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◆ロープ一本の安全地帯(前)

ハッピーエイプリルフール2023!

今年は、リクエストで多かった

「アルベルト皇子との絡みが見たい」

「誤解でもいいから皇子を幸せに」

「無意識に皇子を籠絡するレオにレーナたちがひいひいと翻弄される様を愉しみたい」

のあたりを書かせていただきました^^

お楽しみいただけますように!

「んー……」


 レオはまどろみの中にいた。


 全身に酒精が回り、頭がふわふわとして気持ちがいい。

 どうやら自分は、ハーケンベルグ家の夜会で酔い潰れ、客間の一室で寝かされているらしい、と、豪華な天蓋を見上げながら当たりを付けた。


 バルコニーで夜風に当たったことや、そこでくらっと来たこと、誰かに運ばれたことや、慌てた侯爵が叫んでいたこと、それからエミーリアがそっと額に手を当ててくれたことなどを、切れ切れに思い出す。


 寝かされた瞬間は気分が悪く、二日酔いも覚悟したが、幸いにも吐き気は引いて、今は雲に寝そべるような浮遊感が全身に漂っている。


 これだけ飲んでも悪酔いしないというのは、やはり夜会で出されたワインが、非常に高価で上等なものだからかもしれなかった。


(そうにちげえねえわ……やっぱ金っつーのは万能薬だからよ……)


 夢うつつで寝返りを打ちつつ、レオはぐふふと喉を鳴らす。


 淡雪のように白く、ほっそりとした喉からは、「ん……」とあえかな吐息が漏れただけ、というのが、つくづく周囲の誤解を引き起こすこの体の仕様なのだが、酔っ払っているレオには知ったことではなかった。


 正確に言えば、しっかり覚醒しているときにだって、「レオノーラ」(じぶん)が周囲の庇護欲と愛情を掻き立てまくっているという事実なんか知ったことではない。


 現に、自分が先ほどのバルコニーで「アル様」への秘めた想いを告白し、アルベルト皇子やビアンカ、オスカーといった面々の情緒を爆散させたことには、まったく気付かずにいた。


(はー、美味かったなあ、夜会飯……スープもやばいくらい具が入ってて、なんかもう富飲んでますって感じだった……日頃俺たちが飲んでるスープってなんなの? 湯か? まあ、あれはあれで美味いけど……あー、孤児院のやつらにも飲ませてやりてえな)


 フライパンをかんかんと鳴らし、皆に得意顔で高級料理を振る舞う自分を想像し、ぷくくと――傍からは可憐にくすくすと――笑う。


 こうやって還俗するたびに、盛大に自分をもてなしてくれるエミーリアたちには感謝しきりである。

 いまだ正体を明かせずにいる心苦しさはあれど、やはり、年に一度でも会えるのは、嬉しい。


(欲を言えば、一緒にお出かけとかもしてみたいんだけどなー。旅行とか。孝行って感じがするし)


 日々の暮らしに精一杯な下町の人間にはご縁のない話だが、市民であっても、中流階級以上ならば頻繁に旅行をすると聞く。

 レオが数日還俗するだけでも大喜びしてくれるエミーリアなら、一緒に寝泊まりして、観光でもしたら、一生分くらい喜んでくれそうな気がした。


(エランドとかいいかも。タマナシ……じゃない、サフィータ様のその後も気になるしさー)


 エランドの指導者、サフィータ・マナシリウス・アル・エランドとは、その後も手紙を通じて細々と交流を続けている。


 彼は、最も大切なタマが腐ってしまい思い悩んでいたとき、レオが真摯に慰めたことに深く感謝しているらしく、しきりと名産品や宝飾品とともに、体調を気遣う手紙を寄越してくれるのだ。


「ははーん、さてはタマナシの件の口封じも兼ねてるな?」とすぐにぴんときたレオも、賢明にも直接言及することは避け、エランドの情勢を尋ねる内容を返しているのだった。


 こうやってひたすら商機の情報収集を続けているわけだが、そのせいで、一層「己に悲運をもたらした土地のことも案じ続ける聖女」の印象を強めていることを、本人は知らない。


(本当はもっと頻繁にやり取りしたいし、エランドにも行きたいんだけど……状況がなー)


