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小さな白と幼き白の物語  作者: 森護人
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レクチャー1 <序章>

楽しんでもらえれば幸いです

ミーがひとまず落ち着いている様子を何とはなしに見続けていると、不意に影が覆った。


「おぉ。こりゃーさすがに驚いた。まさかたった数時間で、この子の警戒心をこうも容易く解くとはね~。さっすがチーザ。どんな魔法やイカサマを使ったのかしらね?」


頭上から、これまたいつの間に戻ってきたのか、気配なく部屋に入ってきた主様あるじさまは感心感心と言わんばかりの口調で話しかけてきた。

でも、さすがにイカサマはないんじゃないですかって思ってムッとする。


「イカサマって、そんなの使ってませんし、なんですかその言い方は。まるでぼくが詐欺師みたいな言い草じゃないですか。」


「ふむ、詐欺師か。その言い方もあるな」


「ちょっと、主様。本気で感心しないでくださいよ。」


「まぁ、それはともかく置いといて。どうやらうまくこの子と折り合いはつけたみたいね。

ありがとう、チーザ。」


「いえ・・・。」


「んじゃ、これで問題なくこの子はあんたの側付きに任命できるわね。」


「え゛、そ、それとこれとは別ってことには」


「無理、拒否権なし、他者への譲渡は一切不可。返品不可。」


「ちょ、なんですかその悪徳企業の押し売りの常套句のような言葉の羅列は。それに最後の一言、ミーを物みたいに扱ってませんか?!」


「ふーん。ミーちゃんって名前にしたのね?チーザ。」


「あ゛。」


主様の押し押しトークに負けないように反論をしていたら、自ら墓穴を掘ってしまった。

見れば、主様はこれ以上ないほど笑っている。そりゃーもう、ニヨニヨともニヤニヤとも言わんばかりの、見てるだけでなんとなくむかついてくるような、目線だ。


「女の子に、名前をつけたってことは、それ相応に男として責任は取らなくっちゃいけないわね?チーザ。」


「ちょ、ちょっと待ってください!名前を決めたのは確かにぼくですけど、それはないと不便だからって意味で。そんな責任を取るなんて」


「あら?それじゃ、なに?あんたは女の子に名前をつけてあげたにも関わらず責任は一切取らないって言うの?

そもそも名前とは、そのモノを表す言葉であり、そのモノの一生を表すと言っても過言ではないほどのもの。とっても神聖で尊きものであることは、あんたは知っているはずよね?」


「そ、それは・・・そうですけど・・・。」


「そんな一生ものをあんたはミーちゃんに上げたんだから。

責任を取るのは あ・た・り・ま・え でしょう?」


「~~~っ」


(いけない、このパターンは主様のハチャメチャ理論がゴリ押しされる流れだっ!ど、どうにかして突破口を見つけないと!!)


ミーが側で寝ている傍らで、じわじわと周りを掘り固めていこうとするような口論が静かに開戦している。

と、いうか主に主様が一方的にぼくを搦手からめてでねじ伏せようとしているのだが。ぼくの方が間違いなく分が悪いのは目に見えている。


「・・・せ、責任を取れって言いますけどね、主様。ぼくはどう見てもネズミで、ミーは猫なんですよ?

責任とれってあれですか、ぼくはミーに食われろってことですか!?腹の足しになってこいってことですか!?

嫌ですし、無理でしょ!そもそも責任の取り方が違うでしょう!!」


「誰が、ミーちゃんのご飯の話なんてしてんのよ。

あたしは男として責任を取れって言ってんじゃないのよ。」


「男としての前にぼくはネズミです!!種族として無理でしょう!」


「男と女の問題でしょ。種族はこの際問題としていない」


「問題大アリでしょうが!!!」


やっぱり来たよ、この人の口論の攻略に関して一番の難所にして難関な「ゴリ押し戦法」が!

どんなに無理だって言っても一切異論、意義は認めない別名「頑固論」

この人のこれを突破できるのは今現在、ぼくの知る限りではタカさんただ一羽のみ。

主様のゴリ押し論を突破するには少なくとも異なる議題が2つ以上出題していないといけないわけで・・・。


そこまで思って、一瞬でぼくは悟ってしまった。

今現在の議論の内容が ミーのことしか出ていない ということを。


(あ。ぼくもうすでに回避不可だったや・・・)


い、いやいや。簡単に諦めることはしてはいけない。

獣たるもの、自分の持ちうる限りの手札と、その場の環境を利用してなんとか最良の一手を掴み取らなければ!!


ぼくはささっと自分の周りを見回して、現在の状態を打破できるものがないか詮索すると、すぐそばで、白いふわふわの毛の塊が穏やかな呼吸で寝入っているのを目にした。


(そうだ!いま寝入っているミーを起こせば、主様の注目が、ぼくからミーに移るかも!

議論の内容ももっぱらミーのことだし!!)


そう思って、ミーを起こそうと体に触れようと動き出そうとした途端だった。

不意に首の後ろの皮をむにゅっと掴まれる感触がしたかと思うとそのままゆっくりと体が空中へと引っ張り上げられてしまっていた。

そしてすぐそばで聞こえる主様の声。


「チーザ、あんたが考えつく行動なんて目に見えてわかってるわよ?

