悪役で人生終わりたくないから前世の力でエセ魔法少女になる
「(あーあ、今日もぼっち下校かあ)」
とぼとぼ帰り道を進む。漫画みたいに小石を蹴ってみた。溝に落ちた。ゴール!……むなしい。
……まさか、中学2年の真ん中で、急に親友2人にハブられるなんてなあ。
私に対して親友のアカリとアオがよそよそしいというか、何か隠してるらしき行動を取り出したのは2ヶ月ほど前。
一度、何かしちゃった?と聞いてみたけど、2人は否定して、なぜか言葉を濁して、それで終わりだった。
はぁ、と思わずため息が漏れる。
実はこの辺り、最近世界を征服しようとしているらしい『怪人』とやらが出没する。
その被害に遭う人が増えているので、学校の先生たちが危ないから何人かで帰れと言うけど、親友のはずの2人がなぜか一緒に帰れないことばかりな今、私にとって下校できるような友達はいない。
あと20分もすれば家だ。つらいことは忘れて、ゲームでもしよう。家に早く帰ってしまおう。
――――そんな気持ちで、広場を突っ切って、ほんのすこし近道したことが、いけなかったのかもしれない。
「ヒャァァアッハァァァア!!!」
「ヒャァァアッハァァァア!!!」
うるさいテンションの高い鳴き声が四方八方から聞こえる。見渡す限り一面の黒タイツ。…壮観である。
囲まれた人はもちろん私だけではなく、おばあちゃんから小さな子供まで、おそらく15人はいる。
……どれだけ私は不幸なのだろう。鬱な帰り道で生死の境彷徨うようなことに巻き込まれるなんて。
しかも、こんなダサイ黒タイツにやられるなんて。
「お前たち、この人間どもをとっとと拉致しておしまい」
真正面にいる随分セクシーな黒い水着のようなものにマントという奇抜な格好をした女性がそういった途端、バッ!とまわりの黒タイツがこちらに向かってくる。
飛び跳ねる黒タイツ、黒タイツ、黒タイツ、一面の黒タイツ。
嫌だ、こんな最後―――
黒タイツ
ぴっちりボディ
きもすだな
なんてね。
……辞世の句がこんなのだなんて、嫌すぎるよ!
私が意味不明な現実逃避をしていたその時、ひゅぅう、と空を切るような音が聞こえて、ダン!と勢いよく、『何か』が黒タイツと私たちの間に落ちてきた。
びっくりして閉じた目を開くと、そこには2人の、私と同じくらいの少女がいた。ひとりは赤い髪、もうひとりは青い髪。
フリフリのその姿に、私は今朝の朝刊を思い出す。今朝も彼女たちは載っていた。
彼女たちは、最近この辺りで有名な魔法少女……『フレイムスカイ』!
怪人を倒して回っている、正義の味方だ。
テレビや新聞でみた彼女たちは、本当に遠くから撮ったもので、こんなに近くでみたのは初めて。
まさかお目にかかれるなんて!と、心臓がドキドキうるさい。
「待ちなさい!魔人たち!」
「これ以上酷いことは、させない」
そういって怪人たちの前に立つその後ろ姿は、ふりふりの衣装で、それに私と同い年くらいの女の子なのに、ものすごく頼もしく見える。
かっこよすぎるよ!
「みなさん、逃げて!」
「ここは、私たちがくい止める」
彼女たちはそういって、一瞬振り向く。
テレビとか新聞でははっきり写っていなくて、滅多に見られないヒーローの顔!私は全力でガン見した。
「――――っ」
思わず声が漏れた。
ぱち、と2人と目があって、一瞬、彼女たちの目が見開かれる。
すぐに逸らされた彼女たちの目は、顔は………私のよく知るものだった。
髪や目の色は、普段の黒髪黒目が嘘のように、赤と青にそまってはいたけれど、それは―――
「アカリ……アオ……?」
怪人たちへと向かっていった彼女たちに、私の言葉は届かない。
この街のヒーローが……赤の魔法少女がアカリで、青の魔法少女がアオ、だなんて。
助けて貰ったというのに、私の胸の中に、黒い気持ちが溢れる。
それは、この2ヶ月で溜まりに溜まった、二人への、どろどろとした気持ち。
なんで私は仲間はずれなの?
私には多分そんな力ないんだろうから、二人みたいにヒーローになれないのは仕方ないけど、でも、なんで私にそのことを教えてくれないの?
信用されてないの?
