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小さな白と幼き白の物語  作者: 森護人
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レクチャー1 <終章>

案3 体を動かそう


「良質な睡眠を確保するには、やっぱり適度な疲労、つまり運動が必要のはず!

運動、子供のときは絶賛遊びに限ります!子供の頃の遊びはとっても大切なもの!


なので、お外で遊びましょう!!」


「やー。」


「なんでっ!?」


「お外、こわいよ。」


「怖くないよっ 今はまだ陽も出ているし、まだ冬も到来していないし、小さな虫とかもいるし」


「やだ~・・・。」


首をフルフルと振りながらミーは外に行くことを頑なに拒絶する。


「ん~~・・・じゃ、お部屋の中で遊ぶ?」


「うん。」


遊び自体には拒絶する様子はないため、室内での遊びを提案すると素直に頷いていた。

で、遊びの内容がなぜか・・・。



(なんで・・・「鬼ごっこ」だなんて鬼畜な遊びをぼくは言い出してしまったんだろう。)



現在、絶賛目の前には真剣な目でこちらの出方を伺っている白い獣が一匹。対して、そのお相手となっているのが、小柄な齧歯類げっしるいと呼ばれる種族である自分である。

相手の動きを見つめながら乱れる呼吸を静かに整えていた。


室内遊びといえば、気軽に、本当は誰でも気軽に遊べるであろう「ボール遊び」や猫たちが好きな「猫じゃらし」を使ったものを考えていたのだが。


それが、甘かった。

目の前にいるこの「猫らしからぬ」子猫は普通の猫たちとは何やら感性がややズレているということをぼくは失念していた。


そう、興味を引かれるどころか、怯えてしまったのだ。

「ボール遊び」も「猫じゃらし」も。

まさかの敗退にぼくはただ唖然とするしかなかった。


え?じゃ、なにして遊べばいいの??と考えに、考えて・・・

出たのが、今現在進行中の「鬼ごっこ」である。


しかもお相手はぼくただ一匹という、鬼畜っぷり。


ほかの仲間を呼ぼうにも、ぼくの仲間は猫に免疫なんてあるわけないし(というか、関わりたがるわけがない)、ほかの種族ではミーが怖がって出てこない。(同種の猫たちも同様。でも、ミーが怖がらなくても関わってきたならば間違いなく標的がぼく限定になって死ぬ。)

ダメもとで、主様にお願いしてみようかと思ったけど、やや立て込んでいたため、遊びを付き合ってもらうのは断念した。


よって、結果は「今」に戻ってくる。


しかし、結果はぼくが思っていたことよりも斜め上の状態になっていた。

対面する獣ことミーは普段とは違い、随分と動きは俊敏なのだ。

普段の弱々しい態度など今はなく、動きは初心とは思えないもの。

いや、俊敏さでいえば


(もう成体の猫と同等と言えるほどといってもいいかもしれない。)


「猫らしからぬ」感性を持っていると思っていたが、この身の俊敏さはさすが本分の猫といったほどの身体的能力を持ち合わせている。

しかも、なにげに苦戦するのが・・・


(視線を外した際に、ミーの居場所がなぜか把握できない!!)


普通、目線から外れても、生き物であればある程度は捕食者や獲物に対する正確な位置を感覚や狩りの経験にて把握することができる。

そのために、それぞれの種族に長所とされる感覚器官が存在するのだ。


ぼくの場合はもっぱら、聴力や捕食者より発せられる殺気を感知する能力が優れている。

特攻隊の、ましてや子猫と相違ない子達であれば、5匹ぐらい相手になっても逃げ切れる自身はある。さすがに成体となった猫であったならば3匹程がぼくにとっての限界だが。


どんな生き物でも狩りをする場合では、間違いなく僅かにでも殺気は出てしまうもの。ぼくはその「僅かな」殺気でさえも感知する能力が高いため、ほかの仲間たちよりも早く、軌道を修正することや反撃することができるのだけど・・・。


だけど、ミーの場合はそれがなぜかできない。


普段の猫たちから感じる「殺気」がミーからは感じないのだ。

そのためなのか、ミーから視線を外した瞬間に、ミーが認識できなくなる。

いくら聴覚を鋭敏にしても把握できない・・・足音すらも・・・。


そして、気づけば真横から迫られていたり、突如前から出現するという驚くべき状態に陥る。

それでもなんとかギリギリのところで逃げることができているのだが、正直。


(主様と修行で相対している時と同じぐらい、やりにくいっ!!)


我らが主様もこのような状態での修行を何度かしている。ただし、今回のような「遊び」ではなく、「実践」・・・つまり、任務に向かうためのもの。

しかもその一撃は間違いなく生死を関わるほど強く、重い。

その修行に比べれば、間違いなく「易しい」部類に入るのだが・・・


ぼくがギリギリで避けることができているのは間違いなく、ミーがまだ「完全」な成体に成り得ていないからという現状が大きいだろう。


(この子、大人になったらどれだけの器になってるんだろう・・・。

ぼくなんて、すぐに追い抜いて随一の諜報員になれるんじゃないの?)


