5個目:何とか帰還
ミーミル見つけてついでに彼とも再会しました私です。
早く帰りたいです。この野郎。
牛丼食べたいかけそば食べたい揚げ玉の香りが私を呼んでるのー。
そう言えば何時ご飯食べたりしてるんでしょう? 私たち。
唯一希望のわっちゃんお持ち帰り目指して今日も北欧神話世界で奮闘中ですよ?
気付けばもう五日。北欧神話の世界に来てからもう五日も経ってます。
授業どうなったかなー。成績に響くなー。みんな元気かなー。
「ああ、そんな心配しなくて大丈夫。出発した直後に戻れるから」
「異世界だからな。時間軸が交わっていないのならともかく、ここと君たちの時間軸は交差関係にあるから、そうなるだろう」
ミーミルさんからの分かりやすそうな補足が入りましたが、何が何だか判りません。
「X軸方向にいくら進もうとYの値は常に一定だって事だね」
いいです。余計に判りません。ていうかその無理矢理な理屈はあっているのか。
それはともかく、わっちゃん探しましょー。
……この世は、不条理に満ちています。
わっちゃんは飛行してます。地面に足をつけることは珍しいのです。
その上彼はもちろん、ミーミルさんでさえ、わっちゃんの足取りを追うのは無理なようです。
理由は特異点どうしの干渉が云々とかいろいろ聞かされたはずなんですが、半分もわかりませんでした。
結果。
必然的に地味な調査を行わなければならないわけで。
その上心当たりはないわけで。
「どうしよー! 今日で完結編だと思ったのにー!」
いーやー。見たいテレビとか有るのにー。
「もう一日か二日いないといけないみたいだね」
やたらと彼は冷静です。ちょっとは慌てやがれ。
「……困ったものだな、早くあの方の下へ戻らねばならぬのに」
そう言うミーミルさんも全く動じてません。むしろ楽しそうです。うらやましい。
「どうでも良いけどホントに誰も心当たり無いんですか」
「ないよ」
「すまない」
答え方でなんかわかるってモノです。
とりあえず、わっちゃんヴァルキリーなんだからフレイアさんとかオーディンに聞けばわかりそうな気がします。
「おう」
ぽむ、とミーミルさんが手を打ちました。そう言えば貴方この世界出身では?
「細かいことを気にするね、君は」
彼はそう言いますが、よく考えたらミーミルさんが言わなきゃいけないことの気がするんですが。
「細かいことは気にしない方が良い。胃に穴が空く」
神様でも空くんですかミーミルさん。それはともかく、ヴァラスキャルヴに行きますよ。
「何で知ってる?」
ツッコミは無視の方向で。ああ、素晴らしきかなググルさん。
「こんにちは。しじみの彼でございます」
「し、しじみ?」
よし、掴みはおっけー。オーディンの度肝を抜きましたか?
「……面白いモノくっつけた奴がいきなり来て、人質にやった奴まで来て、どうなっとるんだ」
オーディンさん頭抱えて悩んでます。禿げるので止めた方がいい気もします。
「やかましわい」
ドス聞いた声ー。それはともかく。
「聞きたいこと有るんですけどー」
「ワレ舐めとんのか、ボケナス。ワイは腐っても主神オーディンじゃバータレ」
なんか異様にご機嫌斜めです。どうしてでしょう、ミーミルさん。
「……黙秘を要求する」
むー。よし、こういうときは贈り物。そこの彼、何でも良いので出しましょう。
「ボクはドラえもんじゃないよ? そう都合良くいくわけ無いでしょ」
なんですとー! 反則存在チートコードなずるっこなのにー!?
「昔から言うよね」
彼はそこでイタリアンに肩をすくめ、言った。
「「「無い袖は振れない」」」
そこでなんでハモりますかあんたらはぁぁぁ!
「いや、だってなぁ」
「おもわず、言ってしまいましたな」
あんたら実は仲良い? そんなノリが良いなら協力してくれても良いじゃんカー。
「わかってませんね。ノリが良いから協力してくれないんですよ」
「うむ。イベントは豊富な方がよいだろうしな」
「そうだね」
この三馬鹿! 豊富すぎるイベントは中だるみというんですよ!
