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第101話 愛おしく想う気持ち

 



「あ〜らら……アリスちゃん、連行されちゃった」


 2人が出て行った扉を見つめて、ポツリと呟いたルネの横顔を見たティーグル(ニャーさん)は、その表情に驚き、思わず声を掛けていた。


「ルネ、お前……?」


 もしかしてあーさんの事、そう言葉が出かかったが口を(つぐ)む。


「ん? 何?」


 こちらに顔を向けたルネの表情からは、先程の切なげな表情は何も感じ取れなくて、なんだ気のせいか……と思い直したティーグルなのだった。



 さて、とシェリを抱きしめていた腕をようやく離したユーグは、気持ちを切り替えたようで、テキパキと指示を出し始める。


「フォルトとアリスティア嬢の事は放っておいて、とりあえずこの場を収めないといけないね。夜会はまだ続いているから、一度僕達も会場に戻らないと。フィリップ王子、ルネ、帝国側としてはシルヴィオ王子の処遇はどうしておいた方がいい?」


「シルヴィオ、は……王族としての意識や覚悟がまるで足りていない。改善の余地もあるかと僅かに期待していたが、今回は事も大事であるし、何より本人の罪の意識が薄いとよく分かった。王族として、貴族に唆されてその思惑に乗ってしまう様ではな……ここに滞在中は、エタリオルの罪人と同じ扱いで構わない」


 申し訳ない……と、フィリップ王子は頭を下げた。


「ですねぇ。あ、帝国の陛下からも、こちらでの処遇はエタリオルに一任すると、事前に念書もいただいておりますんで〜」


「おっ、準備いいじゃん」


 ティーグルがヒュ〜ッと口笛を鳴らす。


「帝国の陛下も、まだまだキレッキレですからね〜そう簡単に退位なんてしませんよ〜」


「よし。それなら、遠慮なく騎士に連行させる。こっちの研究者の方は、フィゾー家の嫡男だったな? 意識がないみたいだが……」


 部屋の荒れた様子をぐるりと見渡して、ユーグがルネに問いかける。


「あ〜、こっちの詳細は省きますんで、後でその魔法石で確認お願いしますね〜? 多分なんですけど、闇魔法の研究のしすぎで、闇堕ちしちゃって。で、光魔法を浴びて浄化されたから、今意識がありません」


「光魔法……!?」


 ルネとシェリーナ以外の、その場に居た人間が一斉に驚いた声を上げた。


「シェリ、体調はっ!?」


「だ、大丈夫です。アリスのサポートがあって、私は負担なく魔法を使えました」


「シェリもアリスも、あとそこの捕縛されている2人も一応、医師に魔力状態を診てもらった方がいいかもしれないな」


 サラの言葉に、ユーグもそうだな、と同意した。


「まぁその辺の出来事は、アリスちゃんも合流してから話したらいいんじゃないですかね?」


「あぁ。ひとまず部屋から撤退するぞ。一度夜会に戻って、シルヴィオ王子は体調不良という事にして会は閉める」


 そう言って、ユーグはティーグルへとスッと目線を向けた。


「はいよ。俺は先に陛下の所へ行って、事の顛末を耳に入れてもらっとけばいいか?」


 頼んだと言わん表情で頷くと、最後にシェリーナへと視線を向けた。


「シェリ。婚約者候補として、もう少しだけ俺の隣で頑張ってくれるか?」


「はい。勿論です」


 差し出された手を強く握り返して、シェリーナは微笑んだのだった。


「隙あらば甘ったるい世界を創り出すんだよな……」


 そんな小言をブツクサ言いながら、ティーグルは出口へと向かう。


「あれ? まじであーさん、おっせぇなぁ……?」




 ────────────────




 ──その頃。


 フォルト様は私を抱えたまま、ツカツカと廊下を突き進んで行く。空き部屋らしき客室へと入ると、私を下ろしてすぐに扉をパタンと閉めた。


 プルプルと立ちすくむ私と、それをジッと見つめるフォルト様。


 ぜ、絶対、怒ってらっしゃる……!


 無言のフォルト様ほど、怖いものはないのである。


「……」


「ち、ちゃんと話します! 包み隠さず、全部言いますっ!」


 こんな視線に堪えられるわけない……!