 ごろん、と寝返りを打ちながら、そんなことを考える。


 エランドの観光開発は、かなり金になるビジネスだ。

 できるなら他の業者が乗り出す前に、関係構築に成功した自分がぜひモノにしたいのだが、いかんせん、レオが「レオノーラ」になるのは年に数度だし、入れ替わってしまうと基本的に聖堂に籠もらなくてはならないのが悩ましい。


(エランドビジネスにがっつり取り組むなら、ビジネスパートナーがほしいところだよな。資金力もあって、鷹揚で、こっちのやりたいことを後押ししてくれるような……身動きの取れない俺に代わって、フットワーク軽くエランドと聖堂を行き来してくれるような……)


 条件をつらつらと挙げてみるが、考えれば考えるほど確保は難しく思える。

 特に、聖堂に出入りできる人間はごく限られているため――皇族ですら自由に行き来できないのだ!――、それをクリアするというだけでハードルが高い。


(いや待てよ? 可能性があるとすればやっぱり――)


 半分酩酊しつつも、もう半分で金儲けについてうんうん悩んでいた、そのときだ。


「レオノーラ様。お加減はいかがですか……?」


 控えめな足音とともに、おずおずとした声が近付いてきた。

 耳慣れない声だ。


「……?」


 ぼんやりと目を開けると、そこにいたのは、レオより二つ三つ年上と見える青年だった。


 顔立ちは凡庸だが、茶色に近い金髪をしていることから、どうやら貴族の一員らしいとわかる。

 一方では白い聖衣をまとっており、導師のようでもあった。


(誰だこいつ?)


 レオの怪訝な眼差しを受け、青年は慌てたように申し出た。


「申し遅れました。ぼ、僕はモブナウアー子爵家の三男、オットー。出家し、今は導師として、この区域の信仰発展に貢献しております」


 察するに、家を継げるでもない、優れた才能があるわけでもない貴族の三男坊ゆえに、貴族籍を離れ、宗教界に入ったのだろう。

 そばかす顔に緊張を湛えたオットーの顔は、善良そうではあったが、いまいちぱっとしないというか、精彩に欠く感があった。


「今回の夜会には、侯爵家のご厚意でお招きいただき……あの、レオノーラ様が酒で気分を悪くされたと聞いたので、ちょうど僕、呼吸を穏やかにするハーブを持っていて、ですから、お役に立てればと……あっ、怪しい薬ではもちろんなくて!」


 話している内に緊張が強まってきたのか、どんどん早口になってゆく。

 レオとしては、タダでもらえるものはなんでも嬉しかったため、身を起こして両手を差し出した。


「ありがとうございます」


 笑顔は無料で差し出せる対価なので、出し惜しみするには及ばない。

 いつもの癖で、にこぉと満面の笑みを浮かべると、相手は大きく息を呑んだ。


「いっ、いえ……っ」


 頬で暖を取れるのではないかというほど顔を赤くし、手汗を聖衣に何度も擦り付けてから、ぶるぶると震える手でハーブを差し出してくる。

 それも、指先が軽く触れ合うだけで、びくりと肩を揺らす有様だった。


(もしやこの人、女にまったく免疫がない感じ?)


