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万年越しのフィーニスと  作者: まろまろまろん
邂逅編
8/10

ミルティオーナ7

 ペルグランデ要塞に到着して2日後のこと、


 ミーナの姿はペルグランデ要塞の外にあった



(ここの外壁も問題なし、あと三ヵ所ね…。はぁ、何で私がこんなことやってるのかしら!)



 ミーナが今何をやっているかというと要塞に何らかの罠が仕掛けられていないかの確認だ。


 決闘ののち、総出で要塞内の見回りをしたが結局魔人は"亡霊"の倒した"煉獄"以外見つからなかった。しかし救援を要請してきた軍の姿も見当たらないので緊急事態であることに変わりはない。


 だが、そんなことを気にしているのはミーナだけのようで、その他大勢は早朝から"亡霊"を連れてどこかへ行ってしまった。他の軍であれば信じられないことだがミーナの下ではこれが普通になっている。


 因みにルルスには決闘の後からずっとミーナにベッタリで鬱陶しかったので今は要塞内の全フロアの清掃を命じている。


 本来なら3ヶ月はかかるであろう広さだか思わず恐怖を覚えるほどやる気に満ちた様子だったので一週間もかからず終えるだろう。



(やっぱり、恋の力は偉大なのね。)



 そんな暢気なことを考えながら進んでいくと、どこからか声が聞こえてきた。



(訓練場の方かしら…?)



 魔術がぶつかり合う音も聞こえる、誰かが争っているのだろうか。



(行ってみましょうか)







 予想通り声の出所は訓練場だった。


 なにやら楽しそうな声が聞こえる。



(朝から何してるかと思えば…!)



 訓練場ごと魔術で吹き飛ばしてやりたい気持ちを抑え、ミーナは中に踏み入る。



(はぁ、こんなことだろうと思ってたけど、)



 案の定、中では軍人(+"亡霊")達が大乱闘していた。



(…、楽しそうね。)



