夕暮れ
空が鮮やかなオレンジに変わった。心地の良い風を肌に感じながら、ゆっくりと歩いていた。すれ違う人達も穏やかな顔をしていた。犬の散歩をする人、仲良さそうに2人で話す中学生、楽しそうに写真を取るご老人、周りを見渡せば幸せそうな人達ばかりだった。僕もこの時間はとても好きだった。それでも辛いときもあった。半年前のことだった。
僕は、その日から高校生を始めていた。中学校から離れたくて家から遠いところを選んだ。知り合いはいなかった。お世話にも明るいとは言えない性格の僕は、しばらく1人だった。下を向いていることがとても多かった。 帰り道も寂しかった。それでもしばらくして、友達が一人できた。優しい穏やかな人だった。その友達の友達とも仲良くなれた。個性の強い人だった。毎日が楽しかった。普通の会話、何気ない戯れ、授業中のどうでもいいささやき、どれもが楽しかった。恋をすると世界が全く違ってみえるとよく聞くけど、それに近かった。下を向くことも少なくなった。
懐かしいことを思い出していた。半年前は空がこんなにも綺麗だとは思わなかった。すれ違う人達のことなんて気にも止めていなかった。不意に思ったことがある。もし、神様がやって来て自分の理想道理の世界を作ってくれたとしても、それは綺麗ではないと思う。辛いことを乗り越えて、やっとたどり着いたからこそ世界は美しいのだと思う。初めてアルバイトをして買った安物のハンカチ、たくさん練習して勝った初めての試合、どれもかけがえのない物だった。走っていったその先にある光景が綺麗あって、誰かからもらった物にその美しさはない。だから、いま、何気なくみた夕暮れを綺麗だとは思えることが僕は、すごくうれしい。