 ぴぇ、と早々に降参した私は、目を瞑って顔の前に両手を出すと、顔を背けたのだった。


 私は座るようにと促された、1人掛けのソファーにちょこんと腰を下ろす。小さな丸型のサイドテーブルを挟んで、向かい側に座ったフォルト様と、そろ〜り目を合わせた。


 もうルネ様の魔法石には、私が色々やらかした証拠が残ってしまっているのだ。どうせこの後知られる事になるのなら、せめて自分で説明しよう。


 私はステファニー様から密告を受けた場面から、先程に至るまでを、時系列に沿って説明したのだった。



 ざっくりとした説明が終わると、フォルト様は、ハァ……と深い溜息をついた。


「また無茶をした、という事はよく分かった……」


「ご、ごめんなさい……でも私がやったのって、魔法陣の塗り替えと魔力譲渡くらいですよ……?」


 自分の膝の上に置いた手を、開いたり閉じたりさせながら、ちょっとだけ言い訳という名の悪あがきをする私である。


「くらい、じゃないだろう? 魔法陣の塗り替えも魔力譲渡も、前例がないんだ。しかも魔力譲渡の方は、4属性持ちしかできない新魔法に分類されるだろう」


「はひ……突拍子もない事をして、誠に申し訳ございません……」


 あぁ、つまりは研究所にいるクリス兄様にも、また迷惑をかける事になるのか……と、今後の事を考えたら非常に後悔してきた。


 前回の反省、活かしきれていないよ自分……


「アリスティアが事件に巻き込まれる度に、段々4属性持ちの件は、隠しきれなくなってきてるな」


「そうですよね。思いっきりルネ様の前でやっちゃいましたし、魔法石にもバッチリ残ってますよね……?」


 フォルト様は私の問い掛けに、コクリと頷く。


「お前の兄上がまた忙しくなると思うぞ?」


 や、やっぱり……と、私はガクッと項垂れた。


「新魔法を使った事は、誰も咎めないはずだ。ただ、魔法の新たな概念だったり、新魔法をこういくつも成功させていると、色んな所から声が掛かりそうで……そっちの方が心配だ」


「私は運動音痴なので、サラみたいに魔法騎士は目指さないですよ?」


 何でそんな事を心配してくれているのだろう? と思いつつも、そう答えた。


 魔法がどれだけ出来たとしても、私の恐るべき鈍臭さは、それを補い切れないのである。それに攻撃魔法は、正直得意じゃない、というのもあるし。



 まぁ、それはさておき、とフォルト様は腕を組み直す。


「今回の件も、やらなきゃいけない場面だと思ったから、アリスティアは行動に起こしたんだろう?」


「も、勿論です……!」


 私は背筋を伸ばして、真剣な表情で頷いた。それが最善だと思ったから、私なりに考えた打開策だったのだ。


 新魔法を使った事を後悔しているのは……私の我儘で4属性を隠すと決めたのに、隠しきれていない現実が身に染みているからで。更にはそれを周りにフォローしてもらうばっかりで、結局色んな方々に迷惑をかけている。


 情けなくて、泣きたくなる気持ちをグッと堪える。


 自分で蒔いた種なんだから、泣くのはダメだ。私は俯いて、自分の膝辺りを見つめながら、手をギュッと握りしめた。


 そんな私に、アリスティアと優しく声が掛かる。ふ、と顔を上げれば、フォルト様の透き通った深い藍色の瞳が、私を真っ直ぐに見つめていた。


「お前は、いつも1人で頑張りすぎなんだ。4属性持ちの事もそうだが……アリスティアが誰かを守りたいと思うのと同じように、俺はお前に頼ってもらいたいんだが」


 そんな優しい言葉に、また泣きそうになるのを必死で押し留めた私は、気を紛らわしながら、えへへ、と頬をかいた。


「あ、ありがとうございます……あの、私って、そんなに放っておけない妹みたいですかね?」


 私の妹発言を聞き、何やら不服そうな表情を浮かべている。あれ……?


「誤解がないように断言しておくが、お前を妹として見てるわけじゃない。……態度で示しているつもりだったんだが……」


「あの、いつも気を配っていただいているのは、すごく伝わってます。沢山助けてくれて……だから私、今回もですけど、不安になった時、いつも1番最初に頭に浮かぶのはフォルト様で……」


 ブンブンと首を振って、しどろもどろにそこまで言いかけた私と、フォルト様の間で、何となく不思議な空気が漂う。


 ん……?


「……っ私、何か相当恥ずかしい事を言ってますね!?」


 真っ赤になって叫ぶ私を見て、フハッ、とフォルト様は堪らず笑った。


 いつもよりくだけたその表情に、胸が高鳴る。


「思っていたよりかは、脈がありそうでよかった」


 ぽかんとしている私の前に来ると、フォルト様は片膝を立てて(ひざまず)いた。


 まるで騎士が、忠誠を誓うかのように、だ。


「……今はこれで我慢するが、今後はもう少し」


 スルリと私の手を掬い上げると、指先に口づけを落とした。事もあろうか、左手の薬指に。


「分かりやすく口説く事にする」


「……っ!?」



 そう言って得意げに微笑んだフォルト様の目付きは、離さないと言わんばかりの表情で。


 私は捕食される動物の気持ちが、ほんの少しだけ分かってしまったかもしれない、です。




いつもありがとうございます(*´꒳`*)

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