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第5話

どうも、お久しぶりでございます。

メインの執筆を優先しつつ、仕事に追われる日々でなかなか進みませんで、誠に申し訳ありません。

久々の投稿、短めですが楽しんでいただければ幸いです。

「はっ、はっ…い、急げ、マリア!」


「う、うんっ…っ、はっ、はっ…」



 迫り来る地鳴りから、俺達二人は逃げていた。

 その手に買い物袋を抱えたまま。それこそ、今までにないくらい必死になって、だ。



「ひ、弘前君、あれっ!!」


「へ? げっ!?」



 その正体を見て、俺達はゾッとした。

 背後から迫る砂塵の正体、それは…。

 見たまんま、他に形容のしようがない、化け物の大群だった。


「あ、あれって…、ブルッグ鳥だよね…?」


「ど…どう見たって…ぜぇ…ぜぇっ、そう、だよな…っ…」



 マリアに尋ねられ、俺はその疑問を肯定する。

 ブルッグ鳥、それは。

 鳥の脚部、豚の下半身、牛の上半身からなる、鳥とは名ばかりの動物であり。普段は草原地帯に生息している。

 その容姿からは想像し辛いだろうが、食肉・乳製品を始めとし広く市場に流通。日々、人々の食卓を支えている。

 そんな家庭の味方でもある彼らなのだが、基本的に温厚な雌とは違い、今回二人の後ろから迫るブルッグ鳥は、非常に気性が荒い雄の群れ。

 そんな血の気の多い彼らに捕まろう物ならば、ご自慢の鋭い角でズタズタにされてしまう。



「こ、このままじゃ不味いよぉ…」



 マリアの悲鳴にも似た声が、危機的状況に拍車をかける。

 よく見ると、彼女のペースが徐々に落ちて来ている様に思える。



「どうする…」


「弘前君…?」

 このままペースを落とそうにも、後ろからはブルッグ鳥が。

 かといって、マリアを引っ張ってこのまま行くのも、今の彼女には苦し過ぎる。

 走りながらも、必死に思考を巡らせていると、ある一つの方法を思い付く。

 しかし、それをやろうとして、俺は躊躇ってしまい。

 そんな時、ふと呟いてしまった俺の一言に、マリアはこちらを見つめ、首を傾げる。



「ええい、今は迷ってる場合じゃねえ。マリア、これ持って!!」


「ふぇっ!? あ、うんっ」



 俺はその手に抱えた荷物を、半ば押し付け気味に彼女に手渡す。

 多少驚きはしたものの、不意に託された荷物を躊躇いなく受け取るのを確認すると…。



「よっ…」


 彼女の背部に手を添え。



「しょっとぉ!!」



 足元に反対側の手を添え、そのまま抱え上げた。

 そう。弘樹の考えた策、それは即ち…。



「うぅぅおおおおおおっ!!」



 マリアをお姫様抱っこして、ダッシュで逃げる。

 という、何とも単純な作戦だった。



「ひ、ひひひひ弘前君!? こ、これは流石に恥ずかしいんだけど!?」


「これしか思い付かなかったんだから、四の五の言わないっ! それに、恥ずかしいのは俺だって同じなんだよっ」



 お互い顔を真っ赤にしながら、そんな会話を繰り広げつつ、町中を逃げ惑う。



「そ、それに、このままだと弘前君に負担が…」


 そう、現在の弘前は、その腕に買い物袋とカバンを抱えたマリアを。

 背中には、ランドにより修復されたばかりの盾を背負っているのだ。

 流石にこの状態では、彼女を背中におんぶして、とはいかなかった為、一緒に走り続ける、ではなく、お姫様抱っこをしてこのまま逃げ切る、という選択を取ったのだ。

 だが、この状態は弘樹自身にかかる負担がとてつもなく大きいのは、誰の目で見ても明らかであり。

 抱えられてるマリアもまた、それを危惧していたのだ。



「こんなんで重たいなんて言ってたら、前衛なんて勤まりゃしねえってのっ」



 言うや、弘前は速度を上げ、必死に逃げ続ける。



「弘前君、あそこっ」

「ぜぇっぜぇっ……え?」



 マリアが指差した先。そこには、岸と岸とを隔てる川と、馬車が一台通れそうな橋が架かっている。



「ナイスだ、マリア」



 そのまま橋のある方へと駆け抜け。



「いっけぇっ!!」



 同時、背中に背負った盾を(そり)の様にして、土手の上を滑る。



「よし、この速度なら一気に…」


「弘前君、前、前っ!!」


「ん?」



 すっかり安心しきっていた弘樹に、マリアは警鐘を鳴らし。

 それに気付き、前方を再度確認する。



「うげっ、まずいっ!!」



 前方には、巨大な川がゆったりと流れていた…。

 このまま突っ込んだら、二人とも水浸しは確定。 それだけは何としても避けなければ。



「止まれえええぇぇっ!!」



 両の靴の踵部分を地面に突き立てて。

 弘前は足でブレーキをかけ、乗りに乗った速度を、必死に制御しようと試みる。



「はぁっ、はぁっ…はぁっ……はぁ〜…」


「と…止まった…」



 渾身の足ブレーキにより、ようやく止まる事が出来た弘前は、マリアを抱えたまま荒くなった呼吸を整えつつも、橋の方へと視線を移す。

 先程まで背後から迫っていたブルッグ鳥達は、いつの間にやら方向を変え、そのまま町中のばく進を続けてゆく。



「ふいぃ〜…。助かったぁ〜…」


 ホッと一息吐き、そのまま土手の上に転がり込む。



「大丈夫、弘前君?」



 倒れ込んだ弘前を心配し、マリアが覗き込む。



「ん? あぁ、この通り。マリアは、どこか怪我とか無いか?」


