかな、という訳なのである。
「同じ魔法石ならお揃い感も増すし、比較のデータも取れて、丁度いいかもしれないわね」
「じゃあまずはサラ様。試しに火属性と相性がいい石で、やってみよ?」
ユス先生はそう言って、赤色の天然石を箱から1個出すと、項垂れていたサラの手のひらに乗せたのだった。
いつもありがとうございます(*´꒳`*)
次回更新日は、普段の更新日に追加の形となり、9/8(水)です。よろしくお願いいたします。




