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万年越しのフィーニスと  作者: まろまろまろん
邂逅編
7/10

ミルティオーナ6

「え??」



 その声を漏らしたのは誰かは分からなかったが、ミーナもその声の主に同意したい気持ちで一杯だった。いや、この二人だけではない、この場にいる"亡霊"以外の全員が同じことを思っただろう。


――理解が、できない――


 "亡霊"が"第3階層攻撃系統旋風属性魔術・鎌鼬"をルルスの"先駆放電"に放ちキィン、という独特の破砕音をたてながら()()()()させた。

 文字に起こすと単純に見えるが、そうであるからこそミーナ達には理解が出来なかった。



 魔術の消滅の条件は魔術師であれば誰もが知っていることだ。しかしそれと同じくらいかそれ以上に、実戦では到底不可能な芸当であることも知られている。


 魔術の消滅とはただ対となる属性の同階層魔術同士をぶつけ合えばいいというわけではなく、発動する魔術の魔術式をすでに現象している魔術の魔術式に決まった当て方で当てなければならない。これが少しでもずれると、消滅は起こらず、単純に魔術式に込められた魔素量が少ない方の魔術が飲み込まれる。フェーリー・キタス著『魔法学のすゝめ』でも"針の穴に目隠しをして糸を通すことよりも難しい技術"として紹介されている。


 魔術式は現象した魔術に張り付いているので、"先駆放電"で考えると放たれた雷一つ一つに魔術式が張り付いているということになる。


 ミーナがざっと見た限りでも100近くの放電が飛び交っていたはずだ。


 100近くの魔術式を同時に構築することは高等魔術師にとって基礎中の基礎だ、しかしそれを全て相手側の魔術式に()()()()ようにぶつけるとなるとその難易度は計り知れない。


 100どころか1つか2つ消滅したら御の字というのが本来の認識だ、"亡霊"の技術がいかに高いかは自明だろう。



(…、あんな優しそうな顔して、化物じゃないの…。)



 ミーナの視線の先ではすでに戦況が変わりつつあった。



「くっ、"先駆"!"線条"っ!」



 ここにきてルルスが大量の電撃の中に紛れるように、"先駆放電"よりも手数は劣るが、威力と速度が高い"第4階層攻撃系統雷電属性魔術・線条放電"を放つ。

 理解不能な出来事を前にしてもすぐに有効な一手を打つ冷静さは流石と言えるだろう。



「"鎌鼬"、……、"風狸(ふうり)"。」



 しかし、"亡霊"は全く臆した様子を見せずに、先程と同じように"鎌鼬"で"先駆放電"を消滅、残った"線状放電"も無駄のない動きで避けながら、"第4階層攻撃系統旋風属性魔術・風狸"で消滅させた。



「強めにいきますね、"氷震"。」



 そして先程とは転じて"第3階層攻撃系統水氷属性魔術・氷河地震"を使用するが、その魔術式は大人の身長一人分よりも大きいもので、すさまじい量の魔素を込めたことは誰の目にも明らかだった(基本的にどの魔術も握り拳一つ分ほどの大きさの魔術式で適当な威力を出すことができる)。



「"球電"、"雷雲"…、きゃっ!」



 ルルスはそれを見て回避は不可能と判断、"第2階層防御系統雷電属性魔術・球電"、"第4階層防御系統雷雲属性魔術・雷雲"で身を守るが、それでも"亡霊"の"氷震"を止めきることは出来ず、一度目の被弾をしてしまう。



「まだですっ!」



 "氷震"の威力で吹き飛んだのを利用して、距離を取ったルルスは少し焦った様子で再び猛攻を仕掛けるが、同じことの繰り返しになる。



「もう魔力が…!」



 ルルスが三度目の被弾をして暫く経ったのち、彼女の魔力(保有魔素)が枯渇の兆しを見せる。

 低階層魔術とはいえ、30分近く休み無く行使し続けたのだから無理もない。


 対する"亡霊"はルルスと同じくらい魔術を使っているはずなのに涼しい顔だ。



「ぐっ、"線条"!」

「"風狸"、"霧華(きばな)"。」

「"球電"!"先駆"!」

「"鎌鼬"、"氷震"、"提馬風(だいばふう)"。」

「ッ!"雷雲"、"先駆"っ」



 勝負は一方的なものになってきた。



(これだけ魔術を使っていて息切れしないだなんて反則よ…)



