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第3話

ども~、お久しぶりです。

いやはや、仕事とメインの執筆の方を優先してたらこんなにも遅くなってしまい、誠に申し訳ございません…。

 翌日の昼休み。

 カフェテリアでいつものメンツにルカを加えた5人で昼食を摂っている最中の事だ。



「弘前、アンタ腕大丈夫なの?」


「ん? あぁ、特に何事もなかった。なんで、いつも通り“日課”はやってた」


「はぁ〜…。アンタって奴は…」



 左腕をグルグルと回す俺に、三春は盛大な溜め息を吐く。

 昨日のダンジョン探索の際、俺はモンスターとの戦闘中、愛用している盾を破損させてしまった。

 一緒にいたルカや三春も、その時に怪我をしていないかと心配してくれていたが、特にこれと言って問題は無いとの事だったので、昨日も日課である素振りをやっていたのだが…。

「ま、ひろっちの頑丈さと運の良さは相変わらずみたいだな」


「それよりも…ランド、盾の方は直りそうか?」


「誰に物を言ってるんだ? 俺に直せない物、作れない物は無い」



 嬉しそうに語るランドを他所に、俺は苦笑混じりのため息を吐く。

 妖人族は、武具製造・修理といった物作りを生業とした種族でもある。

 ランドも、その例に漏れる事なくそういった物が得意なので、俺や三春、アルもまた、彼の世話になる事が多く、非常に助かってはいる。

 いるのだが、一つ問題があったりする。



「数日もすれば、今よりパワーアップしてお前の下に帰って来るから、期待してろよ?」

「頼むから、変な機能はつけないでくれよ?」



 その問題というのが、修理の為に預かった武具に“何かしらの能力”がついて戻って来るという物だ。

 所有者にとって、それがプラスとなる能力ならいいのだが…。

 俺の場合、何故かそういった物とは縁がない。

 大抵は、何かしらハチャメチャな能力がついてくる事の方が多いのだ…。

 以前も今回の様に盾が破損してランドに修理を頼んだのだが…。

 戻って来た盾には、何故か砲門がついていた。

 ちなみに実習で使ってみた所、強烈な砲撃が放たれ、ダンジョンの壁に大穴を開けてしまい、先生にこっぴどく叱られたのを今でも覚えている。 それ以外の出来は学園随一と言っても決して過言では無いだろうに、実に残念だ。

 いや、残念なのは俺だけかもしれないけど…。



「まぁそんなワケだから、しばらくは剣だけになるけど、我慢してくれよな?」


「あぁ」


「あのぉ…」


「はい?」



 そんな折、俺の後方から声がし、振り返る。

 するとそこには、淡い紫の髪を(たた)えた、大人っぽい女性が、静かにそこに立っていた。



「あ、先輩…。昨日はありがとうございました。おかげで助かりました」


「あらあら、いいんですよ。それよりも、腕の方は、大丈夫ですか?」


「えぇ。おかげさまで、この通り」


「まぁ、逞しいんですね」


「無駄に頑丈なだけですよ、こいつは…」



 褒める彼女に、三春は俺を指差し、苦笑いする。


 彼女の名は、リベイラ=グランデ。

 種族は竜人族で、俺達の先輩。

 容姿端麗、才色兼備。

 微笑む姿は見る者を魅了してやまない。

そんな彼女なのだが、弓の扱いがとても凄く、模擬戦をやっても誰一人その懐に近付けさせない。


ドラゴニック鉄壁(ウォール)


