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万年越しのフィーニスと  作者: まろまろまろん
邂逅編
5/10

ミルティオーナ4

「世界は魔素でできている。」



 これは魔法学の祖、フェーリー・キタスが自身の著書『魔法学のすゝめ』で遺した言葉だ。


 この世界のもの全てが小さい魔素の集まりで構成されているというのが判明したのは今からおよそ500年前のことだが、人族―人族以外の種族もだが―と魔素はそれよりもずっと昔から不可分の関係にあった。


 基本的に生物は()()魔素に干渉する事はできないと言われ、当然人族もその例に漏れない。

しかし、人族は産まれたときから生活に必要な最低限の魔術(生活魔術)を行使できる。


 これは一見矛盾しているように見えるが正確に言うとそうではない。


 魔術の正式名称は"魔素干渉術"。術式と呼ばれるものを使って、体内の魔素を外界の魔素に干渉させ()()()()事象を引き起こす。これに対して術式を介さず直接的に事象を引き起こすものを魔法といい、魔人族のみが使えるとされる。


 魔術は、術式の構成難度、消費魔素量、引き起こされる現象の規模の3つの要素から第0~7までの8つの階層に分けられる。

 第0階層魔術はその威力がどれも生活するのに適当な威力を発揮することから生活魔術、第1~7階層魔術は戦闘等様々な用途で用いられることから、攻撃系統や、防御系統、探知系統など、多くの系統に分類されている。

 さらに、魔術にはどれにも属性というものがあり、火炎↔水氷、雷電↔旋風、閃光↔暗黒、無の計4属性に当てはめることが出来る。即ち先程ルルスが使用した魔術"電磁感知"は正しく言うと"第2階層探知系統雷電属性魔術・電磁感知"となる。


 7属性ではないのかと言いたくなるかもしれないがそこには歴とした理由がある。


 事実500年前の魔道究明政策では最初、魔術は4属性ではなく7属性として扱われていた。しかし、ある科学者が実験中に第4階層の火炎属性魔術に間違えて同じ第4階層の水氷属性魔術を打ち込んでしまった際双方が消滅したことにより、同じ階層の火炎属性魔術と水氷属性魔術の術式には小さな差異こそあれど本質的には殆ど同じということが判明した。(後に雷電↔旋風、閃光↔暗黒属性魔術にも同じことがいえると分かった。)


 それは術式を重んじる派閥と事象を重んじる派閥とで大きな論争を生んだが、最終的に魔術を用いた決闘を以て4属性に決まったと当時の『魔術白書』は述べている。


 そんな魔術であるが、当然だが人によって使用できる魔術の階層、種類は異なり、又それは個人の才能や努力など、主体的なものに因ることが殆どだから、魔術が人の優劣をつけるという考えは昔ほどではないが今も根付いている。

 強い者が正しいと言うわけではないがそれが一つの明確な判断基準になっているのは確かなので、昔は何か大きな決め事をする時などに魔術による決闘が行われるのが主流であった。先程の属性に関する論争での決闘もこれにあたる。


 尤も現在ではその風習も廃れてきていて、娯楽としての側面が強く、今の時代に決闘を申し込む事は常識はずれ、というのが暗黙の了解だ。

 因みにシアーノの"狂犬"はこれを相手の身分問わず行いまくった事が発端だったりする。










「使用可能な魔術は第4階層まで、先に魔術5回被弾、もしくは降参で負け、両者これでいいのね?」

「もちろんです!」

「ええ、構いません。」

「じゃあ"結界"を張らせるから、準備できるまでは好きにしてて良いわ。」



 ミーナはそう言うと後ろに控えていたシアーノの方へ振り返る。



「まさか決闘を申し込むとは、予想外でしたわい。」

「全く、一体誰の影響なのかしらね。」

「ほっほ、迷惑な者もいたものですな。」



 全く気にする様子のないシアーノにミーナはため息をつく。



「私はやれば出来る子、私はやれば出来る子、私はやれば出来――」



 ミーナが視線を戻すと、ルルスは今までにないぐらいやる気に満ち溢れた顔でぶつぶつとなにかを呟いていて、それを"亡霊"は興味深そうに眺めている。



(何でこんなことになったのかしら…。)



 ミーナは頭痛をこらえながら再び深いため息をついた。



         ◆◇◆



「お初お目にかかりますミルティオーナ・グローリア様、俺の名前はフィスタ・エテルノ、"亡霊"と呼ばれる者です。」



 やはり彼はミーナの予想通り"亡霊"だった。



(エテルノ…、聞いたことのない家名ね、声にも覚えがないし、顔が見たいわね。)