「わ、私は大丈夫だよ」


「そっか、ならよかった」



 ニコリと微笑んだ彼に、マリアはきょとんとするものの、直ぐにその表情を緩め、同じく微笑み返す。

 よかった、と。

 そう呟いて。



「しかし、一体ありゃ何だったんだ。あんな大群で町中に現れるなんての、今まで見た事無いぞ…」


「あ…」


「ん、どうした?」


「今思い出したんだけどね? ブルッグ鳥って、深い水辺には絶対近寄らないよね?」


 そんな彼女の言葉に、弘前はハッとなる。

 三ヶ月位前、学校の授業で、アギト教諭がそんな事を話していた覚えがある事に。



「そうだ、そうだよっ! 足が付く様な浅瀬なら全然構わず突っ込んで来るけど、この川みたいな急深な水辺には決して近寄ろうともしないんだっけ」


「あの子達、かなづちだからね」



 クスクスと笑うマリアを見て、弘前もまた釣られて笑ってしまう。

 今彼女が言った通り、ブルッグ鳥は泳げない。

 理由は単純。

 あの巨体に、ダチョウの様な陸上歩行に特化した作りの足の為、浮く事は出来ても、泳ぐ事が出来ないのだ。 故に、もし旅先で彼らから逃げる際は水辺を利用するのが上策とされているのだ。



「まぁ、何にしても無事逃げ切れた事だし、よかったよかった」


「くすっ、だよね」



 顔を見合わせ、ケラケラと笑い合う二人。

 だが、そんな雰囲気は、次の瞬間一瞬にして吹き飛んだ。


「何をそんなに笑いあってるのかしら?」


「っ!!」



 そんな聞き覚え抜群な声のする方へと、弘前は恐る恐る振り返る。



「っ!?」



 そこには、素敵な笑顔でこちらを見つめる、三春の姿が。

 しかもその手には、愛用のハーケンが握られており。

 思いっきり力が込められているのがはっきりと見てとれた。


「で?」


「え?」

「弘前、いつまでそうしてるのかしら?」



 言われて気付く。

 そう。逃げるのに必死で、弘前は未だマリアをお姫様抱っこのままなのだ。

 そんな彼に未だ抱きかかえられたままの彼女の顔は、再沸騰を始めたが如く、真っ赤に染まってゆく。


「え、えっとだな。これは…」


「言い訳は後で聞いたげるから、とりあえずその手をいい加減放したら?」


「そ、そうだな」



 三春に指摘され、弘前はその腕に抱えたままのマリアを地に降ろすと。

 自身も立ち上がり、付着した砂埃を払い除ける。



「さて、これでいいか?」


「えぇ。それじゃ…」


 言うや彼女は弘前へと近付き…。



「チェエエエエエストォォォォォォ!!」


「って、ちょっと待てや三春さん!?」



 その戦鉤を振り下ろし、攻撃を仕掛け出す。



「待ってたまるかっ! つーか、待ったら絶対に死ぬってのっ!!」



 それを避けつつ、また避け切れぬ物を、背中から外した盾で防ぎ、三春との距離を置く。



「安心なさいっ!! 8割殺しで…勘弁してあげるから…せぇぇぇいっ!!」


「だから何で…ぐっ! お前にンな事されにゃならんのだよ!!」



 これには堪らず、弘前もバスタードソードを抜き、彼女に応戦する。



「そ、それは…、マリアが困ってるから…」

「ふえぇ!? わ、私のせいなの!? 私、むしろ弘前君のおかげで助かったんだけど…」


「えぇ!?」


「ほれみろ、マリアだってそう言ってるんだから…」



 気を取られた彼女のそんな一瞬の隙を突き、弘前は彼女の間合いより更に内側へと入り…。



「いい加減武器を…」


「しまっ…」



 盾で思いっきり、戦鉤を払い除ける。



「収めちゃくんねぇか、三春?」



 その際の衝撃でよろめき、尻もちをついた三春に、弘前は迷い無くその切っ先を突き付ける。



「…」


「三春?」


「そうね。何だか早とちりみたいだったようだし、ね」

 そう言って、彼女は両腕を天に掲げ、降参を宣言する。



「立てるか?」


「ん、ありがと」



 弘前もまた剣を収め、三春に手を差し伸べる。

 その小さな体を引き起こすと、弾き飛ばしたハーケンを拾い、彼女に手渡す。



「で、弘前。どうしてあんな恥ずかしい状況になってたワケ?」


「お前、町中での騒ぎを知らんのか?」


「ブルッグ鳥の大進軍でしょ? そんなの知ってるわよ…って、アンタ達まさか…」


「そ。それに追っかけ回されてたんだよ、俺らは」


「よくぞまぁ無事だったわね。マリア、怪我は無い?」


「うん、大丈夫だよ」

「弘前に抱えられてる時、変なトコ触られなかった? 目付きがいやらしくなかった!?」


「おいこらっ!! いくらなんでもンな事は…」


「えっと、指が若干胸に食い込んでた以外は何も無かったよ…?」


「あ、あのふんわりした感じはそうだったのか…って、えぇ!?」


「ジロリ…」


「ま、待て。あの時必死で記憶が…」


「嘘吐いてんじゃねぇよエロスケ! しっかり覚えてんじゃないのよっ!!」


「不可抗力だっ!!」



 必死に弁明するも、胸を触って――正確には、触れてしまっていた、だが。その事実は覆ようが無く。

 三春はジト目のまま歩み寄り、戦鈎を突き付けこう告げるのであった。



「弘前…。アンタ後で死刑…」


「り、理不尽だぁー!!」



 かくして、慌ただしかったこの日は、三春の死刑宣告により、幕を閉じたのであった。

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