 オットーは先ほどから崇拝するような視線で「レオノーラ」だけを見つめているのだが、それを単なる緊張と取ったレオは、そんなことを思って小首を傾げる。


 なにしろ脳内で「導師」と入力すると、すかさず「もしかして:右手が恋人?」と出力されてしまうのだから、ある程度は仕方のないことでもあった。


 もしやオットーもグスタフと同じく、女性に対して複雑な葛藤(コンプレックス)を抱いているのではないかと、つい邪推してしまったのである。


「あの……オットー、さんは、もしや、教会に入られて、長い、ですか?」

「えっ? あ、はい……! 家の方針で、幼少時から出家しています。年数も長いほうですし、敬虔、というか、信仰に懸ける思いは、そこそこだと自負しております」


 恐る恐る探りを入れると、オットーは背筋を伸ばして回答する。

 彼が敬虔さをアピールしたのは、そうすれば少女を性的に怯えさせずに済むかと考えたからだったが、レオは見当外れの方向に頷くだけだった。


「そうですか……。経験……親交に懸ける想いが、そこそこ……」


 やはりそうなのか。

 というか、その手のことを初対面でオープンにしてよいのだろうか。

 いやはや、教会というのは、妙なところで風通しのよい組織である。


「ええっと……。あなたのような、その……清らかな(、、、、)方が、自分みたいなのと話す、よくないかもしれません。すみません。大丈夫なので、帰ってください」


 ちょっと悩んだ末に、レオはそう申し出ることにした。


 いくら中身は守銭奴でも、そういえば今自分がかぶっているのは、最上級の美少女の皮なのだった。

 経験と親交に熱い想いを持つ青年が長々と接していては、彼と右手との関係に支障を来しかねない。


 だが、それを単に「敬虔な導師が年頃の異性と話していてはよくない」と取ったオットーは、はっと顔を上げ――それから意を決したように、ぐっと拳を握った。


「あの!」

「え?」

「ぼ……っ、僕は、あなたが仰ってくれたような、清らかな人間ではありません!」

「え」


 レオは心底驚いた。

 もしや彼は、グスタフの仲間ではないというのか。


「え……でも、その、見た目的にも……」

「こう見えて、僕は大それた野心を持つ……罪深い男です」


 美少女面をしたレオが困惑に眉を寄せると、オットーはぐいと詰め寄ってくる。

 一生分の勇気と覚悟を掻き集め、彼はまっすぐに相手の顔を覗き込んだ。


「僕の心に棲んでいるのは、光の精霊ではありません。僕が……僕が日々、目で追い、想いを捧げているのは、光の精霊よりもっと輝かしいかた。世俗に立ち、実際に手に触れられるお方です!」

「……――!」


 もちろんオットーの主張を平易に訳すなら、「僕の心を占めているのは信仰ではなくあなたです、僕はそんな罪深い男なのです」ということになる。


 だがレオの理解は違った。


(光の精霊よりもっと輝かしく、世俗的で、手で触れられる……もしやこの人も、金の精霊(アル)様を!?)


 守銭奴の守銭奴による守銭奴のための発想に照らした結果、そんな結論を導き出してしまったのである。


(えっ、えっ! つまり、この人もお金大好きってこと!? 信仰よりも商売を取りたいって!? なにそれアツい!)


 冷静に考えて、突然拝金主義を告白してくる人間などいるはずもないが、なにしろ酔いが残っているのと、レオ的観点ではそうした人間は「アリ」なため、齟齬にまったく気付かない。

 むしろ、ビジネスパートナーがほしいなと願った瞬間、いきなり同志が現れたことに、興奮を隠せずにいた。


「え……っ、そ、それって……!」

「そうです……。欲望を抑えられない愚かな男だと、笑ってください」


 すっかり好意が伝わったと誤解したオットーは、ふっと自嘲の笑みを刻む。

 彼も大概劇場型の人間である。


 だが、レオはがばっと音が鳴る勢いでオットーの手を取ると、目を潤ませて叫んだ。


「そんな! 笑いません! 欲深いだなんて、言わないでください! 私だって、同じです」


 拝金主義を恥じなくていいよ。俺だって同類だもん。

 そんな内容を訴えたつもりだった。


「私、あなたのような人と、巡り会えるのを、待っていました……!」


 ようこそ同志よ!


 レオ渾身の歓迎は、しかしオットーの耳にはこう響いた。


 私もあなたをお慕いしています!


(こ、これは、夢だろうか)


 純朴な――そして年相応に自意識過剰な――オットーの胸は、早鐘のように乱れた。


 誰もが恋い焦がれる無欲の聖女、レオノーラ・フォン・ハーケンベルグ。

 アルベルト皇子の想い人と言われ、彼女もまた彼を慕っていると聞いたが、まさか、自分のような平凡な男との出会いに運命を感じてくれるとは。


 もしかしたら彼女は、ずっと聖堂に籠もる生活にうんざりしているのかもしれない。

 それで、結ばれることが到底叶わない遠くの皇子よりも、すぐ身近に手を差し伸べてくれる、自分のような男に魅力を感じたのかもしれない。


 ならば、この千載一遇の機会に、乗らないはずがないではないか!

