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第120話 ピンクダイヤモンド

 



 穴場カフェでお茶を終えた私達は、そのままニャーさん、もといティーさんも一緒に、通りを巡る事になった。


「この通り、すごく広いね」


 今度は人にぶつからないようにと、私と手を繋ぎながら歩いていたユス君が、辺りをゆっくりと見渡した。


「アンジェリッカ通りは広いから、今日だけじゃ回りきれないかもね」


「ちょっとずつ楽しんだらいいんじゃん? あーさんの家からなら、またすぐに来れるだろ」


「ですね。今日もさっき思いついて、すぐに来ちゃいました」


 まずはお菓子屋さんで、ユス君はお菓子の詰め放題に挑戦。


「私も小さい頃、街に来たら毎回やってたなぁ。好きな物だけを詰めていいっていうのが、すごいワクワクしたんだよね」


 専用の容器に、蓋が閉まるまで好きなお菓子を沢山詰め込んで大満足したのはいい思い出だ。店内にはカラフルなラムネやアメ、大きめのクッキーなんかがズラリと並んでいて、ついつい目移りしちゃうのである。


 試行錯誤しながらお菓子を詰めるユス君を微笑ましく見守っていると、いつの間にかティーさんも一緒にやりだした。


「ちょ、蓋閉まんないですよ? それ……」


「俺の目には閉まって見えてるって」


「ユス君は……おぉ、隙間なく上手に詰めるなぁ……」


 お菓子とお菓子の隙間に小さな玉状のラムネを入れて、凹凸(おうとつ)をなくしているようだ。こんな所でも頭の良さが出てくるとは。



 お菓子を沢山詰めた後は、休暇中に取り組む魔法石作り用の、ユス君分の天然石をいくつか見定める。


 私たちはバレッタだけど、ユス君はバレッタ使わないしな……


「こんなんどうよ?」


 ティーさんが店内で見つけてきたのは、ループタイだった。


 黒い皮の紐で出来ていて、ちょっぴりレトロな感じが可愛い。装飾された留め金の部分も派手すぎず、普段使いしやすそうだ。


「いいですね! ちょうど装飾部分も天然石を付ける事が出来そうですし」


 ユス君も気に入った様なので、これに決定だ。


「そしたら、同じ大きさの天然石を何個か買っておこっか。魔法石作り用だから、色んな色の石を買っておいて損はないし、最終的にユス君が1番気に入ったやつを付けたらいいよ」


「おっ、侯爵家っぽい買い物の仕方してんなあーさん」


 ……変なヤジが飛んできたけど、気にしないのだ。



 次の目的地に向かいつつ、露店エリアを歩きながら見物していた私は、ふと気になる物を見つけて、足を止めた。


「これ、皆の髪色だ」


 前世でいう、ミサンガみたいなやつかな?


 黒、紺、茶色の3色の細い糸で編み込まれたミサンガが目に付いた私は、思わずそう呟きながら手に取った。


 天然石や飾りも特に付いてないけれど、糸自体の色がしっかりとした発色で、素朴な感じが中々よい。


 ティーさんがヒョイッと私の手元を覗き込んだ。


「令嬢がつけるにしては、ちょっと地味じゃねぇの?」


「これ、願掛け? うーんと、お守りみたいな物で、飾りがあんまり付いてない物も結構あるんですよ。この紐を足首か手首に付けて、紐が自然に切れた時に願いが叶うって言われてるんです」


 多分ですけどね? と、一応付け足す。


 ユス君も興味深そうに、私が持っていたミサンガをマジマジと観察していた。これならユス君でも、気兼ねなく付けてもらえるかな。


「よし! 今日のお出掛け記念ということで、お揃いにしましょう!」


 3本ください、と私は元気よくおばあさんに声を掛けた。


「お嬢さんは貴族の方だろう? この紐の事、よく知ってるねぇ」


 おばあさんは朗らかに笑うと、願いが叶いますようにと言って、ミサンガを包んだ袋を渡してくれた。


 ティーさんには先に、1本だけ袋から出して渡す。


「おぅ、さんきゅーな」


 無くさない内に付けとくわ、と言って早速手首に付けてくれた。うん、ティーさんも似合う。


「ユス君には家に帰った時に渡すね。お願い事、考えておいてね?」


「うん、ありがとう……!」




 ────────────────




 それから、最後にフォルト様への贈り物を探すのを、2人に付き合ってもらった。


 あんなに素敵なドレスを贈ってもらったのに、何もしないのはちょっと気が引ける。


 母様にもその旨を相談して、最終的にパートナーとして私の瞳の色の、舞踏会で使える小物を贈ったらどうだろうか、という事になったのだった。


 母様の事前入手した情報によると、フォルト様の夜会服はシルバーだそうで、ピンクでもいい差し色になりそうで安心した。


「アリスが似合うと思う物を、実際に見て選んでいらっしゃい」


 母様はそう言って送り出してくれたのだけど、何にしたらいいんだろうか。


「ピンク色の、舞踏会で使える小物って言ったら、やっぱりアクセサリー……?」


 恋人じゃないのに、アクセサリーなんて渡して、迷惑がられないだろうか……なんて思いつつも、1個のシルバー製のブローチが目に入った。


 氷の結晶と、細いチェーンで繋がっているのは満月のような枠のデザインにはめ込まれた、ピンクダイヤモンド。


 他にも細かな細工がされていて、繊細なデザインがすごく素敵だ。金額も母様から提示された予算内に無事に収まってる。


 にょっと私の横から、ユス君がガラスケースを覗き込んだ。


「綺麗。フォルトお兄ちゃんに似合うね、きっと」


「本当? 私もこれがいいなって思ったから、ユス君にもそう言ってもらえて嬉しい」


 ティーさんにもセンスいいじゃん、とお褒めの言葉をいただき、無事にフォルト様へのプレゼントも購入できた。



 ユス君も沢山楽しんでくれたようで、帰りの馬車の中ですっかり眠っている。


 私としても買いたい物が買えたし、偶然素顔バージョンのニャーさんにも会えて、すごく充実したお出掛けになったのだった。




 ────────────────




「よーし、やるぞ!」


 家に帰ってから、私はフォルト様へのプレゼントに添えるカードを書き始めた。今日は沢山歩き回ってクタクタだったけれど、もう舞踏会まで日にちもないし、早めにカルセルク家に届けてもらわないとだ。


「……楽しみに、しています……っと」


 文章の終わりにウサギと花のイラストを小さく描いて、あとは最後に自分の名前を書けば、完成。


 それからようやく寝る支度を済ませた私は、サイドテーブルのミニランプの灯りを付けて、ベッドに腰掛けた。


 一応私の中で、冬の舞踏会の目標を考えた。私なりにちょっと挑戦したテーマは……少し背伸びした、いつもと違う私。


「フォルト様に釣り合う位、大人っぽい雰囲気になれるかな……」


 そう1人でポツリと呟いて、途端に恥ずかしくなり、うわぁぁぁ……とクッションに顔を押し付けて、思い切り叫んだ。ついでに、一緒にパタパタと頭の中の妄想も払い落とす。


 楽しみで早く行きたいと思う高揚した気持ちと、フォルト様と舞踏会に向かう事を想像するだけで、緊張からか胸が苦しい。


 そんな気持ちが入り混じって、私の感情は日に日に忙しくなっていく。


 冬の舞踏会まで、あと少し。



いつもありがとうございます(*´꒳`*)

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