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02 手紙





「さむっ……」


 少し寒い。

 こんな状況なのに寒さが勝る僕自身に驚きだ。


 ずっと笑っていられないのもそうだけど。


 どうして足がこんな薄着なのかとぼやきたいところだ……。しかし自分のVRアバターと寸分変わらない恰好をしていれば文句も言えない。

 そういえば身長も低いみたいだけど……全部変わってしまったのだろうか。


 妙に細い足に、ピッタリとフィットするように身に付けた靴下。太ももだけが綺麗に出てるショートパンツときた。

 それを覆い隠すように長めのローブが足首まで伸びるが、しかし出ているところはしっかりと出てしまっているために通気性がとても良い。

 チラリとコスケさんを盗み見てみれば、向こうも僕を気にしつつ自分の体を見ているようだった。

 というか目が合ってしまった……。


 オオカミが猫背気味に会釈する。


「あっ、お構いなく……」

「いや、気まずいよ」


 なんだよこれ。

 なんで恥ずかしがりながら自分の体を確認してんだ!


 しかしまあ……よく見なくても分かることがある……。

 ショートパンツを引き上げればキュッと引き締まり妙に収まってるこの感じ。

 悲しいくらいに完全に無くなってるのがよくわかる……。


 驚きや喪失感もあるが、しかしなにより感心してしまった。

 未来のVR、感覚まで再現されたVRゲームが存在していたらきっとこんな感じなのだろうか。

 あまりにも唐突でおかしな変化で……なんというか、まったく現実感がない。

 夢でも見てる、そう言われた方が納得できそうだ。


 そして尻尾。

 なんということだろう、尻尾にまで感覚があるではないか。

 意識してみれば自由自在に動く。意外としっかりしている作り。

 どうなってんだいったい……。


 たった一瞬にして体をゲームキャラに変えてしまうとんでも現象。

 もはや奇跡以外の言葉が出てこない。


 だが最後に確認しなければならないことがあった。


「コスケさん」

「は、はぃッ!? なな、なんでしょう!?」


 驚き何かをとっさに隠すような動き……。

 いったいどこを見ていたのか、なんてとても聞けない。

 それよりもだ。


「僕の顔どうなってます?」


 そう、つまり自分で見えない部分の確認だ。

 体はアバター。しかし顔だけリアルのままだっとしたら、それはもう最悪だろう。

 バランスの狂ったモンスターか何かになってしまう。


 コスケさんは僕の唐突な質問に戸惑いつつも口を開いた。


「え、と……、ネコミミ美少女っすね」

「そ、そうなんだ……ありがとう」


 どうやらモンスター化は回避されたようだ。

 しかしまあ驚いた。上から下まで完璧にアバターの体になってしまったらしい。


 そうホッとしていると、コスケさんは何を誤解したのかその大柄な体を一気に寄せてきた。


「あ、もしかして顔自慢ですか!? 私に自慢してますッ!? 私にもチャームポイントくらいありますからね! 見てくださいよこの毛並み! ゲームじゃ再現できなかったモフモフですよ!」

「違うにきまってんだろ!」


 ぐいぐいと押し付けられるふさふさの腕、そして尻尾。

 オオカミの長い毛で覆われた尻尾はまさに至福……ではあるけれど、こんな事をしている場合じゃないだろう。


「ちょっと待ってよ、そもそも何で僕たち森にいるんだ? 家に居たよね?」

「アーさん……、声めっちゃ可愛いくなりましたね……!」

「は? あー……コスケさん?」

「ああ、すみません! 私もアイス取って来てから戻って来たんですが、机に手紙があったんです。それに触れたらいつのまにかここに……」

「僕と同じか……。夢……とは違うよね……」


 森の切れ間から見える空は青。

 太陽の光が差し込み、鳥の鳴き声が木霊する。


 しかし最後に見た時間は明確に夜を示していたはずだ。

 何もかもが変わりすぎて頭のなかがごちゃごちゃになってしまっている。


 考えに耽ると体の大きなコスケさんが「そういえば」と声をもらした。


「手紙だけ残してアイスだけが綺麗さっぱり消えちゃってるんですよ。アーさんもあのアンティークな手紙持ってますか?」

「それなら確か……」


 地面に落としてしまったはずだ。

 下を見れば草の絨毯。その上に足で踏んでくしゃくしゃになった手紙があった。

 無残なそれを摘まんでみせれば、「ありゃま」とオオカミが器用に呆れた表情を見せる。


 しかし……これもなんなんだ。

 机の上にいつのまにか置いてあり、触っただけでこのありさま。

 不気味とか恐ろしいといった気持ちもあるが……なによりまず意味が分からない。


 丁寧に封筒に入れられた手紙を無遠慮に取り出す。

 くしゃくしゃになったおかげで破れそうではあったが、無事に開けた。

 しかしそこに書いてある内容に僕は眉を寄せた。


「読めないんだけど……」

「えっ、何が書いてあったんですか?」


 自分の手紙を読めばいいのに、コスケさんも一緒に手紙を覗き込んだ。

 オオカミの長い鼻が頬に当たる。


 手紙に書かれているのは異国の文字だった。

 まるで知識にないどこかの国のどこかの言葉。


「いったい何語ですか、これ」

「知らないよ」


 オオカミの鼻息が手紙を揺らすが、しかし分からないものは分からないとしか言いようがない。


「コスケさんの方も見てみれば何か分かるんじゃないかな」

「あっ、そうですね」


 鼻息が遠ざかっていく。

 その動物染みた鼻に名残惜しさを感じつつもあらためて手紙に目を落とした。

 何か他にヒントはないかと。


 ……。

 いや……なんだろう……。


 文字に目を移すと奇妙な既視感を感じる。

 知らないはずなのに知っているような違和感。


 なぜか不思議と読めるような……そんな直感。

 手紙にはこう書かれている。


『神々に選ばれた放浪者に信託を授ける。"邪悪なるもの"を探せ。そして討て。さすれば元の世界へ帰還でき、安寧の日常へ戻れることだろう。君たちは選ばれた。それを幸運に想い日々を生きよ。導は常にそこにある』


 なんだよ、これ……。


 どうして読めるのか。どうして意味が分かってしまうのか。

 困惑と不可解さと理解できない感情が渦を巻く。

 僕はいったいどうなってんだ。これはいったい何なんだ……。


「アーさん!」


 その時、コスケさんの声で僕はハッと手紙から目を離した。


「何か分かった?」

「アーさん、これ見てください! 私この手紙読めるみたいです!」

「あ、あそう……」


 一瞬の期待が一気にしぼんでしまった。

 体と同時に知らない言語までも読めるようになっている。

 全く状況は改善しないが、お互い何かに巻き込まれたのは間違いないようだ。


 そう、何かに巻き込まれたのだ。

 薄々と感じていたことを僕は口にする。


「ところでさ……」


 手紙から目を離した。


「どうやって帰るんだ?」

「……さあ」


 鳥の鳴き声が響き、うっそうと茂る緑。

 一見して深そうな森の中。

 ただただ途方に暮れるしかなかった。



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