 脈あり、と判断したオットーは、震える手で少女の手を包み込んだ。


「で……でしたら、僕の、は、伴……」


 伴侶、という言葉を使うのは、曲がりなりにも聖職者であるオットーには躊躇(ためら)われ、結局彼はこんな言葉を選んだ。


「パートナーに、なってくれませんか……っ」

「パートナー……!」

「ええ。あなたと人生を分かち合いたいのです。僕は聖職者だから、聖堂にも堂々と出入りできる。あなたの望む場所に、僕なら連れて行くこともできるかもしれない。あなたは僕を利用してくれて構わない……っ、だから」


 状況に酔ったオットーは、髪を振り乱しながら訴え、最後にこう言い添えた。


「一言でいい。僕の手を取ると、言ってくれませんか?」


 と。










「うーわ、信っじらんない。どうしてあいつって、次から次へと人をたぶらかさずにはいられないわけ?」


 オットーが「レオノーラ」の手を握りしめた時から、ほんの少しだけ時間を遡り――レオがふんわりと微笑みながらハーブを受け取ったあたりのことである。


 相変わらず金の(たらい)を通じて光景を見守っていたレーナは、ちっと舌打ちを漏らしていた。


「今さっき皇子をメロメロにした挙げ句、周囲を盛大に心配させながら客間に運ばれたばかりじゃない。なのに、意識を取り戻すや、今度は導師の坊ちゃんを誘惑するわけ?」


 苛立ちのあまり、盥の横に置いた手が、ぺちぺちと台を叩いてしまう。

 実際、レーナには信じられなかった。


 どうしてこの守銭奴ときたら、ひたすら拝金主義を炸裂させているだけだというのに、呼吸するように周囲を誘惑してしまうのだろうか。


 ――まあまあ、仕方ないじゃない。あの子は、ほら……そのう、常に、わたくしのことを考えているだけなのだから。


 己の視界を金の盥に映してくれているアルタが、そんな声だけを飛ばしてくるが、愛し子の想いを噛み締めているのか、声はデレデレだし態度も甘々だ。


「ふざけないで! あなたがそんな風に甘やかすから、あの守銭奴は一向に態度を改めないのよ! あの体で拝金姿勢を見せるたびに、なぜか優良誤認されていくっていうのはもはやお約束なのに、全然学習しないんだから……戻ってきたらぶん殴ってやる……」


 レーナは苛々と爪を噛みながら、ちらりと背後の扉に視線を走らせる。

 しばらく「レオノーラ」が眠っていたものだから、監視に飽きたブルーノは、「飯を食ってくる」と席を外したところだった。こういうときにこそ、そばにいて一緒にあの馬鹿のことを罵ってほしいのに。


「んもう、こんなときに。さすがにあの草食っぽい坊ちゃんがいきなり襲いかかることはないでしょうけど、口説かれてるところを誰かに見られでもしたら、どんな誤解をされることか」


 ――大変よ。


 と、レーナの独白がまるでフラグにでもなったかのように、アルタが声を強ばらせる。


 ――客間に、アルベルト皇子が近付いてきたわ。


 なんと、この場にアルベルトがやって来たというのである。


「はあっ!?」


 レーナは思わず叫んでしまった。


 気を利かせたアルタが、すうと天井近くまで浮遊して目を凝らすと、壁が半透明になり、扉まであと数歩というところの皇子の姿が見える。

 無駄にきらきらしい男の姿を確認して、レーナは怒りに眉を釣り上げた。


「なんでよ! 『酔ったレディに不埒な真似をしない』ように、距離を取るんじゃなかったの⁉」


 アルタは、しばし周辺に意識を飛ばすかのように沈黙し、やがて補足した。


 ――どうやら、ビアンカ皇女がせっついたみたい。お見舞いに行って、寝顔を見るくらいなら構わないじゃないの! って。


「あんの、色ぼけ皇女ぉおおおおおお!」


 レオの体に収まったレーナは、鳶色の髪をぐちゃぐちゃに掻き乱しながら叫んだ。


「だいたい、それに乗る皇子も皇子だわ。さっきの決意はどうしたのよ! ええ!? 謙虚さと根性はどこ行った!」


 ――仕方のないことだわ。彼はまだ二十そこそこなのよ。欲望の最も強まる年頃だわ。


 金の精霊として、人間の欲望のなんたるかを熟知したアルタは、同情気味に答える。

 それから、この状況を案じたように、うーんと声を漏らした。


 タイミングとしてはちょうど、オットーが「僕は罪深い男です……」と告白を始めた状況だ。

 一方のアルベルトは、扉に手を伸ばさんとしている。


 ――たしかにこの状況、皇子が会話を聞いてしまったら、まずいわね。レオが嫌がる素振りを見せでもしたら、異性に襲われていると誤解して、導師の青年をなぶり殺してしまいそうよ。