 そんな二つ名がある有名人であり、アルとランドがずっと組みたいと願っていたお相手だ。

 俺は昨日、そんな彼女と、念願叶ってパーティを組めたアルらに、間一髪の所を助けられたのだ。



「それで、今日はどうしたんです?」

「えっと、用があるのは私じゃなくって…」


「ん? あ…」


「ど、どうも…」



 彼女の後ろからそっと姿を現したのは、昨日森でゴブリン達に襲われていた少女だった。



「何、知り合い?」


「あぁ。日課の終わり頃に、ちょっとな…」


「ふぅん…」



 二人に向けてた視線を戻すと、三春はじっと俺を見つめる。



「聞けば、昨日はマリアちゃんを助けてくれたそうで…」


「マリア…ちゃん?」


「この子の事ですわ」



 先輩の紹介により、彼女の名前が明らかになる。



「へぇ…マリアっていうのか」


「…。あのぉ、弘前さん?」


「何でしょう」


「もしかしてなんですが…、自己紹介とかは…」


 と、恐る恐る聞かれた俺は、苦笑するに留まる。

 それを見た先輩は、額に手をやると後方の彼女に視線を送る。



「…。マリアちゃん?」


「だ、だって…」


「んもぅ、自己紹介くらいちゃんと…」


「ま、まぁまぁ…。彼女も悪気があったわけじゃないんですから…」



 さすがにこんな所でお説教されたんじゃ、彼女が少し可愛そうだと思った俺は助け船を出す事に。

 さっきから、こちらを見ている周囲の視線が妙に痛いのも、きっとそのせいだと思われるし…。


「ですが、こういった事はきちんとしておかないと…」


「だけど、結果として俺たちはこうして再会出来たんですから。ね?」

「…。それもそうですね」


 そんな俺の返答に、彼女は一瞬だけきょとんとするも、微笑し、やんわりと返す。



「それじゃ、改めて…。俺は、鷹岡弘前。2年盾組所属で、前衛志望だ」


「マリア=デレグラツィエです。鎧組所属で、後衛志望です」



 互いに手を差し出し、自己紹介をする。



「わ、私は舞鶴三春。こいつと同じ盾組所属で。ホントについでだけど、こいつの幼馴染みもやってるわ」


「おいこら、ついでって何だよ」


「よろしくね、三春ちゃん」


「って無視!?」


「俺は、ランド=クインズ。装備が壊れた時は、いつでも言ってくれ。完璧に修繕してみせるから」


「ごく稀に、変な機能が付いてくるけどな…」

「それは、きっと弘前だけよ」


「言うな…」



 三春の一言に項垂れる俺を、先輩とマリアはクスクスと笑い声をあげながら、その様子を眺めていた。



「アルバン=モンテです。お嬢さん、お会い出来て光栄です」


「「「って、サラっと何しようとしてんだお前は!!」」」



 自己紹介の際、マリアの手を取りそのまま顔を近付けるアルを、ランドを含めた3人で床に沈める。



「1年篭手組所属、ルカ=スオシオスです。よろしくお願いします、マリアお姉ちゃん♪」


「うん、よろしくね♪」


「それじゃ、私も改めて。リベイラ=グランデ。3年槍組所属で、マリアちゃんの幼馴染みもやってます」


 そう言って、先輩は俺の方へと手を差し伸べ、にこやかに微笑んだ。



「こちらこそ、先輩」



 そして俺もまた、自らの手を差し出しその手を握る。

 雪の様に白いその肌からは、暖かい体温が伝わってくる。



『…』



 そして同時に、周囲からの冷たくも痛い視線が突き刺さる。

 何故その様な目で見られなければならないのだろうかと思っていると、三春らが口を開く。



「弘前、長い」


「へ?」


「「いつまで先輩の手を握ってんだ、お前は!!」」



 言われてから顔を上げる。

 目の前には、笑顔ながらも少々困ったと言った感じも見受けられる先輩の姿が。 俺は慌ててその手を離し、謝罪の言葉と共に頭を下げる。

 先輩は、気にしてないからと諭し、自らの頬に手を当てにこやかに微笑んだ。



「さて、皆さんはお昼ですか?」


「はい。あ、先輩達も一緒にどうです?」


「あら、いいの?」


「ちょうど席も2つ空いてますし、いいと思いますよ?」


「そ、それじゃ」


「お邪魔します」



 そう言って、俺の正面に先輩が、左隣へはマリアが腰を下ろす。

 ちなみに状況は、俺から見て右回りに、三春、ランド、アル、ルカ、先輩、マリアの順に円卓テーブルを囲んでいる。



「先輩とマリアは、弁当なんだな」


「うん。そういう弘前君は、学食?」

「あぁ」


「こいつ、最初の頃はお弁当だったのに、最近はいつも遅くまで寝てるから、作ってる暇が無いのよ」


「へぇ…」


「余計な事を言うな。つか、さっきから俺を弄って楽しいか?」


「勿論♪」



 胸を逸らして得意げに笑う三春を前に、俺は再び力無く項垂れる。



「今度、食べてみたいです」


「あ〜、やめておいた方がいいわよ…?」


「それについては俺も全面的に同意だな」