 殺傷力の高い魔術が飛び交っているような気もするが気のせいだろう。


 ミーナがそんな彼らの仲のいい?姿を見ていると…



「ミルティオーナ様も来たんですね、」



 隙を見て抜け出してきた"亡霊"が声をかけてきた



「冗談はよして頂戴。誰かさんの影響でいつも以上に暴走してるわ、一応緊急事態なのだけどね。そこのところどうかしら、誰かさん?」



 実のところ"亡霊"はそんなに悪くないのでこれはミーナの憂さ晴らしだ。



「まあ、彼らなかなか強いですから大丈夫ですよ。

それより今日は()()()()ルルスちゃん一緒じゃ無いんですね。」

「貴方分かって言ってるでしょ!」

「当然です。」

「…、はぁ。」



 結局ミーナのストレスが増えるに終わった。



「でも、ルルスに好かれるだなんて夢にも思ってなかったわ。」

「俺はルルスちゃんが24才って事の方が信じられませんよ、貴族だったらとっくに子ども生んでる年齢じゃないですか。」

「いつの時代の話よそれ。それにルルスは貴族なのよ、ルルス・アロッサって言ったら分かるかしら?」



 どうやら"亡霊"はルルスが貴族だと思っていなかったようで、驚いた声をあげた。



「へえ!ルルスちゃんってパドル殿のご息女だったんですか。決闘の時からその系譜かなとは思ってましたけど、直系なのは予想外でした。」

「あら、パドルさんとお知り合いだったの、意外ね。」

「数回戦場を共にした程度ですけどね。」



 "亡霊"はそう言って肩をすくめる。


 だがここでミーナは彼との会話の矛盾に気付いた。



「パドルさんが最後に従軍したのはずいぶん前とお聞きしてるわ、貴方そのときいくつよ?」



 その言葉に"亡霊"はギクッ!という音でも聞こえそうなほど過剰に反応した。



「いやぁ、いくつだったかなぁ…、最近忙しすぎてよく覚えてませんね…。」



 それが嘘なのは考えるまでもなかったが、ミーナにはそれ以上に聞きたいことがあったので、問い詰めることはしなかった。



「それに、私って貴方と面識あったかしら?シアーノとあんな賭けをした理由を聞きたいんだけど、」



 あんな賭けとは、五年前"亡霊"が決闘でシアーノにミーナの師として仕えて欲しいと要求したことだ。

 本当は会ったときすぐに聞きたかったことなのだがルルスの決闘騒ぎの影響でなかなか切り出せなかった。



「え!?シアーノさん言わないって約束したのに…!」



 "亡霊"は目に見えて動揺しだした。



「やっぱり何かあるのね、」



 ミーナは"亡霊"に詰め寄る。



「ほら、全部吐きなさい!」

「いや、あのえっとですね、その、あれです

当時から美しいと噂されていたミルティオーナ様にお近づきするために恩を売りたかったんですよ。

ですが噂は所詮噂、信用なりませんでしたね。ミルティオーナ様はそれ以上の美しさです。」



 嘘だ。

 ミーナは瞬時に悟った。

 だがそれを否定する材料をミーナは持っていなかったので、鎌をかけてみることにした。



「貴方に美しいなんて言われると嫌みに聞こえるわね。それにそもそも私は小さい頃ずっと部屋に籠ってたんだからそんな噂流れるはずないわ。」



 "亡霊"も冷静なときだったらそれが罠だと気づけただろう。

 会話の優位をとるためにミーナの嘘に食いついた彼は、完全にミーナの思惑通りに引っ掛かってしまう形になった。



「それは嘘ですね、ミルティオーナ様がずっと町中を駆け回っていたのはよく覚えていますから…、あ。」



 "亡霊"はすぐに嵌められたことに気付いた。



「い、いや、すいませんこれは言葉の綾でして…、その――」

「それに今思い出したけど、貴方決めた人がいるって言ってたわよね。」

「うっ…。」



 ボロにボロを重ねた"亡霊"はもう反論するすべを持っていないようだ。


 だがそうだとすると余計に彼のことが分からなくなる。



「貴方、何者なのよ?」

「っ…、」



 "亡霊"は答えない。

 その端正な顔に、焦りとも、悲しみともつかない表情を浮かべている。

 諦めているような、それでいて何かを堪えるような。


 自分が思っている以上に複雑な事情があるとミーナは確信した。

 彼が口を開くことはおそらく無さそうなので。仕方なくミーナはお互いに利のある着地地点を用意した。



「…まあ、今から言う契約を呑んでくれるって言うならもう貴方のことは詮索しないであげるわ。」

「…、すみません。」

「いいのよ、誰にだって言いたくないことの一つや二つあるわ。」



 自分もそうであるからミーナには彼の気持ちがよく分かる。



「内容をお聞きしても?」

「ええ、そうね。私の部下……いや違うわね、仲間になりなさい。」



 "亡霊"が口を開きかけたが構わず続ける。



「私には成さなければいけない目的があるの、それを達成するために貴方の力を貸して欲しい。」

「…。」



 "亡霊"は無言で続きを促す。



「私の目的、貴方は知っているのでしょうけど、私の口からも言わせてもらうわ。」



 それは、と続けたところで、



「「「「あー、手が滑ったー」」」」



 近くの戦闘狂達が魔術を打ち込んできた。



(ちょっと、何でこんなタイミングなのよ!)



 ミーナは防御魔術で、"亡霊"は消滅で難なく対応したはいいがあまりにも間が悪すぎた。



「……、少し、お灸を据えてあげる必要があるみたいね!」



 結果ミーナはキレた。



「大丈夫ですか、ミルティオーナさ…、ぅゎ……」



 "亡霊"がつい数歩後ずさってしまうぐらいにキレた。



「ち、ちょっと俺は忘れ物を取りに行ってくるので、お先に失礼しま――」



 "亡霊"は巻き込まれては堪らないと逃亡を選択するが



「あら、"亡霊"さん、どこへ行こうというのかしら、貴方も例外じゃないわよ?」



 どうやら彼の判断は遅かったらしい。

 既にミーナは術式を展開し終えていた。



「いや、今冗談抜きで魔力残ってなくて、」

「そう、それは大変ね、じゃあいくわよ?」

「本当なんですって、ちょ、待って下さいよミルティオーナ様!それは洒落にならないやつです、落ち着いて――「"死氷"」うおわっ!"古籠火"!――」







 結局ルルスが夜になって呼びに来るまで続いた。



今回の魔術


第5階層攻撃系統火炎属性魔術・古籠火


第5階層攻撃系統水氷属性魔術・死の氷柱

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