ヴィー 1
依頼人の住む棟はリフトが故障していた。
パーシバルは片脚をひきずり気味に階段をのぼり、求人票を確かめる。くしゃくしゃになった部屋番号は“1300”で、きりのいい数字だと彼は思った。13は再現体の平均稼働年数だ。
踊り場に寝転がった人間の身体をまたぎ、並ぶ居室を数えてゆく。依頼人の部屋の脇では切れかけのライトがせわしなくまたたいていた。
チカチカと照らされながら、パーシバルははっきり三度ドアをたたき、文章を読みあげた。
「“治療薬受取、A区画まで”。すぐ行けるが、どうだ」
スコープの向こうから視線を感じる。気に入らなければ、あるいは警戒が解けなければ扉は開かず、契約は不成立となる。
数十秒がすぎると、パーシバルは背を返した。
だが同時に金属のきしむ音がした。生まれた入口から風が起こり、
「入って」
という幼い声が彼をとめた。
子どもが、あの依頼を?
驚いてふり向くと、視線をさげた先に少女がまっすぐ見上げていた。黒髪のえりあしがすっきりと短く、先に声を聞いていなければ少年だと思ったかもしれない。
薄い唇が開き、大人びた口調で告げる。
「仕事を頼むから。まだ話があるの、入って」
じりじりとした瞳、やせた頬の口もとは厳しく引きしまっている。そう健全ではないこの都市であっても、十をいくつか過ぎた年ごろには不似合いな表情だ。
パーシバルは警戒して踏みとどまったが、その時には上着のすそをつかまれていた。引っぱられた彼が中へ踏みこむと、少女はすばやく入れかわって錠をおろした。
部屋は砂色の壁にかこまれ、正面の窓から光がさしている。
その横で風を受けたカーテンがふくらんだ。天井からつった布が一角を仕切っているらしい。粗い織りの奥、ベッドの上に影があり、横たわる人影がうかがえた。
彼の視線を追った少女が声をさげる。
「ママは具合が悪いの、説明はこっちで。貼り紙をちょうだい」
「これを書いたのは君か」
求人票を返しつつパーシバルが尋ねると、少女はふり返って動きをとめた。
「私じゃなくて、兄さんが…… でも、エカートはここにいない」
「仕事か」
「殺されたの」
パーシバルが目で問いかけると、彼女は静かな熱をもって彼に答えた。
「犯人を探すのを手伝って。それが私とママの依頼」