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ミケちゃん

 サバトラ家の一人娘・ミケちゃんは三毛猫です。

 お父さんはサバトラ猫、お母さんは茶猫なのに子供が三毛猫なんて不思議ですが、遺伝のイタズラで、猫の世界ではよくあるみたいです。


 ところでミケちゃんもお年頃で、このところ二ヶ月に一度、恋人が欲しくなってニャーニャー鳴きますが、ミケちゃんの住んでいる廃屋周辺は、お父さんであるサバトラ猫・ポンタ(推定3歳)のテリトリーなので他のオス猫は入って来られません。


 それならばとミケちゃんは決意して自分から家を出ることにしましたが、屋根の舳先に上って立ち上がり、まるで羽を広げるような格好で、少し離れた隣の家の屋根に、ジャンプしようとしている時、お母さん猫・チャチャ(推定2歳半)に見つかってしまいました。


 ミケちゃんをとても可愛がっているチャチャはびっくり仰天! 

あわてて連れ戻しました。


 ノラ猫の場合、ミケちゃんくらい大きくなると親子も離れ離れに暮らすものなのですが、チャチャはいつまでもミケちゃんを子ども扱いで、自由に遠くまでは行かせてくれません。

もちろん、それには訳がありました。


 チャチャの耳には切れ込みが入っているのですが、これは地域の愛猫家の人達がノラ猫と人間の共生を計るため、避妊手術をした後なのです。(手術済みという印です)

 若い頃、一度だけお産をし、直後に避妊手術を受けたチャチャは、もう子供を産めません。しかも初産だったので、うまく育てられず、生き残った子供はミケちゃんだけだったのです。

 それだけにチャチャがミケちゃんを猫可愛がりするのも当然ですが、かなり過保護といえる状態でした。


 例えばミケちゃんが廃屋の庭に置き去りにされている自転車の荷台から転落しかけた時にはチャチャがサッと走っていって背中で受け止めます。

 人間の子供が庭に入って来ると、ミケちゃんをすぐに縁の下に隠し、自分が寝転がって子供の関心を引くという具合です。


「ハハハ、サバトラ家のミケちゃんは本当に箱入り娘だねえ」

 テレビを観ていた人達が笑いました。

 実は『サバトラ家のミケちゃん』は『地球にゃん歩き』というテレビ番組に長期取材されていたのです。


「ミケちゃんには気の毒だけど、当分サバトラ家は平和なようだ」

 人々がそう思った時、異変が起こりました。


 お父さん猫のポンタが愛猫家の手によって捕まえられ、虚勢手術をされたのです。

 実はこれまでポンタのテリトリーが屋根の上だったので、なかなか捕まえられなかったのですが、カゴの中に特別美味しいチキンをしかけたところ、罠にかかったのです。


 虚勢手術をされると闘争本能がかなり落ち、他の猫とあまりケンカをしなくなります。

 その為でしょうか。若いオス猫のブチがポンタのテリトリーに侵入を計り、あろうことかポンタを追い出して廃屋を自分のテリトリーにしてしまったのです。


 若いオス猫のブチはすぐにミケちゃんにラブコール。

 ミケちゃんもうれしそうにスリスリしました。


「おやおや、ついにミケちゃんの前に王子様が現われたようだね」

 テレビを観ていた人達は意外な展開に驚きつつも、ミケちゃんがブチと出会えた事を喜びました。

 ところが・・・、


 廃屋がブチのテリトリーになってしまったことで、お父さん猫のポンタはミケちゃんやチャチャに会いに来れなくなってしまったのです。

 チャチャは寂しそうに鳴きますし、ミケちゃんも元気な子供達をポンタに見せたくてもできません。


「これはこれで可愛そうだねえ・・・」

 ミケちゃんとブチの出会いを喜んでいた人達も心を痛めました。

けれども、さらにびっくりするような出来事が起こったのです。

 新しく廃屋の主となったブチもまた、愛猫家達の仕掛けたカゴに入り、虚勢をされてしまったのでした。


 闘争本能が、前よりも衰えたブチは、ポンタの再進入を阻止できず、廃屋はミケちゃんを中心にポンタ、チャチャ、ブチ、ミケちゃんと子供達という、楽しく賑やかな共同体になりました。


「よかった、よかった。ブチも去勢されたので、みんな平和に暮らせるようになったんだね」

 テレビを観ていた人達は、みんな幸せな気分になれました。


 しかし、このテレビを観ていたのは人間だけではなかったのです。

「そうだったのか・・・。人間達が戦争ばかり起こすので困っていたが、その手があったか」

 空の上から声がして、ポンと手を打つ音が聞こえました

 実は神様もこの番組を観ていたのでした。



             ( おしまい )




※・・・・この物語はフィクションです。

 NHK「世界ネコ歩き」やルーブル美術館の「サオトラケのニケ像」

 とはなんの関係もありません。


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