気持ちよさそうに眠っているミーちゃんを起こそうとするなんて、あんた酷いことを考えるわねー」


いま、間違いなく。主様の顔を見れば、悪魔か、悪鬼のような顔つきをしているであろうことが容易に想像できるぼくは、顔だけでなく、全身に冷や汗が吹き出しかねない勢いで顔を伏せていた。


(いま、いまぼくが主様の顔を見れば間違いなく、1週間は夢に見てうなされる気がするっ!!!)


本能と理性が一体となって確固たる答えを導き出すと、その答えのあまりの恐ろしさにただじっと顔を伏せ続けていた。

伏せている先で、さっきまで動く気配や起きる気配がなかったミーの真っ白い両手両足がウゴウゴと動きだしていた。

「みゅぅ・・・」と、寝言なのか、唸り声なのかわからない声まで聞こえてくる。


「ふむ。どうやらあんたはミーちゃんにとっての安眠枕的な存在にもなってるみたいね。」


「あ、安眠枕?」


「ほんとに、どんな魔法を使ったんだか。それともあれか、人間で言う天然ジゴロか?」


「失敬な!ぼくは自分の生計ぐらいしっかりできてますよ!!」


「いや、そうじゃなくて・・・。」


そう言うと主様はやれやれとため息をつくと。

どこから出したのか、焦げ茶色の小さな布切れを取り出していた・・・って、あれ?なんか見覚えが・・・


「よっと。」


主様の一声でふわっと広がった焦げ茶色の正方形の小さな布切れは、ミーの体から尻尾の先っぽの部分まで覆い被した。

しばらく、両手足を動かしていたミーはまた穏やかな呼吸で眠りに落ちていた・・・って、ちょっと待った。


「あ、主様?これ、ぼくものすっっごく見覚えがあるというか、つい最近まで目に入っていた物と一緒に思えるんですけど」


「うん。そりゃ見覚えあるでしょ。あんたの掛け布団だもの。」


「あぁ、なるほど。やっぱりそうでしたかー・・・・。って、なんでですか!!?

どうして主様がぼくの掛け布団持ってるんですか!というか、今までずっと持参していたんですか!?」


「ん?今日は天気がよかったから、順番にみんなの布団を干そうと思ってね。

あんたの掛け布団は、あんたとミーちゃんを引き合わせて上げたあとにあたしがあんたの寝床から回収して、様子見に来るがてらに取り込んでたから今手元にあったの。

んで、ぐずっているミーちゃんの安眠を守るために、お前の掛け布団は贄となったのさ。」


「途中まではとってもありがたい話だったんですが、後半からは有り難み(ありがたみ)もへったくれもなくなりましたね。」


「いいじゃない。日光浴したあとだから、あんたにまとわりつくダニとかは死滅しているはずだし。ミーちゃんの体に害はないよ。むしろ太陽光に今まで当たってたから程よい温度でさらに寝心地抜群のはずだしね」


「あ、それはよかった。

・・・って、そうでもなくて!そもそもなんでぼくの布団なんですか!今日からぼくは掛け布団なしで寝ろってことですか!!」


(いや、別にないと眠れないってわけじゃないんだけど、ここらへんはただでさえも気温が低めだからないと寒くて寝づらいことがあるだけで・・・)


「そんときはミーちゃんと一緒に眠ればいいじゃない」


「できるか!!!」


「なーにー?そんな年で同衾どうきんが恥ずかしいのー?」


「違います!恥ずかしい云々の前に、ぼくが死んじゃいますよ!!!」


「羞恥心では精神的に死にかけることはあっても実際に生命の危機ってほどにはならないわよ。」


「だーかーら、そうじゃないですってば!!

生物の序列的に考えて、ぼくたちねずみにとって天敵である猫のそばで寝て、命の危機がないわけないでしょう!!

食い殺されるか、寝ぼけて圧迫されて圧迫死するのが目に見えているでしょうが!!」


「いや、猫は半夜行性だし、ましてやチーザ。あんたも夜行性でしょうが。

そんなあんたが、子猫の寝返りぐらい軽く避けれなくてどうすんの。」


「う。そ、それでも、ぼくは朝早くにいく仕事もありますし、仮眠を取ることだってあるんですよ?」


「早朝の仕事って言ったって、毎日ってわけじゃないでしょ?夜に仮眠を取る回数はそんなに多くなかったと思うけど?」


「・・・」


(うぅ・・・主様の言うとおり、そんなにぼくが早朝の時間に仕事に行くのは、主様の緊急の用件や案件を相手先に届けたり、伝えたりすることぐらいで。

ましてやそういう伝令役の仕事はほぼ鳥類であるタカさんたちの管轄だ。ぼくはあくまでの鳥類の皆さんが出払っていた時に駆り出される補佐でしかない。)


「どうやら反論は出尽くしたみたいね?チーザ」


「う、うぅぅ・・・。」


「はい、じゃ。男としてもミーちゃんのことにちゃんと責任を持つということでこの話は終いね。」


「ちょ、それはまだ!」


「あんたに今後ミーちゃんのことで頼みたいことが何項目かあるから、一旦場所を変えるわよ。」


ぼくは主様に首根っこを引っ掴まれた状態でブラブラと空中を漂いながら、場所を移ることになった・・・。



ご閲覧、ありがとうございました!

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