と、そこまで考えを深めすぎたのがいけなかった。

ハッと気づいた時にはすでに遅く、目の前には強固な壁、慌てて後ろを見れば、ミーが淀みない姿勢で立ち塞がっている。

考え事をしてしまったせいで、壁際に追い詰められるという愚行を自ら犯してしまったのだった。


(・・・しまったな、余計なことを考えるんじゃなかった。

どうしよう、どうやってこの子の包囲から抜けようか・・・。)


ただの子猫であったなら、きっと今獲物を追い詰めることができたと思い、優越感に浸かっていたことだろう。

そういう相手は動きが読みやすい。

なぜなら油断が生じているため、動きがやや杜撰ずさんになりやすいのだ。そのような相手なら掻い潜ることなど造作もない。


しかし、ミーにはそれがない。

とことん殺気がないことと、感情が読めないのだ。

ただひたすら、目の前の存在を見つめる。


動きを、目線を、・・・全てを・・・。


だからこそ、下手な動きができない。

だからこそ、下手な目線を向けられない。

だからこそ、下手な案はすべて看破される。


そんな考えが、ぼくの中で占める。

数秒ともつかないにらみ合いで、背中に脂汗を感じる。

こんな心理戦をこんな場所で経験することになるだなんて・・・ましてや、まだ幼い子猫相手に感じるだなんて、未だに信じられない・・・。


どうする・・・フェイントを仕掛けてみるか、それとも、真っ向勝負で行くか。


両サイドから逃げを打っては間違いなく負ける。

瞬発力や俊敏性では間違いなく相手の方が優位だ。


それに今回「牙」を使うことはぼくの望むことではないし、ましてやミーに使うのは間違っている。

この子と今やっているのは「実践」じゃない、「遊び」だ。


(・・・なら、悩むこと、なかったかもね。)


そう、今現在行っているのは「遊び」。

しかも、夜 ミーが夜啼きせず、ぐっすり眠れればいいと思って始めたこと。

なら、戦略的なものは今絡まなくていいことだ。


ぼく自身の中で、覚悟を決めると、両手両足を踏ん張って、目の前の獣と改めて対峙する。


視線を一瞬合わせたあと、ぼくは駆け出した。一直線に、白猫の懐へ


急速に縮まる距離に、白猫はその赤い眼を眇め、右の前足を僅かに浮かす。

その僅かな動きを確認すると同時、ぼくは今もてる限りの全力を使って急加速した。


急加速することによって体に掛かる負荷は重くなるが、その分突発力は並ではないため、一瞬で白猫の包囲網を潜り抜けることができる。


が、完全に抜け切れる前に、目の前にゆらりと蠢く白くしなやかな物体、尻尾が足払いを仕掛けてくる。

しかし、それもその場の勢いに任せた大ジャンプにて無事回避することに成功する。


なんとか危機的状況を真っ向から回避することができたため、内心でホッと安堵するが、またまたそれがいけなかった・・・。

すぐ目の前に現れた物体にぼくはそのままの勢いでぶつかりに行ってしまったのだから。


ボスっと柔らかい物体に正面から入り込んでしまい、また、ぼく自身も勢いがありすぎてしまった。

そのため、その物体の裾を踏んづけてしまっていたことで止まることはできず、勢いを失うことすら出来ないまま、ぼくはその物体に「包まった」状態でゴロゴロごろっと前転してしまった。


(し、しまった。掻い潜れたことに満足して、周囲の確認をするのを、忘れてた・・・。)


基礎中の基礎をまさか頭からすっぽ抜けていたとは・・・そう、反省するが時すでに遅し。


短時間による「遊び」のはずだったのだが、思わぬ苦戦を強いられたためぼくにとっては間違いなく「修行」と同じ全力を出さざるをおえなかった現状。

それゆえに、それ相応の疲労感が蓄積されてしまったということ。

そして、もっとも愚かにして致命的なのが・・・急な前転運動に目を回してしまったことだ・・・。


(こ、今度から、連続の前転運動を取り入れていこう・・・)


最後にそう思い、ぼくはそのまま意識が遠のいていくのを感じていた。


***


意識を失ったぼくは、どうやらそのまま寝入ってしまったらしく、次に目を覚ました時には、朝になっていた。


あぁ・・・夕御飯、食べ損ねた・・・と心の中でがっかりすると同時にかなり妙な違和感を感じていた。


妙に暖かいのだ。しかも、すぐ近くで何かの寝息を感じる。

それにそれに・・・認めたくないが、視界の端に、昨日から妙に見つめている白いふわふわの毛が伺えている気が・・・。


ギ、ギギと、錆びれた人形のような動きで、ゆっくりと、右に顔を向けると・・・そこにあるのは・・・超至近距離で寝入っている真っ白な毛に覆われた、獣の顔そのもので・・・



「っっっ!!!?」

(ひっ、ひいいいいいいいぃぃぃっっ!!!!!!)



ぼくは、恐怖が行き過ぎると、悲鳴すらまともに出せないのだということを、



今日


初めて


身を持って体験した。





そしてさらにぼくにとって酷過ぎる試練・・・というか苦行が待ち受けていた・・・・。


「あ、チーザ。お前、今日からミーちゃんと一緒に寝るようにね。」


「は・・・。」


「あんたと一緒に寝てると、ミーちゃん夜啼きせずにしっかり眠ってたのよ。

部屋を真っ暗闇にしても起きもせずに寝入っててね。」


「え・・・。」


「これで電気代が少しわ浮くわ。いやー助かる。」


「ちょ、あ、主様?そ、それは、ちょっと」


「あ、拒否権ないから。それに、一緒に寝てても狩られていないから、大丈夫でしょ?」


「はぁぁぁぁぁぁ?!!」


大丈夫なわけあるかーーーー!!!


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