 自分に関わりがある相手だと考えていたため、全く聞き覚えのない家名と声にミーナは意外感を禁じ得なかった。残るは顔だけだが、フードを深く被っているため見えない。初対面?と思われる相手にいきなりフードをとれだのと不躾なことを余りミーナはしたくなかった。


 しかしそんな主の思いを察したのだろうか、



「お、おい貴様、王族であるミルティオーナ様の前で顔を隠すなど恥を知れ!」

「は、はあ、」



(すごく露骨だけど、ナイスよルルス。)



 ルルスが下心全開なのは誰の目にも明らかし、ミーナもそんなことをとやかく言う性格ではないため流石に無理があった。

 本人もそれが分かっているようで心なしか顔が赤い。

 だが結果としてミーナにとっては好都合だ。


 "亡霊"はルルスの謎の剣幕に戸惑いながらもフードを脱いだ。



「先程の無礼をお許しください、普段余り人前にでないものでして、「結婚してください!」え?」

「子供は少なくても5人は作りましょう!男の子2人と女の子3――」



 彼がフードを脱いだ途端ルルスが目をきらきらさせて突飛なことを言い出した。口調も素に戻っている。しかしそれを指摘する者、否、指摘する()()()()()者はいなかった。

 なぜなら、



(…、予想以上ね。)



 余りにも彼の容姿が整いすぎていたからだ。

 特に縮れ毛一つない流れるような銀髪と、透き通るような碧みがかかった目の神秘は、彼の端正な顔立ちをより目立たせていて、もはやその美は一種の芸術品と見紛うほどだ。



(ほんとに同じ人間?ルルスが暴走するのもわかるけれど…、お手入れが大変そうだわ。)



 とても同じ人間とは思えない整った容姿に現実逃避気味についどうでもいいことを考えてしまう。



(この感覚は…?)



 ここでミーナは初対面の相手に感じるはずの無い感覚を感じた。



(見覚えは無い筈なのに、何でこんなに懐かしい気持ちになるのかしら。)



 彼の顔には見覚えがない、そもそも彼女には同年代の知り合いなど数えるほどしかいない。なのに何故か彼の顔に既視感を覚えた。



(気のせいよね、これだけ格好よかったら忘れるはずが無いでしょうし。)



 これほどの美少年を忘れられる者はかなり性癖が歪んでいると言ってもいいだろう、ミーナがそう考えるのは至極当然のことだ。



(じゃあ何で彼はシアーノにあんなことを言ったのかしら…?)



 だが初対面ということになると、なおさら彼がシアーノと賭けまでしてミーナを強くさせたかった理由が分からない。



 ミーナがそんなことを考えているうちに二人の会話はどんどん進んでいく






「――そして私が毎晩お帰りって言うんです…!どうでしょうか!」

「じゃあ、君が大きくなったらそうしましょうか。」



 彼はそう言ってルルスの頭をなでなでした。

 完全に子供扱いだ。この対応にルルスはいつものように顔を真っ赤にした。しかし、



「。!?!?、ふわぁ……。」



 どうやら真っ赤は真っ赤でも別の真っ赤のようだ。

 幸せそうな顔でされるがままになっている姿は小さい子供以外の何者でも無いだろう。



「はわぁ……、、っは!?えっと実はその、私こう見えても24なんです!もう十分大きいですから、どうか私と結婚を…!」



 流石に予想外だったのか、24と聞いて彼は少し驚いた顔をした。



「…すみません、俺にはもう決めた方がいるので、」

「そ、そうなんですね…」



 ルルスはしゅん、とただでさえ小柄な身体をさらに小さくしてしまうが、ふとあることを思いついた。



「な、なら決闘をしましょう!私が貴方に勝ったら側室にしてください!」

「へえ!」



 その言葉に彼は思わず声を上げた。

 自分の声が思ったよりも大きかったことに照れた顔をしながらもルルスの顔をまっすぐ見据え答える。



「すみません、この時代に決闘を挑んでくる人はなかなか居ないものですから。でもその決闘、受けましょう。」

「!ありがとうございます!!」

「では勝敗は――」






(あら?)



 自分のよく分からない感覚にある程度結論をつけたミーナが気づいたときにはもう全て話がついたあとであった。


 出会って間もなく決まった決闘に他の面子も唖然としている。


 "亡霊"がフードを脱いだときから唯一楽しそうににこにこしていたシアーノが、先手をとられたとばかりに愉快そうにしていたのが印象的だった。



「はぁ…」



 ミーナはため息を吐いた。

今回の魔術


第2階層探知系統雷電属性魔術・電磁感知


第4階層設置系統無属性魔術・領域結界

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