「うむ…」



 リクエストした彼女に対し、盾組一同は苦笑いしながらもそれを薦めようとはしなかった。

 当然、マリアの頭には疑問符が浮かぶ。



「えー、せっかくお兄ちゃんの作るご飯が食べられる機会が巡って来たと思ったのにぃ…」

 そんな中、不満を述べるのはルカ。

 その反応を見て、先輩は薦めない理由を何となく察し、三春達同様に苦笑するに留まる。



「俺は別に構わないんだが…」


「ひろっち、また被害者を増やす気なのか…」


「最低ね、弘前…」


「被害者言うな、失敬な。つか、最低って何だよお前は…」


「ん〜…。でも、やっぱり食べてみたいです。弘前君の作るご飯」


「そういう事だし、やっぱ作ってくる。あ、ちゃんと皆の分も」


「さっすがお兄ちゃんですっ♪」



 三春らの必死の説得も虚しく、俺とマリアとの間に約束が取り交わされるのであった。



「その代わり、頼みがあるんだけど、さ…」


 そんな俺の言葉に、マリアは何?と小首を傾げ訊ねて来る。

 …その仕草が、妙に可愛いと思ってしまったのは内緒だ。



「その…」


「うん?」


「玉子焼き、一つ貰っていいか?」


「へ…?」



 瞬間、マリアと先輩を除く俺以外の面々が綺麗にずっこけた。



「ひ、ひろ…。おまっ、何を言い出すかと思いきや…」


「いや、だってすっげぇ美味そうで、つい…」



 テーブルの縁に手をかけ、何とか復活を果たしたランドに、俺は笑って誤魔化した。

 まぁ、実際美味そうに見えたのは本当なんだけど…。



「くすっ、いいよ」


 そう言って、マリカは弁当箱を差し出し、こちらへ傾ける。

 俺が取りやすい様、気を遣ってくれたのだろう。その気配りが素直に嬉しいと俺は思う。



「あらあら、いっその事、あ〜んなんてしてみてはいかがです?」


「なっ!?」


「そ、そんな事…」



 先輩の一言に、俺とマリアは顔を見合わせる。

 視線を逸らし俯く彼女を前に、熱を帯び、顔が赤くなってゆくのを感じ、俺も同様に視線を逸らす。



「だ、ダメですっ!!」



 そんな光景を目の当たりにした途端、復活を遂げる三春。

 その表情が妙に危機迫る物があった様に見えたのは気のせいだろうか…。



「あら…。それじゃ…弘前さん」


「はい? むぐっ…」

『あーっ!!』


 不意に呼ばれ、振り返った所に何かが放り込まれる。

 その光景を目の当たりとした一同は揃って声を上げる。

 そんな事に脇目も振らず、俺は放り込まれた物の正体を確かめるべく咀嚼そしゃくを始める。



(このパサパサした食感、そして時折感じるしっとりとしながらも味わいのあるこれは…)


「サンドイッチ、ですか…?」


「はい、正解♪」



 指で花丸を描きながら、頬に手を当てにこやかに笑って見せる先輩。



「な、あ…」


「…」


「…」


「こ、これは、破壊力満点かも…」


「う、うん…」


 皆の方を振り返ると、三春は指指しながらわなわなと震えているし、アルとランドは真っ白になって固まっている。

 マリアは顔を真っ赤にしており、ルカもまた顔は真っ赤なものの、皆よりはダメージ少なめといった所。

 そんな周囲の反応を見て、ふと、俺は今の一連の行動を思い返してみる。



(俺は先輩に呼ばれて振り向いた。で、その口にサンドイッチを…)



 そこまで考えてハッとなる。

 先輩は、サンドイッチをどうやって俺に食べさせたのか、と。

 途端、俺の顔にも赤みが増してゆくのを感じ、事態の重さをようやく噛み締める事となった。



「せ、せせせせ先輩!?」

「あらあら、顔を真っ赤にしながらうろたえるなんて、弘前さんって器用なんですね?」



 特に悪びれる風もなく、先輩はにこやかに笑って見せる。



「そ、そうじゃなくって。あの、その…」


「マリアちゃんがやらないので、代わりに私がやってみました♪」


「何でさ…」



 そんな先輩の発言に、俺は思わずツッコまずにはいられず、つい口を滑らせていた。



「あら、お嫌でしたか?」



 瞬間、先輩の顔が陰りを見せる。



「「ひろ、先輩を悲しませるとは何事かっ」」


「ならどうしろと!?」



 俺はこの時こう思った。理不尽っていうのは、こういう時にこそ使う言葉なんだろう、と。


「くすっ、冗談ですよ」



 先輩、もう遅い。

 そう言おうとした瞬間、俺は盾組メンバーによって床に叩き伏せられていた。

 つか、何で三春まで俺をボコる…。俺、何かしたか…?



「あ…。お昼、終わってしまいましたね…」


『あ…』



 昼休み終了のチャイムが響き、我に返る俺達。

 結局、ロクに昼食を摂る事も出来ないまま、俺達は食堂を後にする事となってしまったのであった…。

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