Pululu
-明けない空が、ある。
そんな風に思う夜も、ほんのちょっと愛せるように。
【Pululu】
僕はいつも報われない子なんだって
こころのどこかで思ってた。
「お母さん、今度いつ会える?空いてる日、ある?」
3ヶ月前、離婚したばかりの母に連絡をとるため
僕は、親戚のおばあちゃん家でこっそり
黒電話を手に取っていた。
「ごめんね 仕事ばっかりで忙しくて…」
受話器越しに聞こえた母の声に、
当たり前のように季節が過ぎ去っていくのを
感じた。
僕は愕然としたまま、ひとにぎりの期待を込めて
こうつぶやくように言った。
「それって..会えないってこと?次の土曜日も?」
すでに、半分諦めていた僕の
電話を握っていない片方の手のひらは、
宙を向いて、静かに口を閉じた。
親の離婚で、子供はいつも犠牲者だ。
お母さんと会えると信じて、かけた電話も虚しく
午後のカーテン越しに見える夕日から
色を奪った。
みんな、いつもの日常がセピア色に見えて、
声を涸らして泣いた。
-後日
学校の放課後の窓の向こうに見える
校門の生徒たちを僕は悲しげに見つめていた。
あの子も、あの子もきっと親がいて
-帰る場所がある。
そんなことを思いながら、途方に暮れていた。
「どうしたの?」
声をかけてきたのは、心配そうにこちらを
見つめる先生だった。
「なんでもないです。」
とっさの出来事に、まさか誰からか
声をかけられるとは思わずに、僕はとっさに反応した。
鈍かった。
先生は「何かあったら言うんだよ。」と
言うとすぐに通り雨のように消えてった。
僕はその言葉に、胸があたたかくなって
思わず涙がこぼれた。
周りのクラスメイトに見つからないように
悲しい気持ちを隠して僕はすぐ玄関に向かう。
外は雨が降っていた。
本当はお母さんに引き取られる予定だったが
お父さん側の家に住むことになった。
そんなに仲が悪い家族には見えなく、
だけど、時々喧嘩が物凄く激しかった。
3人家族で住んでいたアパートにはもう帰らず
お父さんの家に帰る足どりは重かった。
通学路のサイクリングロードの橋を
渡っている途中、激しい雨が降ってきた。
夕陽も見えない曇天に、僕は無性に
叫びたくなって「うぉぉーー」と叫んだ。
僕の目の前には、走馬灯のように
リビングで家族が笑って過ごしている風景が浮かんだ。それはあまりに切なくて、離婚後ずっと
毎日夢見る景色だ。
激しい雨、そして自身の胸のたかなりの間に
とても綺麗にーそれは美しかった。
疲れて、橋に寄りかかると
橋に打ちつけられた雨が、だんだんと
黒電話の音に変わりはじめた。
プルル・・・
プルル・・・
雨の中に、電話の音がはじけているような、
それはまるで魔法だった。
気づけば、傘もささずに僕は
雨に打たれていた。
全身で、電話が生きているようだ
「お母さん、今日は晩ごはん家に行くの?」
「今日はビーフシチューだから。買い物行かなくちゃ」
「楽しみにしてるね。」
たしかに、声が聞こえた。
そこは雨も上がり、夕日の綺麗な帰り路に変わっていた。
あの夜も、たしか僕は母とビーフシチューを食べた。
夕食の食卓で、大粒の涙を溜めていた。
なぜか、それが悲しいと伝わっている
はずなのに、笑顔でいることで 僕は泣いていた。