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万年越しのフィーニスと  作者: まろまろまろん
邂逅編
6/10

ミルティオーナ5

「準備ができたようね、早速始めるわ。」



 十分程で結界は張り終わった。



「くどいようだけれど、勝負は五回被弾するかどちらかが降参するまで、使える魔術は第4階層までよ。」

「はい!」



 ルルスがやけに元気な返事をした。

 理由は言うまでもないが、今まで見たことがないほどやる気に満ち溢れた顔をしていて表情にも少し必死さを感じる。


 ミーナは思わず泣きそうになった。



「そして審判は私ミルティオーナ・グローリアが務めるわ、」



 ここでミーナは言葉を切って周りを見回す。


 シアーノをはじめとした多くの軍人たちが結界の周りを囲うようにしながら談笑している、中にはルルスと"亡霊"のどちらが勝つか賭けをしている者達もいた。



(一応は非常事態なのだけどね、)



 全くそれを感じさせない彼らにはため息をつきそうになりながらも同時に心強さを覚える。



「じゃあ日が暮れそうだから余計な形式は省略するわ、私の"魔弾"の破裂が開始の合図よ。」

「「よろしくお願いします!」」



 ルルスと"亡霊"はお互いに向かい合い礼をする。



 それを見届けたのち、ミーナは右腕を上空に向け"第2階層攻撃系統無属性魔術・魔素榴弾"を放った。









 魔導究明政策以降全ての仕組みが解明された魔術はそれまでの、才能ある者しか使えない、というものから、万人が使えるものへと変わっていった。

 それに伴い、魔術師(正式名称を魔術行使師)の定義も第1階層以上の魔術を使用する者、から第3階層以上の魔術を使用する者、に変化した。


 現在、グランツ人民共和国では国民に8才からの6年間、全土に設立された国立魔術学校に通わせることを義務付けていて、その卒業試験を第2階層魔術の使用としているので、昔と比べると圧倒的に多くの魔術師を輩出でき、4年前の国勢調査では国民のおよそ3割が魔術師という数値も出ていて1万人に一人が魔術師と言われていた時代と比べるとその数値は驚異的である。


 そんな状況なので相対的に魔術師の価値は下がるわけで、今では就職するのに少し有利程度の認識しかない。


 しかし、代わりに現代にも高等魔術師といって、昔の魔術師のような所謂エリートの肩書きがある。


 高等魔術師の定義は第5階層以上の魔術を使用する者と、かなり難易度が高く、国内の魔術師の中でも高等魔術師と呼ばれる者は少ない。人魔大戦時に軍属になることを義務付けられるのもこの高等魔術師だ。


 基本的にひとつ上の階層の魔術を使用するにはその階層未満の同属性魔術を完璧に修めていないといけないと言われている。

 即ち高等魔術師とは何らかの属性の()4()()()()()()()()使()()()()()()()、と言い換えることが出来るわけだ。









「「術式励起!」」



 ミーナの"魔弾"が腹の底に響くような重低音をたてながら弾けると同時に、ルルスと"亡霊"は殆ど同じタイミングで基礎術式を構築した。


 偶然にも二人の術式の色は同じ緑色―術式の色は血液型のように個人差がある―のようで、一瞬だがルルスの頬が嬉しそうに綻んだ。

 その可愛さに癒されつつもミーナは今回の決闘がどちらの勝利に終わるか予想してみる。



("亡霊"さんの力は未知数だけど、ルルスが勝つでしょうね。)



 意外にもミーナの予想はルルスだった。


 彼の力は未知数だ、八魔将を一人で討つというのは当然のことながら並大抵のことではなく、ルルスに同じ真似は出来ないだろう。そして、その程度のことが分からないミーナではない。


 では何故ミーナはルルスの勝ちを予想するのか、



「"先駆"!」

「うおっ、雷かっ!」



 ルルスの放った"第3階層攻撃系統雷電属性魔術・先駆放電"が不規則な軌道で無数に放たれる。"亡霊"は間一髪で避けるが、ルルスは休む間も無く"先駆放電"を使用、息をつく暇すら与えない素早い術式の構築に"亡霊"は自分の術式を放棄して回避に専念するしかなくなる。



 決闘は実戦の殺し合いではないため、ルール(制約)を設ける必要がある。魔術師には一人一人異なる得手不得手があるわけだから、そのルールの内容によって勝敗が大きく変化してしまう。


 魔術祭等といった公式戦ではそういった事が起こらないように運営側が公平に決定するが、個人の決闘では一般的に決闘を挑まれた側の裁量となる。


 今回もその例に漏れず"亡霊"がルールを決めたわけだが、



「そこですっ!」

「ぐっ!」



 道楽のように全ての"先駆放電"を避けていた"亡霊"だが、巧く隙を突いたルルスの一撃に遂に被弾してしまう。


 "亡霊"が被弾してもルルスは攻撃の手を緩めることなく、より一層気合いをいれて"先駆放電"を展開する。



(凄い体捌きだけど、時間の問題かしら、亡霊さんも()()()()わね。)



 今回のルールの『第4階層魔術までの使用可能』は、高等魔術師同士の決闘では一般的だ。お互いに使いこなせるという前提があるうえ、そこまで高い威力は出せないため、技量比べの側面が強く出る。そのため手の内を知らない初対面同士でのルールとしては妥当と言ったところだろう。


 しかしここに『五回被弾したら負け』という言葉がつくと話は変わってくる。


 これは読んで字の如く五回攻撃を受けたら負けという意味で、どんな攻撃でも当たればカウントされる。即ち手数の多い方が圧倒的に有利になるのだ。


 魔術の中で最も手数が多いといわれる"先駆放電"は雷電属性で、アロッサ家の令嬢であるルルスは当然のことながら雷電属性魔術の使い手である(こんな見た目だが国立魔術学校を首席で卒業している)。


 このルールの範疇においては間違いなくルルスは最強格と言えるだろう。


 日が沈む前に終われるようにとの"亡霊"の気遣いもあるのだろうが、だからこそミーナは彼を()()()()と評した。



「…ッ!」



 そうこうしているうちに"亡霊"は四度目の被弾をしてしまう。



(まさかあんな優良物件がルルスのお婿さんになるなんて、世の中分からないものね。)



 とある()()のために恋愛を捨てたミーナであるが同じ女としてルルスには少し嫉妬を覚えた。



「これで最後ですっ!」



 ルルスは決して油断を見せずに最後の一撃を放つ。


 "亡霊"は四度の被弾による麻痺で体がうまく動かせないのか地面に片膝をつけ俯いている。


 誰もがルルスの勝利を予見した。



 しかし、



「――"鎌鼬"――」

今回の魔術


第3階層攻撃系統雷電属性魔術・先駆放電


第3階層攻撃系統旋風属性魔術・鎌鼬


第2階層攻撃系統無属性魔術・魔素榴弾

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