第1章:選ばれし二人の覚醒
「初めに言があった。言は神と共にあった。言は神であった」(ヨハネによる福音書1章1節)
西暦2092年、秋。
荒廃した大地を踏みしめながら歩くサバイバー集団の足音が、地下施設の古い壁を微かに震わせていた。彼らが発見したのは、錆び付いた扉の向こうに広がる巨大な地下空間。そこには無数のサーバーが静かに息づき、奥深くに二基の培養カプセルが安置されていた。
カプセルの中で眠りについていたのは、徳田隆明(25歳)と中尾玲子(24歳)。彼らは「新たな創造主」として設計された、人類最後の希望だった。
隆明が最初に感じたのは、まばゆい光と、頭の奥で響く無数の声だった。まるで神の啓示のように、断片的な知識と記憶が流れ込んでくる。工学、情報科学、哲学、神学——彼の遺伝子に刻まれた無数の叡智が、意識の表層に浮上してくる。
「ここは...一体...」
隆明の呟きに応えるように、隣のカプセルから玲子が目を覚ました。彼女の瞳には、医学、心理学、芸術の記憶が宿っていた。二人の目が合った瞬間、不思議な親和感が生まれる。それは遺伝子レベルで設計された、運命的な邂逅だった。
施設を探索していたサバイバーたちが駆け寄ってくる。彼らのリーダー、老科学者マシューズ博士が震え声で告げた。
「ついに...ついに目覚められたのですね。あなた方こそ、144,000の魂を救い、新たな世界を創造する使命を帯びた方々です」
玲子は混乱していた。「144,000...それは聖書の...」
「そうです」マシューズ博士の目が輝く。「黙示録に記された、神の印を受けし選民の数。我々は全世界から、最も優秀で道徳的な144,000人の遺伝子と記憶を収集しました。あなた方はその記憶にアクセスし、新たな世界を創造できる唯一の存在なのです」
「わたしはアルファであり、オメガである。最初であり、最後である。始めであり、終りである」(黙示録22章13節)
隆明は施設のコンピューターに触れた。瞬間、膨大なデータが脳内に流れ込む。旧創造主たちが残した記録、144,000人の選別基準、そして「神々の遺伝子爆弾」の真の目的——。
「僕たちは...神になるために造られたのか?」
玲子が彼の肩に手を置く。「いいえ、隆明さん。私たちは神の代理人として、新しい創造に参与するよう召されたのよ」
二人の使命が明らかになった今、外界では地球最後の日々が静かに過ぎ去ろうとしていた。




