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万年越しのフィーニスと  作者: まろまろまろん
邂逅編
2/10

ミルティオーナ1


「あと二日……、はぁ…。」



 趣深いカントリー調の一室、

 グランツ人民共和国第三王女ミルティオーナ・グローリアは仮に町を出歩けば男女問わず全てが振り向くであろうその美しい顔に憂慮を滲ませ、大きな溜め息を吐いた。



「ミルティオーナ様、王族ともあろう方が溜め息など、下品にすぎますよ。」



 そんな王権神授を信仰する者が聞けば卒倒しかねない諫言を発したのはこの部屋に一人しかいない小さな近侍だ。



「いいじゃないの、誰も見ていないんだし。そんな小さいこといってちゃダメよ。それと私のことはミーナと呼びなさいと何度もいっているでしょう、ルルス?」



 そう言って華美な装飾の成されたティーカップの紅茶を一口含み、再度大きな溜め息を吐く。


 その様子にルルスと呼ばれた少女は頬を膨らませて声を荒げた。



「私が見てるじゃないですか!こういうことは常日頃から意識してないといつかボロが出るんです!それにそもそも私は小さくなんかありません!だいたい今年で24歳なのにまだ結婚もできてないなんておかし―――」



 尤も本人にとっては不本意だろうがその剣幕はぷりぷりというのがふさわしく、全く怖くない。寧ろ世間からは可愛いと評される類いのものだ。本人の悩みの種もそんなところにあるに違いないのだが、いつまで経っても気付けないのはひとえに彼女のせいか、あるいは…



「大丈夫よ、もし私が男だったら貴女をお嫁に迎えてるわ。

これだけ()()()貴女を放っておくなんてね、きっと世の中には見る目のない男達しかいないのよ。まだ24歳なんだから焦ってはいけないわ。」



 ここで美しいとかではなく可愛いという言葉を選ぶあたりに本心が見え隠れしているのだろうが、幸か不幸かこの悩みに生きる少女?にとっては鶴の一声だった。



「そうですよね!まだ24歳ですよね!」



 24歳がまだなのかもうなのか、甚だ疑問ではあるが、それを抜きにでも根本的な解決になっていないと言うのだから救いようがない。そしてここに来てようやく彼女は話を逸らされた―どちらかというと逸らしただ―ということに気付いた。



「て、そんな話をしてる場合じゃありません!これはもう決まってしまった事なんです!諦めてください!」



 だが、ミーナはよっぽど嫌なのか形の整った眉をへの字に歪ませ明らかに不機嫌ですといった様子で食い下がる。



「そんなの、私以外の人でいいじゃないの、そうよ、セルニア様の方がいいわ。あの人は戦術に詳しいから。」

「セルニア様は部隊を捨て駒にすることで有名じゃないですか!士気が下がるどころの話ではありません!第2戦線が押され気味なのは事実なんですから、勇者であるミルティオーナ様が行くことに意味があるんです!」



 ルルスの言っているようにミーナは今代の勇者だ。

 勇者であるミーナが援軍に来るとなれば軍人達の士気はうなぎ登りだろう。当然、ミーナもその事は理解している。

 しかしそれでもなお嫌そうな雰囲気を醸し出す様子に、只事ではないのでは?と感じたルルスは主に問いた。



「あそこの指揮官会う度に私に邪な視線向けてくるのよね、前会ったときなんて私の体をさりげなく触ろうとしたのよ!あいつが魔人族だったらすぐにでも殺してやるのに…。」



 確かにそういった視線を向ける人間というのは一定数存在する。優れた容姿の代償と言えば聞こえは良いが、見られる側はたまったものではない、しかしそれ以上にこんな話を聞かされる部下もたまったものではない。

 なんだか不穏な方向へ話が進んでいくのを感じ取ったルルスはこれは不味い、と主の怒りのベクトルを変えることにした。



「お気持ちは分かりますが…、しかしよろしいのですか、ミーナ様の()()の手がかりが見つかるかもしれない機会で…、す、よ?」



 最後彼女の言葉が淀んだのは自らの主を慮ってのことではない。―彼女は言いたいことははっきり伝えるタイプだ―ほんの一瞬、主の顔が深い憎しみに彩られたからだ。



「そうね…。」



 ここにきて初めてミーナが考えるそぶりを見せたが

 ルルスは後悔していた。彼女は主の怒りの方向を変えるつもりでこの話を引き合いに出したのだが、ここまで過剰な反応を見せることは想定外だった。

 すぐにでも謝罪をしたかったがそれはできない。それをしてしまったら主はこれ幸いとそれを言い訳にして頑なな態度を取ってしまうことは明白だったからだ。

 己の主は自由奔放な性格と環境が災いしてかなり立場が悪い、今回の出征もそのことをあまり良く思っていない者の差し金に違いない。もしこれを反故にしてしまったら主の居場所がなくなってしまうかもしれない。

 例え自分が嫌われ遠ざけられようとも、主の身を優先するというのが彼女の在り方だ。



 この気まずい雰囲気を吹き飛ばしたのは慌てて部屋に駆け込んできた総司令部本部の女性士官が持ち込んだ一つの凶報であった。




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