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第一章一 この森どこですか?

 闇の中にいた。何も見えないし、何も聞こえない闇の中。思考すらもあやふやで、何を考えていたのかすら思い出せない。ただそんな中で、澄んだ声が聞こえたのは覚えている。――聞こえてますか、私の愛しい人。聞こえるなら、どうかお願い、気づいてください――私の×××。




================




 

「この森、どこですか」


 もとから返事など期待してない問いかけを、木々の梢から照らしてくる木漏れ日に投げかける。それに答えたわけでもないだろうが、見上げてる木々が風に揺れてさざめいた。ずっと寝転がっててもしょうがないと思い、伊瀬総司は上半身を起こす。


 目覚めたとき、ソウジは森の中にいた。

 最初目に入ったものは暖かな日差しだった。え、ここどこ? と上半身を起こし辺りを見回すと、映画でしかお目にかかったことがないような森林。十七年に及ぶ人生の中でこんな場所は来たことがない。訳がわからず辺りを見回し続けても、誰も質問に答えてくれそうな人などいなかった。

 ほんとにどこだここ、たしか俺は昨日学校帰りに友達とジャンクフード店に寄って、その後――


「っ……!」


 思い出そうとした途端、頭に激痛が走った。痛いという言葉すらも言葉にならない。なんだこれ。なんでいきなり頭痛が。


「っづあ……!」


 比喩的でも何でもなく、頭が割れそうに痛む。頭痛がひどすぎて何も考えられない。そして前のことを思い出そうとするのをやめると、嘘のように痛みが引いていった。


「……なんだこれ、いったいどうなってんだ……?」


 帰宅途中に拉致され、薬でも打たれてここに捨てられたのだろうか。そんな馬鹿な、とも思うがそのくらい馬鹿げてない限り、この状況に説明はつかない。

 気がつくと謎の森に放置されてるわ、思い出そうとすると頭は痛むわ。謎ばかりだが、とりあえずここがどこかわからないと始まらない。ソウジは立ち上がり、適当な見当をつけて歩き出そうとする。


「あ、持ち物は……」


 いつも通学に使っているリュックサックは背負ってないし、辺りを見回してもどこにもない。制服についているポケットの中身を探るが、いつも入れているスマホもハンカチも、ポケットティッシュもない。財布はリュックの中のはず。


「どうしよ、花粉症持ちにとっては、この木が全部杉だったらティッシュがない俺には死活問題だぞ」

 

 当面はそんなことを考える余裕もないだろうが、軽口を叩いて自分を落ち着かせようとした。

 荷物は全部なくなっている。強盗にでも遇ったのだろうか? この制服売っても二束三文だろうし、それとも荷物持って行った奴にも服はかわいそうだという心があったのか。

 なにも手がかりがない状態では、考えても仕方ない憶測をつらつらと考えながら歩いて行くと、ここに来て初めて生き物を見かけた。


「……猫?」


 猫というには他のネコ科の動物の血が混じりすぎているような姿で、少し危険そうな気もまあかわいいからいいか。


「にゃーん。ほらほらお兄さん目は死んでるけど怖くないよ-」


 動物好きの血が騒いでしまい、ソウジは身をかがめておいでおいでとやってしまう。あ、噛まれたりしたら病気大丈夫かなと考えるも、その猫っぽい動物は一目散に逃げてしまった。


「うーん、相変わらず動物には好かれんな。あ、違った動物にも、か」


 小粋な自虐ネタを発するも、ここには反応してくれるものは何もいない。あの猫っぽいのの後ついて行くのも悪いか、と思い少し進路を変えようとするソウジの鼻が、わずかな異臭をとらえた。


「……獣臭さ?」


 いや。いやいやいや。こんな森で獣臭がするって相当まずいんじゃないだろうか。イノシシ? それとも熊とか出てきたらどうすんの死んだふり?

 冷や汗が出る。逃げたいという欲求がありつつも、ここで走ったりして大きな音たてたりしたら見つかったりしないだろうか、いやもう見つかってるのかも早く通り過ぎてくれ。

 だがそんな願いも空しく、ソウジの前に現れた獣は――


「……なんだあれ」


 百七十センチはあるソウジの身長よりも高い位置に頭がある、巨大な虎のような獣。

 だがその体表に虎のような模様はなく、代わりに異常に長い針のようなものが、体のラインに沿って生えていた。そして何よりも目を引くのが巨大な牙。見るからに成人男性の頭よりも大きい。一番近い動物をあげろと言われたらサーベルタイガーかもしれない。図鑑でしか見たことがないが。

 あんなのに襲われたら死ねる。お願いこっちに興味持たないでとソウジは願うが、残念ながらその獣は、敵意をむき出しにしたままこちらを見やり、目をそらさなかった。


 落ち着け……ゆっくりとゆっくりと……

 叫びだしそうになるのを押さえ込みながら、ゆっくりと後ずさる。獣から目を離さないまま段々と距離は開いていく。あれこれもしかしたら逃げ切れるんじゃないのと思ったとき、右足が小枝を踏み折った。


「ヴァアアオォォオウ!!」


「うおおおおお!?」


 飛びかかってくる獣。ソウジは思いっきり横に体を投げ出した。

 何も考えず体を放り出したため、体のあちこちをしこたま地面にたたきつける羽目になる。


「ぶっ」


 衝撃で声が漏れ、一瞬息が詰まる。

 その甲斐あってか運のいいことに、背後にあった木の幹に獣の牙が深々と突きたっていた。

 ――よっしゃ!

 それを見たソウジは身を翻し、脱兎のごとく逃げ去る。よかった、そのまましばらく動かないでくれ! だが、背後からミシミシと不吉な音がした。


「うっそだろおい!?」


 後ろを振り向くと、獣は幹をそのまま噛み砕こうとしていた。

 どんだけ顎の力あるんだよとソウジは毒づきたくなったが、そんな余力があるならば、と思いさらに足に力を込める。

 あんな奴からは一刻も早く距離を置きたい。後ろを振り返ることすらなく全力で走り続ける。いきなりすぎる遭遇と急な運動で心臓が抗議の声を上げた。

 後ろから咆哮が聞こえ、牙を幹から自由にした獣が追いかけてくる。幸いにも木々が生い茂っている場所なので、木々に体をぶつけながら走っている獣はあまり速くない。が、段々と距離を詰めてくる。

 もう無理、これ以上は走れない。

 食われる運命か、とソウジが頭の中で思ったとき、獣の足が止まった。

 

 ――助かった?


 そう思った瞬間、踏みしめていた足下が消える。


「ぐっ、ぎ」


 そこから先は言葉にならず、ソウジはただ崖を転がり落ちていった。断片的に意識が途切れ、水面に叩きつけられた衝撃でまた意識を取り戻す。


 崖の上に獣の姿はない。ああ、あいつ下が川だから追ってこなかったのか、とぼんやりと思う。川の流れは意外と激しく、ソウジの体をもみくちゃにする。まあ噛み殺されるより溺死の方が楽なのかな、どっちだろうと薄れゆく意識の中で考えた。


 「え、ちょ、ちょっとお兄さん大丈夫ですか!?」


 意識が途切れる寸前、慌てた女の子の声が聞こえる。

 いい声だな、と場違いにもそんな考えが浮かび、完全にソウジの意識は途絶えた。  

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