童話「海辺の国の大きな木」
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あるところに、いろんな国をまわって勉強する、頭の良い旅人がいました。
彼は、行く先々で新しいことを覚えて、行く先々でその知識を喧伝してまわる役目を持っていました。
彼は、自分がなんでも知っていると思っていました。
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ある日、彼は、海辺の国にたどり着きました。
そこには、誰もが見上げる、それはそれは大きな木がありました。
誰よりも大きく、どの家よりも大きく、お城よりも大きい、とてもとても大きな木でした。
どんなに古い本にも、木のことが書かれていました。
ずっとずーっと昔から、その木は海辺の国にあったようです。
木は、国のみんなの誇りでした。
ほかの国の人たちもみんな、その大きな木を見たくて、その国にやって来ました。
それくらい、誰もが知っている木でした。
でも、旅人は知りませんでした。
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木が生えているのは、海のすぐ近くでした。その姿を見た旅人が言いました。
「海の近くにあっては、この木は遠くないうちに枯れてしまうよ」
旅人は、魔法のような言葉をいっぱい使って、その国のみんなに「木が危ない」と言い続けました。
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お散歩をしていたおじいさんは、「ずっと昔から元気に立っているのだから、そんなはずはない」と取り合いませんでした。
農家のおじさんは、「大変だな」と相槌を打ちました。
通りすがったおばあさんは、にこにこと話を聞いて、旅人に施しを与えました。
近くで遊んでいた子どもは、「なに喋ってるの?」と、難しい魔法のような言葉にチンプンカンプンでした。
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旅人は、声が嗄れても訴え続けました。
その様子を見たある青年が、
「こんなに一生懸命に訴えている彼の言うことを信じないのはおかしい」
と周囲の人々に声をかけ始めました。
青年に声をかけられたひとたちも、
「旅人は頭が良いのに信じないのはおかしい」
「声が嗄れるまでうちの国のことを思ってくれているのに、こんなのって可哀想」
旅人は、その様子を見て、満足気に国を後にしました。
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日が経つにつれて、この声は国を覆っていきました。
大きな大きな声になって、木のてっぺんにまで届きそうなくらい大きくなった頃、
王様がたくさんの家来と一緒に、青年の前にやってきました。
王様に対しても、青年は、旅人から聞いたままの魔法のように難しい言葉を話します。
王様はすべて聞き終えて、ゆっくりうなづくと、
「みんな。木を動かそう」
国に住んでいる人、みんなにそう呼びかけました。
国中が、喜んでそれに同意しました。
青年は、そんなみんなの様子を嬉しそうに眺めました。
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それから、何日も何日もかけて、木を動かすにはどうしたら良いか考えました。
お城の誰かが、土を掘って木を動かそうと言い、青年がそうしようと言い、みんなが同意しました。
実は、旅人がいないので、誰もどうしようか思いつかなかったのです。
それから、いろんな国のひとたちも呼んで、みんなで木を掘り返しました。
いっぱい時間がかかって、いろんなひとが引っ越しをして、地面が穴ぼこだらけになって、木を掘り返すことができました。
何日もかけて根っこを引っ張って、何日もかけて横にして、何日もかけて引きずって、ついにお引越しが完了した頃、季節は一周していました。
みんな、木を動かすことにずーっと注目していたので、木のことは見ていませんでした。
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根っこが掘り返された頃、木は、元気じゃなくなっていました。
元気じゃないと気づいた頃、木は、まるで別の場所に移されていました。
もう、緑色の葉っぱは茶色になり、国中を引きづられたので、枝もぼろぼろでした。
それに気づいたのは、木が引っ越したあとでした。
何日も何日もかけて木を動かして、みんなが喜んで、動かす日と同じくらいして、木は誰も見たくないくらい元気をなくしました。
木を見に来るひとは、もうどこにもいません。
青年は、うなされて死んでしまいました。みんなが、彼に騙されたと大きな声を上げたからです。
海辺の国からはどんどん人がいなくなりました。誰も木を見たくないからです。
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それからもっとずっと長い時が経って、旅人がやって来ました。
その頃、海辺の国には誰もいませんでした。
静かな、静かな国中を歩いて、旅人はいろんな本を燃やしました。
「もう、みんな木を知らない」
満足そうに笑って、旅人は別の国に歩いて行きました。
旅人が言ったことは、みんなによって実現されました。
でも、旅人が言ったことをわかっていたひとは、誰もいませんでした。
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