 魔術の消滅は魔法式さえ当てることができればいいので、そこに込める魔力は最小限でいい。

 ルルスのように攻撃と防御両方の魔術に使わないといけない魔力の殆どを攻撃の方に回せると言うわけだ。


 自身の攻撃を最小限の力で無効化されその分凄まじい威力の魔術が返ってくるなど、ルルスにとって悪夢でしかないだろう。


 それが"亡霊"の常軌を逸した技術と胆力の上に成り立っていることは考えるまでもない。


 シアーノを含む一部の戦闘狂達が好戦的を通り越して、獰猛な目付きをしだした。ルルスが見れば泣いて逃げ出すぐらいの怖さだったが、幸運にも彼女は目の前のことに必死で気づいていない。


 ミーナとしてはやめて欲しいところだったが、そうなってしまう理由も分からないこともなかったので―十分ミーナにもその資質がありそうだ―小さくため息を吐くにとどめる。



「"姥火(うばかび)"。」

「ここに来て火っ!?、"きゅうで――うぐっ!」



 "亡霊"の"第3階層攻撃系統火炎属性魔術・姥火"によってルルスが数メートル吹き飛ばされる、すぐに立ち上がるも魔力の消費過多で既に顔は真っ青、息も途切れ途切れだ。



(もう限界でしょうね、あと数回撃てるかといったところかしら…?)



「降参してください、貴女はもう立つのがやっとな筈だ。」



 見かねた"亡霊"が降参を勧めるが、



「ぜぇ、はぁ、ぐっ…、嫌です!これが最後のチャンスなんですっ!」



 ルルスは強い視線で"亡霊"を射抜く。

 理由はともあれその迫力は凄まじく、"亡霊"は少し後ずさったのち、重々しく頷いた。



「わかりました。ならば最後まで――」



 "亡霊"が本気で続けることを感じとったミーナは声をあげる



「待って!」

「…なんでしょう?」

「これ以上は危険よ、降参するわ。」



 ミーナはルルスの代わりに降参を申し出た。

 同じような危惧をしていた者達がいたのか、周りからも安堵の空気が流れるが、



「………、本気ですか?」



 それもつかの間、温度が一気に下がったのではないかと錯覚するほどに緊迫な空気が場を満たす。

 何かが彼の琴線に触れたのか、不機嫌そうな雰囲気を醸し出し、そして、容赦ない殺気をミーナにぶつけた。



「分かっているんですよね?神聖な決闘を第三者が止めると言うことの意味は!」

「ッ!」

 

   

 "亡霊"は語気と連動するように殺気を強める。

 直接当てられていない軍人達が思わず後退りしてしまうほどの殺気に逃げたくなる自分を叱咤し、ミーナは声を発した。



「…えぇ、分かっているつもりよ、でもルルスは私の()()だから。」

「…!」



 "亡霊"はミーナの()()という言葉に大きく反応した。



(なにかこの言葉に思い入れがあるようね…)



 少し考えるそぶりを見せたのち、先程までの悍ましい殺気はどこへやら、笑顔を見せる。



「わかりました、そう言うことであれば俺はいっこうに構いません。」



 何故()()という言葉に反応したのか気になったが、それは後回しにしてミーナはルルスのもとへ歩み寄る。



「感謝するわ。

ルルス、そういうことだから、申し訳ないけど、それでい――「よろこんで!!」え、えぇ、ありがとう?」



 最悪嫌われることも視野に入れていたのに驚くほどすんなりとルルスは受け入れた。

 不思議に思ったがその理由はすぐ分かることになる。


 ルルスは真っ青だった顔を上気させ、ハートマークすら浮かんでいそうな目で、()()()()見つめていた。


 () () () ()



「私、謝っても謝りきれません!大切な方がこんな近くにいることに気づかずこんな輩に現を抜かすなど…!」

「え、こんな輩ってまさか俺のこ――「一生付いていきます!ミルティオーナ様!!」」

「そ、そう、わ、私も嬉しいわ。」



 心なしか距離が近いルルスを見て、決闘を止めたことをミーナは後悔した。



(私の覚悟返しなさいよ…、)



 助けを求めて周りを見るが、軍人達は皆ルルスに"こんな輩"呼ばわりされてちょっとしょんぼりしていた"亡霊"に群がって騒いでいる。



「ミルティオーナ様は王族ですから私が婿入りという形になるんでしょうか…、」



 隣ではルルスが恐ろしいことを口走っている



 ミーナは今日何度目になるか分からないため息を吐いた。

第4階層攻撃系統雷電属性魔術・線条放電


第2階層攻撃系統旋風属性魔術・提馬風


第4階層攻撃系統旋風属性魔術・風狸


第3階層攻撃系統火炎属性魔術・姥火


第2階層攻撃系統水氷属性魔術・霧華


第3階層攻撃系統水氷属性魔術・氷河地震


第2階層防御系統雷電属性魔術・球電


第4階層防御系統雷雲属性魔術・雷雲


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