「それもそうか」
「もしかしてもう結構?」
「ボクはまだ余裕なんだけど」
私の方が限界です。
まー、そんなこんなで、オーディンが何も知らないことが判明しました。
「ヴァルキリーのことはヴァルキリーに訊いた方が良い」
とのことで、スクルドさんに会うよう勧められました。
スクルド探してやってきましたヴァルハラです。
戦死者の館、余り物の集まる館でございます。
「失礼なことを言うな」
ミーミルさんのツッコミです。
でも、美味しいとこはみんなフレイアさんが…………(ミーミルさんが吹き出しを隠しました)
「こうやった隠せるんですか、これ」
「禁句だからな」
釈然としませんが、とりあえず私は門扉を叩きました。
すぐに人が出てきます。躾が行き届いてます。
出てきたのは気のよさそうなおっちゃんでした。筋骨隆々、頼れるオヤジ。オヤジ好きにはたまりません。
「すいません、スクルドさん、ご在宅でしょうか?」
刑事っぽく言ってみました。でも、のってくれず残念です。
「ああ、どのスクルドさんだい?」
おっちゃん素敵な笑顔です。なんか子供扱いされてる気がします。
「ヴァルキリーのスクルドさんをー」
「ああ、運が良かったな。ちょうど今いるから、呼んできてやるよ」
そう言っておっちゃんは中に引っ込みました。
華麗にスルーしてます、吹き出し。
おっちゃんがいなくなるのを見越したかのように、声がかかりました。
「はい、ようやく来たの。待ってたわ」
向き直ると、そこにヴァルキリーが立ってました。かっこいいお姉さん系な美人さんです。
「私がスクルド。よろしく」
あれ、何で外に?
「私はノルンよ? 未来を司る、ね」
それで全部説明したと言わんばかりにふてぶてしい態度。
スクルドさん、意外に育ってるんですね?
「ロリの時代は終わったもの」
きっぱり言い切りました。どうやらここの時代はツンなお姉様ですか。
「甘いわ。ヤンンデレこそ至高よ!」
…………本気で言ってますよ、この人。
「おーい、すまん。どうやら入れ違いになったみたいだ」
向こうからおっちゃんが頭を掻き掻き、申し訳なさそうにやってきます。
「あら、いたの。脇役一号」
とりあえずスクルドの足を思いっきり踏みつけ。
「あ、偶然会えました。わざわざ有り難うございました」
おっちゃんには笑顔でお礼を言いました。
「おう、気にすんな。オレァなんもしてねぇし。それじゃあな」
「どうもー」
おっちゃん、にこやかに去っていきました。
さて、あとはスクルド尋問、バッドに気をつけグッドを目指さないといけません。
何せヤンデレ万歳な人ですし。マルチエンドというよりむしろマルチバッドエンド?
「失礼な。私自身、は一応ノーマルよ?」
「つまり、類は友を呼ぶ」
ミーミルさん、いきなり何言うんですか。自分ノーマルって言い張ってる人に。
「自分はノーマルって言う人ほどおかしいからね。基準からして可笑しいかもしれないし」
彼の一言が的確にえぐります。この場にいる全員を。って、ミーミルさんまで!
「……まぁ、ノーマルなんだろう」
「そうですね、ノーマルですよね」
「そ、そうよノーマルよ。ノーマルなのよ。……ごめんなさい」
白い空気が流れてきました。なんて言うか目から汗が流れそうな状況です。
こほん
スクルドが一つ咳払いして場の空気を仕切り直し。
「とりあえず、用件はわかってるから。答えだけ言うわね」
答え有るのね。
「ウルドの泉」
固有名詞。しかもたらい回しかこの女。
「ユグドラシルの根元、だったな」
「そうよ。姉さんはそこにいるわ」
「てことはまた戻るのー?」
「そうなるね。面倒だから、跳ぼうか」
さらっとそんなことを言う彼。跳ぶってどういう事ですか?
「空間転移。一度行ったこと有るからかなり楽」
「便利なこと。普通はそう簡単ではないのに」
「そもそも魔法使いでも厳しいのだがな」
世界のカケラ本領発揮ー。みんな忘れてるんだろうなー。
「じゃ、行くよ。捕まって」
跳びました。
さて、いろいろあって。
やって来ました。
ユグドラシル。
わっちゃん捕まえてしまえば解決です。
さてまずウルドの泉に行きます。
着きました。案内いるので簡単でした。
「げっ」
わっちゃんはっけーん。優美にお茶してますよ。
逃がしちゃダメだよお二人さん。
「君は動かないんだね」
「……言っても無駄だ。どうせ人を使うくらいしか能がないんだろう」
トゲがあるなぁ。ミーミルさんは。
じゃあ、私も動きますか。てあー。
省略。結末わかってるのにうだうだ書くのもどうかと。
「え、私の出番無しですか?」
うん。
「えええええーーーー!」
一応簡単に言うと捕まえたのは私です。彼とミーミルさんは理論先行で役に立ちませんでした。
どちくしょう。
捕まえたー!
「あー、はいはい」
「おめでとおめでと」
投げやりですね、二人とも。
「ふええええん。怖いよう怖いよう。たすけてよう。ミーミルー」
助ける気ですかミーミルさん?
「女は怖い」
「本気で怯えてるからそんな目で見ない」
「たいした目でみてないよ?」
彼は嘆息した。
―― ああ、空が青いな ――
って、モノローグ頭の中に叩きつけんな、そこの彼。
「えううう。放してよう」
放しません。問題解決するまでは。
「ううう。じゃあ、早く解決してくださいよ〜」
よし、彼お願い。
「あー、じゃあまず脱がせてくれる?」
………………
…………
……変態。
「変態。」
「変態だな」
完膚無きまでに変態です。体型推定つるぺたん。
ロリコンでしたかペドですか愛玩ですか。犯罪ですよ、そこの彼。
「あー、言っとくけど診断に必要なだけだから」
「あやしいです。連行しましょう」
「誰にだ?」
ミーミルさん実はツッコミ属性? それはともかく、裸見ないとダメなわけ?
