回復
空から降ってきているものは、きっと私を埋めてしまうだろう。冷たく重く私の上に降り続け、私の視界を白から黒へと変え、呼吸の余裕さえ奪う。そうなる前に誰かがこの場所を通り過ぎるだろうか。私の足は右も左もいつもとは違う方向へと折り曲がっているだろう。冷たい地面の上で冷たくなっていく体では痛みを感じることも遠い遠い意識の中だった。
「・・・か!・・え・・ま・・!大丈・・・か!」
手放していた意識が、戻ってきていた温もりと聞きなれない声による大きな呼び掛けによみがえる。
「聞こえますか!私の声が聞こえますか!」
「だ・・・・れ・・・?」
「!!よかった。聞こえますか?私の声。」
「き、こえ・・・て・・ます。」
体は雪の上から離され、暖かい部屋の中に毛布に包まれ、足は包帯を巻かれて治療が終わっていた。
「こ、こは?」
「診療所、と言いたいところですが、貴女が倒れていたところからそう離れていないお屋敷の中です。」
体がビクッと反応し、目を大きく見開く。
「や、しきの・・・・なか。」
ぽつりとこぼれた言葉に、彼女を見つけた医師は驚きの感情を読み取ったけれども、気付かなかったふうを装い、言葉を続けた。
「ええ、誰もいらっしゃらなかったので、勝手にお邪魔させていただきました。まさか、手当に必要なものがすべてそろっているとは思いませんでしたが・・・・、いけないこととは思いましたが、人命がかかっているので許していただこうと思いまして、使わせていただきました。」
ほほ笑みを浮かべて医師は彼女に話しかける。
「やはりまずいでしょうか?」
苦笑へと変わるほほ笑みは、言葉にそってどこか温かい。
「・・だい・・・・じょ、ぶ・・です。」
彼女は、目を閉じて答える。
「どうして大丈夫なのですか?」
「・・・こ、こは、私・・・だけ、が居・・る、場・・所、です。」
「貴女のお屋敷でしたか。・・・・・すみません。勝手に使わせていただきました。」
彼女自身に使用したのにもかかわらず、医師は謝罪した。
「いえ・・・・どう、い・・たし、まして。」
体温が上がり、ある程度落ち着いたのだろう、彼女は体を癒すために眠りについた。
月は十七夜、雲がかからなければ月光のみで歩きなれた場所は歩けるくらいにはまだ明るかった。だから、油断していたのだと思う。足元を見ずに枝と枝の隙間から見える北極星を追っていた。もし、足元を一回でも見ていたら、私は私の部屋に何事もなく戻ることができただろう。しかし、その時ばかりは視界に入る風景のみに頼りきっていた。そして、落ちた。
左足が何かを踏み外して、かけていた全体重が重力に逆らうことなく、そして抗いもむなしく左側へと体が傾いていった。左足が雪に埋もれていた岩に当たって激痛が走った。そして、頭が雪の上へ・・・。それ以降、夕方にやんでいた雪がまた降り始めたころに“気付く”まで記憶がない。しかし、結果は一目瞭然。左足だけでなく、右足もどこかにぶつけ、体のあちこちに痣ができていた。
雪が積もっていたからこんな軽傷ですんだのだろうと、見つけてくれた医師に言われた。彼女は私が止まった場所からさらに下の斜面で、写真を撮っていたのだという。雪がコロコロと落ちてくるので、雪崩の前兆かと思い、安全だろうと思われる場所へと避難した。だが、それ以降前兆も、雪崩自体も起きず、何があったのだろうと好奇心に負けて、登ってきたところ、私を見つけたのだそうだ。
幸運以外の何者でもない。さらに、彼女は長い休暇でふらふらと独り旅をしているというのだから、私の怪我が治りきるまで、世話になってしまった。
続きが書けないので、途中のまま投稿しました。
続き書くよって言う方がいらっしゃいましたら、どうぞお書きになってくださいませ。