「色ぼけ告白男の命はどうでもいいけど、とにかく皇子の接近を阻止しなきゃ――」


 レーナは思いっきり顔を顰めて盥に向かって身を乗り出していたが、ふと、レオの反応を見て動きを止めた。


『私、あなたのような人と、巡り会えるのを、待っていました……!』


 なぜだか、男に興味などなかったはずのレオは、目を輝かせ、前のめりになって青年の手を取っていたのである。


「え……? 乗り気?」


 レーナは一瞬困惑する。

 だが、数年をレオと共に過ごしてきた経験が物を言い、すぐに状況を理解した。


 なるほど、サフィータから手紙をもらうたびに、エランド観光ビジネスへの熱を再燃し、ビジネスパートナーを欲しがっていたレオは、ここに来て理想的な人材を見つけてしまったのだ。


『僕の、パートナーに、なってくれませんか……っ』

『パートナー……!』


 読みはやはり正解だったようで、オットーの告げた「パートナー」という言葉に、レオがぎゅるんと目を光らせるのが見える。


(そういう意味じゃないっつの!)


 どこまでも性的な危機意識に乏しいレオに、レーナは声を荒らげそうになったが、ついで、このように思い直した。


(いえ、ちょっと待って。正直、レオがこの手の誘いに乗る状況なんて想像もしなかったけど……これってもしや、チャンスなんじゃない?)


 そうとも。

 これまで、「レオノーラが襲われる(と見える)」→「周囲がいっそう過保護になる」という図式ばかり繰り返してきたけれど、もし、少女が望んで(、、、、、、)相手に付いていく展開だったら、どうだろう。


 皇子だって、「レオノーラの願いは叶えてやりたい」と言っていた。

 現に、愛しい少女が精霊に一生を捧げることになっても、最後には「それが彼女の望みだから」という理由で止めなかったのではないか。


 ということは、「レオノーラ」自身が望み、さっさとほかの男とまとまってしまえば、彼もいい加減に諦めてくれるのではないだろうか。


(というかそもそも、自分を裏切る女のことなんて、あのお綺麗な皇子は受け入れられないわよね?)


 レーナは想像してみる。

 自分に愛する恋人がいたとして、その人物が寝取られてしまったときのことを。


(寝取ってきた相手のことは、ぶち殺すかもしれないわね。でも、あっさりと誘惑に引っかかってしまった恋人のことも、捨てるわ。不潔だもの)


 自分を一途に愛せない恋人になど用はないのだ。

 そして、プライドの高い人間であればあるほど、その傾向は強いと思われた。


(そうよ、それよ!)


 ここまでの間、約二秒。

 レオの五百倍くらい、男女の心の機微に通じた自分を、自分で褒めてやりたいとレーナは思った。


『あなたと人生を分かち合いたいのです。僕は聖職者だから、聖堂にも堂々と出入りできる。あなたの望む場所に、僕なら連れて行くこともできるかもしれない』


 盥の向こう側で、オットーは熱心に自身を売り込んでいる。

 皇子は、中の会話に気付いたようで、ノックしようと持ち上げた拳が宙で止まっていた。


 アルタがおろおろとしてきて、


 ――ねえ、どうする? 止めましょうか? たぶんこの距離だと、皇子にしっかり内容が聞こえてしまっていると思うのだけど。レオもなんだか乗り気に見える。心配だわ。


 と声を飛ばしてくる。

 だがレーナはいっそ悠然と腕を組み、ふふんと笑った。


「いいえ、止めなくていいわ。このまま、やつがあっさり自分を裏切るところを、皇子に聞かせてあげて。さあレオ、思いっきりイエスと言うのよ!」


 そうしてその先に待つのは、「レオノーラ」伝説の崩壊と幻滅、破局だ!

続きは12時に!(推敲中…)

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[良い点] レオ相変わらず素晴らしい! アル様とレーナもやはり良い! [気になる点] ブルーノの出番! [一言] ハッピーエイプリルフールありがとうございます! 毎回乗り遅れる気がしますが、きっち…
[一言] ハッピーエイプリルフール!(遅刻) どうも金の盥をいつも金盥(かなだらい)に見間違える柊菜緒です。 今回もレオのフラグ建築が進んでますねぇ 本当に押し倒されたりしないのがおかしいくらい。 む…
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