コンプリーション
「さっさと片づけろ、後がつまる!」
道に響きわたる怒声、騒々しい物音。
パーシバルが顔をあげると、対面にとまったピックアップトラックに荷が積み込まれていくところだった。車体のわきに立つ太った男が、「ルーム0204、0639……」とリストにチェックを入れる。
「ボス、こいつで最後です」
二人の作業員が運んできたものを見て、パーシバルは立ちどまった。
自分と似たような服装の、一見して人間の青年に見える身体が、両脇の下と脚を抱えられて近づいてくる。だらりとさがった手が揺れ、顎が胸につくほど首をたれていた。
「本体か、載せろ。次にまわるぞ」
機能停止した再現体は、古びた家具や機器の上へほうり投げられ、立ちこめる砂ぼこりの先に消えていった。パーシバルは細めた目でトラックを追った。ちらりと見えた顔は目を閉じていて、平静だった。
彼はすべてのはたらきを終え、完了したのだ。
その実感はパーシバルの心に清々しさをつれてきた。
あたりの通行人は回収車を気にもとめず歩いている。パーシバルも自分の仕事に立ちかえり、先ほど訪ねてきたヴィーの様子を思い出した。
明け方まで現場の町を調べた彼は、休憩してから1300号室へむかった。
ドアを開けたヴィーは期待に満ちて彼をむかえたが、相手の顔を見ると感情にブレーキをかけ慎重に尋ねた。
「どうだった、なにか情報が?」
パーシバルは、口よりも多くを語る黒い瞳を見据えた。視界のはしに病床のカーテンがちらつく。母親は今日も寝ついているらしい。
彼は静かに質問を返す。
「ヴィー、俺に話していないことはあるか」
少女は怯むことなく首をあげる。
「たとえば、どんな」
「兄弟の身辺は本当に潔白だな?」
深夜を過ぎても人気の絶えない歓楽街を思い返す。存在だけ知っていた街を、彼はこの三年たらずで初めて体感した。
けばけばしいライトの洪水をくぐりながら集めた話によれば、「ここらで死ぬのはケチな売人か組織の一員か、とにかくロクデナシ」ということだった。
「誰もいない裏道の端であっても?」
と言った彼に、まさになにかの売人らしい男は口の片側をつりあげた笑みで答えた。
それを聞いたヴィーは眉をひそめた。
「言ったでしょう、パパのことがあるって」
「それをくつがえすだけの理由が生まれたのかもしれない。ひとつの推測だ」
パーシバルが落ちついて返す。
「どこかの組織と通じていたか、あるいはこれから係わろうとしたか…… 近ごろ、彼に変わった様子はなかったか」
ヴィーは開きかけた口を閉じ、自分の内側を見るように瞳を暗くする。やがて悲しげにつぶやいた。
「ううん。そういうことができる人なら、きっとあんなふうに殺されなかった。エカートはいつだって優しかった」
優しすぎたのかもしれない、とヴィーは真剣な様子で首をひねり、黙り込んだ。パーシバルが助け舟を出す。
「誰かにだまされ、誘い出された。そう思うか」
「私はその方が信じられる…… そう信じたい」
苦しげな彼女に、パーシバルは「仲がよかったらしいな」と声をかけてみる。
「うん。齢は離れてたけど、私たちそっくりだった」
見た目だけね、とヴィーは少し笑い、ふいにパーシバルを見た。
「あなたに兄弟は?」
「いいや。家族はいないんだ」
よどみない答えは半分だけ正しい。
広い意味での兄弟は大陸や海の彼方に掃いて捨てるほどいて、たがいに武器を向けあっている。ただし敵対も協力も退役でリセットされ、返還された再現体たちが居住都市で群れることはなかった。
例外として、個々の点のあいだを飛びまわる者がいる。
本格的に犯人を追う前に、パーシバルは彼に会う必要があった。