「着てるモノを調べたいだけだから。そのあと、本体だけで診断するけど」
「やっぱり見たいんですね!?」
わっちゃん大拒絶。当然ですよね。
彼、困り果ててます。
見かねてミーミルさんが助け船出しました。
「……とりあえず診断能力をこの女に貸したらどうだ」
できるの?
「出来ればそれも勘弁して欲しいんですが……」
わっちゃんの寝言はこの際無視です。
で、出来るの?
「出来るけど……。まぁ、いいか」
何か含み有りそうな言い方。とりあえずさっさとやれこら。彼。
「もうやった。じゃ、目隠し作るね」
言った瞬間にはもう目隠しできてます。
早っ。もりあがらんよ。
「……もう、さっさと済ませてプリーズ」
わっちゃんはついに諦めて身を投げ出しました。
※注意※ 診断シーンは問題が多すぎるため、省略させていただきました。ご了承ください。
「診断の結果、わっちゃんに問題有ることが判明しました」
「えううううう」
彼とミーミルさんは何故か同情するような表情でわっちゃんを見ています。
「なにか?」
「いや……。ウルド、強く生きろよ」
「良いことも、きっとあるよ。いつか、ね」
二人ともわっちゃんを励まします。待って。どういう意味ですかそれは。
「私に問題があるって事は、どうなるんですか?」
「残念だけど、この世界を出て行かなければならないんだ」
彼。沈痛な表情。私もちょっと深刻な顔になります。ミーミルさんは無表情。
「……それでは、この世界のウルドはいなくなる、ということですか」
「いいや。それはない。抑圧された本来のウルドが出てくるだけだ。――あるいは」
「そうです、か」
わっちゃん、どこか寂しげ。悲しそう。
「ここ以外のどこかでなら、ボクが本来いるべき世界でなら、確実に君は存在を許される。どうする?」
「……私の知る世界では、不可能だ。当然だが、この世界もそろそろ君を排除するだろう」
ミーミルさんが何か言われる前に突き放す。
わっちゃんはうつむいたまま答えない。
「……どんな時でも、道があるなら行くべきだと思うな。私は」
あー、なんかくさいセリフ言いたくない。
「もし、消えるなんて言うなら、私は君を連れていくから」
「勝手に決めないでください!」
わっちゃんが怒鳴った。
あー、空気おも。耐えられません。
長い間わっちゃんは考えてました。
そして、ぐっ、と。顔上げて。
「私を貴方の世界に連れて行ってください」
彼に言った。
彼は笑った。ミーミルさんも笑う。私も当然笑います。
「なら早速行こう。世界が動く前に」
「え、もう?」
「こういうのは早いほうが良い。そうだよね? ミーミル」
ミーミルさんは肯いた。
「じゃ、お別れですか。ミーミルさん」
「そうなるな」
「いろいろお世話になりました」
「さようなら。あんまりよく知らない人みたいですけど」
わっちゃんと一緒に戻ってきました元の世界。
そう言えば身一つで異世界冒険してました。無謀にも程があります。
「ここがあなた達の世界、ですか」
わっちゃんは珍しそうにキョロキョロしてます。
お日様がぽかぽか良い気持ち。
わっちゃんは彼の家で居候で決定しました。
どうやらちゃんと彼の家も元に戻っているようです。
「あ、あれがそうなんですか。あの人がたくさんいる」
わっちゃんが声を上げました。
……え?
何で彼の家とか人だかりがありますかね?
「……悪い知らせがある」
イヤな予感がしますよ?
「どうやら、あれから5日経ってるらしい」
へ。
「そういえば、世界が内包された時点で時間軸も同一になるんじゃないか。忘れてた」
ということは、どういう事ですか?
「向こうの時間はこっちと同じ。つまり僕らは5日間行方不明だったことになる」
…………そこの彼。
「何?」
過去にタイムスリーップ! プリーズ! 5日前まで戻してー! お願いー。
このままだと男と無断外泊5日間。その相手はよりによって彼ですよー!?
「正直に話すって選択肢はないの?」
頭がおかしい人です思いっきり。異世界で冒険してましたなんて電波の言うことですって。
「それもそうか」
納得するな電波紙一重。
「気にせず行こうよ。きっとわかってくれるさ」
お気楽で良いですね。
ま、でもいいです。我慢して、やりますか。
「記憶、すり替えられるから」
あ。
そうこうして、私と彼はとりあえずの日常に帰還したわけです。
…………普通かどうかはさておくとして…………
北欧神話編完結。
吹き出しは多分付きっぱなしです。
投げっぱなしです。