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マザーグース風・破滅ざまぁ短編集

ロンドン橋は“搾りすぎた強欲”のせいで落ちました 〜精霊の愛し子を嵌めた報い、すべて壊して決別します〜

作者: 本咲 サクラ
掲載日:2026/04/09

 霧に濡れた王都の石畳。

 その地下に、誰にも知られていない“空間”がある。


 そこは、人間界と精霊界を繋ぐ巨大なエネルギーの奔流──

 “橋”と呼ばれる結合点だった。


 そして今、

 この世界を支える“橋”の均衡は静かに歪みきろうとしていた。



 私は、生まれた時から精霊に愛されていた。


 歌えば集まり、

 呼べば応え、

 触れれば寄り添う。


 精霊たちは、私にとって遊び相手だった。


 だから、疑わなかった。


 「これは遊びだよ」

 優しい声でそう言った大人たちを。



 地下の円環に立たされ、私は両腕を広げる。


 光の粒が、ひとつ、またひとつと集まってくる。

 風の精、水の精、名もなき小さな存在たち。


 いつもと同じだった。


 ただ──ひとつだけ違っていた。

 戻れないということだけが。


 輪の内側に入った瞬間、見えない壁が閉じる。

 精霊たちは、離れられなくなる。



 その時の私は、

 それを“異常”だと認識することがなかった。


 疑うための知識を、

 一欠片も与えられていなかったからだ。



 円環の外で、大人たちが笑う。


 閉じ込められた精霊は、

 次々と硬質な結晶へと変わっていく。


 光を失い、

 声を失い、

 ただの“資源”として。


 「安定供給だ」

 「これで契約に縛られずに魔力が使える」


 その意味を、私は知らなかった。



 ある日。


 回収されなかった結晶が、ひとつ残っていた。


 私はそれに触れた。


 その瞬間──


 精霊の悲しみと、怒りが流れ込んできた。



 すべてが繋がる。


 ここが何なのか。

 自分が何をしていたのか。


 これは遊びではない。


 精霊を捕まえ、

 閉じ込め、

 消費するための装置だ。


 そして私は、思い出す。


 腕の輪を通り抜けて捕まる遊び。

 前世で知っていた、あの歌。


 ロンドン橋が落ちていく。


 これは、その歌の通りだ。

 自分たちにとって便利な道を作るために、誰かを犠牲にする。

 人と精霊を繋ぐ美しいはずの架け橋は、生贄を捕獲する檻と化していた。



 「やっと思い出したか」


 振り向く。


 そこにいたのは、

 これまでの精霊とはまったく異なる存在。



 「愛し子よ。其方に罪は無い。

  だが、契約も守れぬ人間と、これ以上繋がることは出来ぬ」


 声なき声が、空間を満たす。


 「其方はどうする」

 

 私は、迷わなかった。

 「私は──もう、彼らの力にはならない」



 その瞬間。


 結合点が、崩れた。


 爆発も、轟音もない。


 ただ、

 繋がっていたものが、すべて切断された。


 精霊たちは、一斉に離れていく。


 光が消える。


 “橋”が、崩壊していく。


 それは、

 人間が精霊の力を失った瞬間だった。


 残ったのは、結晶だけ。



 大人たちが叫ぶ。


 だが、何も起きない。


 もう、何も繋がっていない。



 私は振り返る。


 「ねえ、これが欲しかったんだよね」


 その足元から、影が滲み出す。


 結晶に閉じ込められ、

 形を失った精霊の感情。


 その歪みだけが、

 影となって這い上がる。


 影は絡みつく。


 逃げ場はない。


 かつて精霊を閉じ込めた円環が、

 今度は彼らを閉じる。


 肉も、声も、意識も。

 すべてが、結晶へと変わっていく。



 「やめろ……!」


 「どうして?無理だって分かってるよね?」


 私は首を傾げる。


 「だってもう、“繋がってない”から」



 私は歩き出す。


 振り返らない。


 ここに残る理由はない。



 地上に出る頃には、すべてが終わっていた。


 灯は消え、

 魔法は失われ、

 都市はただの石へと戻る。



 「さようなら」

 誰に向けた言葉か、自分でも分からないまま。


 私は、向かった。


 精霊たちのいる側へと。



 残ったのは、地下の空洞と無数の結晶。


 それは、かつて人だったもの。


 欲しすぎた者たちの末路。



 繋がりは、本来、支えるためのものだった。


 だがそれを、

 縛り、搾り、代わりのきくものとして扱ったとき──


 すべては、静かに壊れていく。



 ──ロンドン橋は落ちた。



 それは誰かに壊されたのではない。


 削られた基礎と、

 抜かれた資材と、

 埋められた“誰か”の上に成り立っていたからだ。



 他者の自由や尊厳を削って成り立つ構造は、

 いずれ必ず破綻する。



 飾るのではなく、支えること。

 奪うのではなく、積み上げること。


 それができないなら、

 何度でも落ちる。


 橋も。


 そして、

 その上にある、すべての繋がりも。

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