パーシバル 1
目を閉じても闇は明るい。
ほのかな光が継続を知らせ稼働をうながす。
彼はうす暗い部屋で立ちあがる。動作はそれほどスムーズでないが問題はない。ドアを開き長い廊下をこえ、残されたはたらきを探し、果たしにいく。
掲示板の前に立った時、パーシバルはすり減った靴底のかたむきを感じた。
「不用品運搬 男手」「04-F下降リフト修繕 危険手当×」「廃車の牽引~解体まで」……
習慣として、大きな貼り紙からざっと流し見る。以前なら手を出せた仕事たち、しかしもう自分がお呼びでないことを彼は知っている。
色あせた目はやがて中くらいの求人票も通りすぎ、指でつまめるほどの依頼にたどりつく。たいていは個人が頼む使いの用事で、遠い区画への買出しや届け物の代理だった。
「おい、つめな」
となりに割って入った男がぶっきら棒に肩で押してくる。パーシバルはおとなしく場所を空け、「この男は人間だ」と考えた。縦も横も大きすぎて規格におさまらない。
求人掲示板は、巨大な居住棟にへばりつくように建っている。みな当たり前に使っているが、いつ誰がはじめたのか、成り立ちを知る者はいなかった。語りつぐ気力をうしなった町には歴史が残らない。
バラララ、と空気をたたく音がして彼は後ろをふりあおぐ。
はるか高くに張られたアーケード屋根の近くを、無人巡視艇が周回するところだった。視線で追いかけると、ちっぽけなテールランプが“見つかった、もしくは見つけた”というようにまたたいた。
あの光は黄色い。
そして封筒は青だった、とパーシバルは意識的にまばたきをする。
つい昨日の午後のことだった。
陰鬱な重い青色の封書が、蜂の巣の一部屋のような居室にさし込まれた。配達人は型落ちもいいところの錆びだらけのメールロボで、心を持たない声でくり返した。
「ミスター・パーシバル・R・ダーク、大事なお知らせです。本日中に開封してください。ミスター・パーシバル・R・ダーク……」
「了解だ、メッセンジャー」
しかし相手の音声認識機能は壊れている。卵型の胴体の正面についた“受取完了”ボタンをしっかり押し込むまで、居住棟の廊下に彼の名前がこだましていた。
小窓に向けてすえたソファーに戻る。青と緑の色あせたストライプ、布張りのひとり掛け。買った時からスプリングは死んでいて、腰かけたとたんに標準規格の身体がすっぽり沈んだ。
大事な知らせの発送の日づけは三ヶ月も前だったが、この都市に住んでそれに腹を立てる者はいない。メールロボが遊び半分で襲撃されたり、故障したリフトの中で動力ぎれを起こしていたりすることもあるのを考えれば、届いただけで上出来だ。
彼はサイドテーブルに封筒をおき、肘で押さえながら封を切った。そうしている時から内容はわかっていた。
紙は透けるように薄く、冷たい光沢の白をしていた。
シンレッドカンパニー 再現体管理事務局
識別: MQ3021-0577-96
状態: 退役
保障期間終了通知
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以上