……もしかしたら二人は事情があって、私に秘密にしているかもしれない。
けど、だけどさ、私たち、親友じゃなかったっけ。
涙が浮かびかけたその時、ずき、と頭に鈍い痛みがはしった。
「(痛……っ)」
痛みと共に、急に湧き上がる『既視感』
―――――私、この光景、知ってる。
そこから、一気にたくさんの情報が流れ込んでくる。
『♡魔法少女フレイムスカイ♡』………あぁ!これって!
「(勇者タナカ様の著書……故郷を舞台にした、『らいとのべる』!)」
……そうだ。
私は、オルフェリスフィアという、こちらでいうファンタジーな世界の住民だったんだ!
オルフェリスフィアは、数百年に一度魔王の封印が解けてしまうので、勇者様をお迎えしていた。
私はオルフェリスフィア一の大国、サリア国にえらばれた勇者パーティの魔術師だった。
召喚された勇者タナカはすごかった。召喚されてすぐに、『テンプレ オツ』と呟き、あっという間に状況を理解して、歴代最速で魔王を倒してしまうと、元の世界に戻らないことを選択して、なんと執筆活動を始めたのだ。
彼の書くものは、どれも魅力的だった。
勇者様の世界の解説本(勇者タナカの様々な本を読む土台として、みんな熟読した)、勇者様の世界の学校を舞台にした怖い話、私たちが思いつかないような様々な展開をする恋愛もの、様々なトリックをちりばめた探偵もの……。
娯楽が少ないために、様々な設定の本を読み尽くして、飽きていた私たちに、それがどれだけ輝いて見えたことか!
しかも勇者タナカの執筆速度は恐ろしいほど早かった。彼曰く、『ショウセツカニナロウで鍛えてた』らしい。また、『既存設定使い放題オレツエエエ』とよくわからないことも言っていた。
そう……この世界は、彼の素晴らしい作品の中の一つ。『♡魔法少女フレイムスカイ♡』の世界!
私、すごい読みこんでた!すごい大好きだったの!
特に好きだった展開は、アオとアカリと親友のミドリが、二人が魔法少女なことに気づいてしまって、みんなのヒーローな二人に嫉妬して、敵側と契約して闇堕ちして……泣きながら二人がミドリと戦うシーン…ミドリが最後死んじゃうところ、最後の最後で優しい性格に戻るの、すごく泣けるんだよねぇ…
……………ん?
前世のノリで、作品語りしてる気持ちだったけど、私……
………名前、山中 ミドリだ…………………
つぅ、と汗が伝う。
私、よりによって死にキャラに転生してたんだ……!
「だ、大丈夫ですか?」
いつの間にか来ていた救急隊員さんに大丈夫だと返して、ふらふら立ち上がる。
と、とりあえず家に帰ろう……。
ゆっくりと歩いていると、ふと、あることが頭に浮かぶ。
……今って、魔法使えないのかな。
路地裏に入り、脳内で転移魔法を唱えてみる。
「(―――――)」
私が脳内でそう唱えると、ぱっと足元に魔法陣が広がった。
懐かしい前世の呪文は、どうやらこの世界でも使えるみたい。
しゅぱっ、と周りの景色が切り替わる。
私の部屋だ!
履いている靴を転移で玄関に送って、ベッドに倒れこむ。
「のどかわいたー……」
魔法で水を作り出し飲みながら、色々と魔法を試す。
「……あ、空間魔法も使える」
空間魔法で収納を開くと、なんと前世のアイテムまで入っていた。
「回復薬上は2563個……ある程度回復魔法も使えるし、緊急の時以外使わないから、まぁ大丈夫かな
……あ、魔道服とかあるんだった。魔力上げられる杖も」
服や杖を取り出して空中に浮かばせながら、私はふとあることに気づいた。
私、魔法少女になれるんじゃない?
前世の魔道服は、ブレザーを少しフリフリさせた感じで、結構魔法少女っぽいし、杖もあるし、髪の毛や目だって魔法で色を変えられるし。
「わー……なんかちょっと胸熱」
こうなると恐怖とかより、憧れの世界に飛び込みたい!というファン心が勝ってしまう。
それに、ほっといたらいつ死亡フラグが立つかわからないし!
私はここら一体に探知型の魔法を広げて、怪人たちの魔力が探知できるようにすると、下に降りて夜ご飯を食べた。
お母さんが「いつ帰ってきたの!?」と驚いていたのは少し焦った。
明日から魔法少女業、がんばるぞー!
