紫雀の婚活物語 その2
こんにちわ、紫雀です。
お見合いは一つ断ると、次の見合い話がやってきます。
仲人さんは、結婚させて、ナンボのお仕事ですから、
早く成立させようと必死になるわけです。
ある日、私のもとに、こんなお見合い話が舞い込みました。
そのお相手の男の人は、お父さんが市会議員で会社を経営していて、
ゆくゆくは自分が継ぐという立場の人でした。
見合いをして次の日、仲人さんから
電話がありました。相手の人が大変気に入った
のでお会いしたいという連絡です。
次の週の日曜、美術館で会うということになりました。
美術館であった彼は、終始、耳を澄まさないといけないくらいの
小さな声で返事をします。
おまけに、展示してある美術品をろくに見ることなく、
さっさと先に進み、出口まで行ってしまいました。
唖然としました。
誘ったのも美術館に決めたのも自分でしょう?
どうして、一人で先に行っちゃうわけ?
釈然としないまま、出口にいた彼と合流
その後、喫茶で食事してから
彼の車で、家まで送ってもらうことになりました。
車に乗り込んだ彼は、例のボソボソ声で
うれしそうに言いました。
「ぼくはネ、もう家を建てもらってるんだ。僕がお嫁さんをもらったら、
一緒に住みなさいって、両親が立ててくれたんだよ」
「……そうですか。よかったですね」
彼の精一杯のアプローチだということは解っていましたが、
どうしても彼と結婚する気にはなれません。
それに彼の覇気の無さが気になります。
本当に
影のうすさを感じさせるほど覇気が無いのです。
帰ってから仲人さんに断りの電話を入れました。
仲人さんは
「こんな素晴らしい話はないのにどうして断るの?ゆくゆくは社長婦人なのよ」
などと電話口の母にぶつぶつ文句をいっていたらしいです。
『そんなに素晴らしい話なら、自分がすれば?』
そう思いました。
他人にある程度合わせる事ができないと
会社の社長にはなれないだろうし、
彼の代で会社はつぶれるだろうと思いました。
その6か月程、後のことです。
また、仲人さんから電話が入りました。
「あなたのお嬢さん、議員の息子と結婚しなくてよかったわネ、
あの人、急な病で亡くなったのよ。」
仲人さんは電話口の母にこう告げました。
背筋が寒くなりました。
もし、見合いが成立して、結婚していたら
今頃、私は未亡人です。
なくなった彼には、お気の毒ですが、
話が流れてほんとによかったと思いました。