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第106話 名前を教えてくれますか

 



 ニャーさんとルネ様を先頭に、廊下を走り抜ける。先頭のこの2人は、警備の騎士達を容赦なく次々と戦闘不能にしていく。


 笑いながら闇魔法を連発する姿……何も知らない人が見たら、どっちが悪者か分からないのでは。


 横から突如現れる騎士に対しては、フォルト様が俊速で氷魔法を唱えてくれるので、私の出番はないに等しい。


 やる事といえば、自分に風魔法を継続してかける事と、皆に防御魔法を重ね掛けしておく位だった。魔法を使える騎士はほとんどいないみたいだけども、念の為である。



「ん?」


 走り抜けている途中、後ろから数名が追いかけて来ていた。一度私達の攻撃を受けた後、復活した人もいるのだろう。


 私はピタリと足を止めると、振り返って一気に魔力を纏った。


「えーと、ごめんなさい!」


 先に謝っておこう。これ、正当防衛なんで、許してください!



『跳ね飛ばせ 疾風の唸り(ハウル・オブ・ゲイル)



「うわぁぁぁッ!?」


 後ろから近付いて来ていた警備員が数名、長い廊下の端の壁の方まで吹っ飛んでいった。威力は弱めたから、怪我はしていない筈なので許してほしい。


「おっ、あーさんやるじゃん」


「ぴぇ……ついに攻撃する意思を持って、攻撃魔法を人に向けて使ってしまった……訴えられませんように……」


「相変わらず変なところ気にしてんなぁ……そーいやこの状況、あーさんは怖くねぇの?」


「……今更ですね!? 程々に怖いです!!!」


 私以外、好戦的な面子(メンツ)しかいないじゃないか! 再び走りながら、涙目でハッキリと言い返した私である。


 自分で言うのもなんだけど、普通こんなに駆け回るご令嬢、いないですから!


「アリスちゃんってほんと最高だよねぇ〜」


 その魔法、俺も真似しよ〜っと、とクスクス笑いながら、ルネ様は威力を落とさずに容赦なく使っていた。こっちはこっちで鬼か。


「……まぁ、いくらあの2人でも、殺しはしないだろうから安心しろ」


「えぇ……? そんなの最低条件ですよ……?」


 フォルト様のなんとも言えない慰めに、へにょんとした私なのだった。



 ふと、抱っこされている子からジッと視線を受けて、私は疑問に思った。


「……そもそも何で公爵は、こんな小さい子を隠し部屋に監禁してたんだろう?」


 自然にこなしていたから、さっきは疑問に思わなかったけど。よく考えたら、空間認識阻害の魔法の解除や起動が出来るって……闇の魔法石を使ったとしてもすごい事だよね?


 こんな小さい子が魔法石の扱いに慣れてるって、普通は有り得ないし。謎が多いな……


「君、もしかして闇魔法が使えたりするの……?」


 コソッと問いかけると、男の子はちょっと驚いた表情を浮かべたが、すぐに無表情に戻った。


「……使えるけど、使えない」


「え、急になぞなぞ?」


 もし使えると仮定したのなら、エタリオルでは魔法発現は15歳とされているのに、何故8歳位の子が魔法を使えるんだろう……?


 15歳になる前に、魔法適性が発現した? いや、でも使えるけど、使えないって言ってるし、不完全な状態なのかも。


 それとも、帝国の人は幼い頃から魔法適性が分かるものなの?


 う〜ん……と暫く考えてみたが、他国の事は勉強不足で、サッパリ分からなかった。何より、集中できない。


 ……何せ走っているもので。


「ごめん、ちょっと今走るのに精一杯で頭働かないから、後でちゃんと考えるね!」


 我ながらマヌケな回答をしたと思うが、男の子はうん、と頷いてくれた。


「とりあえず、名前だけでも教えてほしいな。君ってずっと呼ぶのも、なんか分かりづらいじゃない?」


 私はアリスティアって言うんだけど、と話しかけると、俯いた男の子は少し考え込んでいたが、ポツリと小さな声で呟いた。


「……ユスチノヴィチ」


「……ん? ユス……ノ?」


 珍しい名前だなぁ……変わったイントネーションの言葉を全て聞き取れなかった私は、思わず聞き返す。


「ユス、でいい」


「分かった、ユス君ね。私の名前も長いから、アリスって呼んでね」


 私達の会話に耳を傾けていたフォルト様は、何故か少し、考え込んでいるような表情をしていた。




 ────────────────




「おっし、あとは階段を降りれば、玄関ホール到着!」


「ですね〜……っと、姿を現さないと思ったら、やっぱり先回りしてましたね?」


 広々とした玄関ホールの中心には、ザクナ公爵が待ち構えていた。追い込まれているのは公爵の方なのに、その表情はどこか余裕すら感じられる。


 ひとまず走る事にはならなそうなのと、本人も下りると希望した為、フォルト様はユス君をゆっくりと下ろした。私はユス君と手を繋ぎ、フォルト様の後ろに隠れるようにして立つ。


 ラ、ラスボス(公爵)が怖い訳じゃないんだからね……!



「おや、これはこれは……珍しいお客様が多いと思っていたら、パタナーシュ家のご子息までいらっしゃるとは。夜更けに不法侵入なんて……大問題になるのでは?」


「ご安心ください。リバーヘン帝国陛下、並びにフィリップ王子からのご命令のもと、ここに参りましたので〜」


 俺、長い物には巻かれるタイプなんですよ〜、とルネ様は微笑んだ。


「公爵? ちなみにお伝えしておきますけれど、隠し部屋は、あってもなくてもどちらでも構わないですよ〜? 例え公爵が万が一(・・・)壊してしまって、二度と入れなくなっていたとしても、証言してくれる子もいますので」


「……その子は、ザクナ家が引き取って育てているんですよ。勝手に連れて行くなんて、人攫いもいい所ではないですかな?」


 ザクナ公爵はユス君に目線を向けると、手を前に差し出し、怖いくらい優しげに微笑んだ。


「さぁ、戻ってきなさい。お前はうちの子だろう?」


「名前」


 ユス君が発したその一言に、公爵はピクリとする。


「……何?」


「僕の名前、聞かなかった。知ろうとも、しなかった」


 私と繋いでいる手が、少し熱を帯びている気がするのは気のせいだろうか。髪の毛の間から見えるユス君の赤い瞳は、まるで燃え続けている炎のようで、静かな怒りを感じた。



「あの人、親なんかじゃない」


 ユス君は、スッと公爵を指差して、そうハッキリと言い放ったのだった。




いつもありがとうございます(*´꒳`*)

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