__________
魔法少女をはじめて一週間。
改めて思うのは、人から感謝されるのって、なんて気持ちいいんだろう!ってこと。
この世界の魔法とは少し違う私の魔法を敵は防ぐことができないらしく、ほぼ私の一方的な戦いになっていた。
ちなみに魔法少女なことがバレるとかの心配はない。私は顔が見えないように上半分だけの仮面をつけているというのと、私そっくり
の魔道人形に、代わりに通常通りの生活を送ってもらっているからだ。
今日も怪人を倒して小さい男の子を助けた。
ここの公園は元々人気が少ないから、怪人の誘拐がかなり多くて、家から遠いけど探知魔法を張っていた。やっぱ正解だった。
いい仕事したわーと伸びをする私に、ててて、と男の子が近づいてくる。
「おねえちゃん!ありがとう!」
「うん、気をつけてかえるのよ
あ、お手手だして」
助けた男の子の手のひらに、ばらばらと収納空間からお菓子を落とすと、男の子の目がキラキラと輝いた。
「わぁ!ありがとう!」
「……健人っ!」
男の子が私にお礼を言ったのと同時くらいに、向こうの方から走ってくる人が見える。
黒髪に青い目をしたイケメンさんだ。
目の色からしてメインキャラっぽい感じがする。
うーん……あ。
なんか…見覚えある気がするな……。
なんとなくじっと顔を見ていた不審者魔法少女な私に、近くに来たイケメンが微笑んでくる。
「ありがとうございます、弟を助けてくれたんですね」
「あ、はい……こう見えても魔法少女なんで」
ぐっ、と力こぶを作ると、「かっこいいねぇ〜」と健人と呼ばれていた小さな男の子が笑う。あ〜かわいい〜。
「よろしければ、またお礼をさせてください」
「や、全然いいんで!気にしないでください。
最近怪人多いので気をつけてくださいね。それじゃ!」
魔法を展開して、転移先を自分の部屋に設定する。
「あ!待ってください、せめて、名前だけでも……」
手を伸ばすイケメンさんが見えたけど、ぱぱっとその場をさる。
まだはっきり思い出せないものの、あのイケメンさんは主要キャラだったような気がする。変に関わると後が怖いんだよね……。
そんなことを考えていた私は、イケメンさんと話しているところを、見られていたことには気づいていなかった。
そして、その二つの視線が憎々しげに歪んでいたことも。
___________
健人とその兄が去って行く姿を見つめながら、一人の少女がぎり、と歯を鳴らした。
赤い髪をした魔法少女は、普段のキラキラした笑顔はどこにやったのだろうかというぐらいの、歪んだ表情を浮かべている。
「信じられない。せっかく変身までして駆けつけたのにさ!!!あの『原作』にいなかった魔法少女何!?タケル様とのフラグ立たなかったじゃん!最悪!!!」
ガッ!と近くの木を蹴る姿は、とてもみんなの味方である魔法少女には見えないほど酷く、更にその赤い少女はそれでもまだ怒りが収まらなかったのか、ペッ!と木に唾液を吐いた。
「本当にあり得ない。私の狙ってる修也も、ミドリが死なないとイベ起きないのに、ミドリの病みイベ全部あの魔法少女が消しちゃってるし。あの怪人にヒドイ目にあわされちゃうイベどこいったの?」
近くに立っている青い魔法少女もまた、見るに堪えない怒りに満ちた顔つきで、手をぶるぶると震わせていた。赤い少女よりはまだ理性的なのか、何かに当たろうとはしなかったが、足は貧乏ゆすりのように揺れて、十分に苛立っているのが見て取れた。
「この世界、『フレイムスカイ』のゲームの筈なのに」
赤い少女が小さく呟く。
『フレイムスカイ』とは、彼女たちの前世ではやっていた乙女ゲーだった。
魔法少女である主人公たちが、助けた相手や敵、男の娘魔法少女など、様々なイケメンと恋に落ちる、少し変わった設定のものだ。
……そしてそれは、『♡魔法少女フレイムスカイ♡』のパクリ元でもあった。
勇者タナカは、自分の世界のはやり漫画、ラノベの設定で好き勝手に書いて本を出していた。それはどんどん悪化して、しまいには丸ごとストーリーをパクりだした。
そしてこの世界は『♡魔法少女フレイムスカイ♡』の方の世界だった。
本元の『フレイムスカイ』だと思っているため、ところどころ違う展開に少女たちは苛立ち、なんとかイケメンとフラグを立てようと必死になっていたが、パクったタナカは乙女ゲーの女の子に萌えるタイプの男だった為、どうあがいても2人には百合フラグしか立たなかった。
乱立する百合フラグに限界がきている上に、自分の推しキャラとフラグ立てをする見知らぬ魔法少女に、二人は限界だった。
「覚えてなさいよ、あの魔法少女……」
「私たちが、本物の魔法少女なんだから」
不穏なつぶやきが、誰もいない夕方の公園に響いた。
長編で書くのしんどいからって書きたいものを圧縮したらみずらくなりました
こんな話見たいんですけど落ちてませんか