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第105話 小さな天才

 


 さっと私を庇うかのように、フォルト様が自分の背に隠してくれた。


 でも……不思議と危険な感じはしないんだよな。私はぴょこっと顔を出しながら、フォルト様と一緒に、音が聞こえた辺りへ近づいてみる事にした。


「これといった怪しい物はないな……」


 確かに、見たところは何の変哲もないただの壁である。でも物音がしたって事は……やっぱり何かがある筈だ。


「見えない隠し部屋って、この壁のどこかと繋がってたりするんですかね……?」


 何の変哲もない壁だけど……私は壁に手を当てて、何となく問い掛けてみる。


「あの、誰かいたりしませんか?」


「……そうか、俺達が外から見つけられなくても、内側からなら──」


 フォルト様がそう言いかけた時、私が触れていた壁がうっすらと光り出した。光が徐々に扉の形を作っていったかと思うと、その扉は実体化して内側から開いたのだった。



 そこから現れたのは、小さな男の子だった。


「子ども……?」


「君、大丈夫……!?」


 私はそう声を掛けながら、慌てて駆け寄った。


 7、8歳くらい……なのかな?


 無造作に伸びきった黒髪の間から見える、燃える様な赤い瞳がすごく印象的な子だ。夜は冷えるというのに薄着な格好で、こんなの、酷い監禁以外の何物でもない。


 私は肩に掛けてもらっていた上着を外すと、フォルト様をチラリと見た。私の意図を察してくれたのか、勿論構わないと言わんばかりの表情で頷いてくれる。


「怖くないよ。助けに来たからね」


 帝国語、上手に話せなくてごめんねと言いながら、男の子に上着をかけて包み込んだ。必要最低限の物しか与えられていないのか、触れた身体は痩せ細っていた。


 男の子は終始無言だったが、どうやら隠し部屋に入れてくれるようで、着いて来いと言わんばかりの目線を送ってくる。


 足を踏み入れるとそこは、とても簡素な造りの一室だった。狭い室内には古びたベッドと小さな机がポツンと置かれており、本が数冊積まれていた。奥には続き扉が見えたが、恐らくはトイレか何かなのだろう。


「……お姉ちゃん」


 不意に言葉を発したかと思うと、ドレスの袖をクイッと引いてきた。私が首を傾げると、私の手に小さな巾着袋を渡してきた。


「えっと、見てもいいの?」


 コクンと頷いたのを確認してから、袋の中を覗くと、闇の魔法石らしき物が入っているようだった。何の効果のある魔法石なんだろうか。


 その子は更に、無表情でとんでもない事を言い出したのだった。


「これ、証拠(・・)。公爵、悪い人」


「へっ?」


 思いもよらない事を聞いた私は、思わず固まってしまった。これ、ルネ様も使ってた、映像を記録する魔法石なのか……!


 この子、監禁されながらもこんな大事な物を残しておけるなんて、天才なのでは……?


「おおおお姉ちゃんがこれ持ってるの、ちょっと勇気がいるなぁ……!?」


「……持ってて」


 そう言われてしまい、困った私だったが、お願いされたのなら仕方ない。とにかく落としたら怖いので、ドレスの隠しポケットにそっと入れておく事にした。


「そうだ、君、名前は……」



 キィ、と私とフォルト様がさっきまでいた部屋の扉が開く音がした。廊下からランタンの灯りが漏れてくる。


 公爵家当主の威厳だろうか、どことなく漂う威圧感のあるオーラ。その灯りに照らされた顔はまさしく、この邸の主人のザクナ公爵本人だろうと確信した。


「おや……こんな夜更けにお客様かね……?」


 そう言ってゆっくりと、私達の方へと歩いてくる。


 ひぃ、ラスボスが来た!


「……ダメじゃないか。お客様に部屋を勝手に見せちゃ」


 ザクナ公爵が、隠し部屋へと足を踏み入れようとしたその瞬間。あろう事か、男の子は闇魔法を唱えて、隠し部屋の扉を閉めた。


「お前っ……!? 開けなさいっ……! これは命令だぞ?」


 ドンドンドンと、壁を思い切り叩く音が聞こえてくる。ホ、ホラーなんですけど。


「ど、どうするの?」


「こっち」


 男の子が隠し部屋の、今しがた塞いだ壁とは別の壁に触れると、再び扉が形成された。


「隣の部屋、繋げただけ。逃げないと、この部屋、壊される」



 隣の部屋へと移り終えると、男の子は再び扉に触れて扉を消す。すると、壁は何もなかったかの様に元通りになった。


 ここも客室なんだろうか。衣装部屋の様な所に出た私達がメインルームへと続きそうな扉を開けると、そこにはニャーさんとルネ様がいたのだった。


「あ? お前らどっから来たんだよ?」


「ほら〜やっぱりこの近くに隠し部屋あったんですって〜」


 会話だけを聞くと至って普通なのだが、その間にも2人は警備の騎士達を殴り蹴り……のオンパレードだった。


 あ、こっちも修羅場だったんですね。


 ちょうど一区切りついた様で、パンパンと手を叩くニャーさんである。倒れている人数に対して、2人は息も乱れてないのだから、怖い。魔法なしでこれって、一体どういう事なんだ……?


「屋敷を一周してきたんだけどよ、それらしき所が見つからなくて、こっちに戻ってきたとこ。あーさん達は?」


「あ、あの! 隠し部屋にこの子がいて、証拠を預かったところだったんですけど、公爵にバレて、慌ててこっちに逃げて来たところなんです!」


「ここもすぐ見つかるだろうから、逃げた方が賢明だと思う」


 私とフォルト様の説明を聞いた2人は、状況を察してくれたようだったが、それにしてはえらく落ち着いている。


「ラスボスにバレちゃあ仕方ねぇか。ルネ、頼んどいた帝国騎士団の応援は?」


「あと数分で到着かと〜」


 フン、とそれを聞いたニャーさんは、ニヤリと笑った。


「オッケー、じゃ、玄関目指して突っ切るぞ! 魔法も今から解禁だ!」


 バーンと勢いよく扉を開けて飛び出して行く。


「まるで水を得た魚だ……」


 いや、魚を得た猫かな……?


 夜中なのに元気だし、イキイキとしてる……これが深夜テンションか。私はそろそろ眠たいよ、ニャーさん。


「アリスティア、風魔法を使った方が良さそうだ」


 フォルト様は、ヒョイと片手で男の子を軽々と抱えると呟いた。


「ですね……ドレスなので、いつもより強めに掛けときます……」


 私は諦めの境地で、自分の足に風魔法を掛けるのだった。


 深夜の大脱走が始まります……





いつもありがとうございます(*´꒳`*)

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