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第7話 ミカの心配

 シギは苦笑して言った。


「珍しいな。お前が昼前に起きて来るのは」

「トビィと出かけんだよ」


 ミカはトビィを連れ出そうとする動きを緩めないまま、ぞんざいな口調で答える。


「え? そ、そうなの?」

「そうだよ。だから早くしろよ」


 目を丸くするトビィを、ほとんど引きずるようにして連れて行こうとするミカに、シギは言った。


「ミカ、トビィさんが困っているだろう」

「あんたには関係ねえだろ。トビィは、()()用心棒をやってんだから」


 愛想のない声で答えてから、ミカはシギの端整な細面を睨んだ。


「そんなことよりシギ、夕べの客はどうなってんだよ。あんな性質(タチ)の悪い客、入れやがって。月晶宮の格も落ちるし、あんたの『遣り手』としての評判にも傷がつくぜ」

「お前のことをえらく気に入ったらしくてな、断りきれなかったんだ。悪かった」


 シギは素直にそう言い、頭を下げる。

 ミカは眉を潜め、今にも舌打ちしそうな険悪な表情になる。


「ふざけんなよ、こっちは危うく手篭(てご)めにされるところだったんだぜ」

「貸しにしておいてくれ。埋め合わせはする」


 ミカはなおも仏頂面をしていたが、やがて気を取り直したようにトビィのほうを向いた。


「まっ、トビィが来てくれて、大事にならなかったからいいけどよ。な? トビィ」


 ミカはトビィの指に指をからめ、肩に頬を寄せる。さりげない動きで薄着に包まれただけの細い肢体をトビィの体に寄り添わせ、絡めた指先を内密の話を伝えようとするかのように、掌や指の輪郭にそって滑らせた。


「ああいう時のお前、いいよな。威張るだけが取り柄の男なんかよりずっと、さ」


 上目遣いの視線を向けられると顔が自然と熱くなっていく。仕込まれた媚態だとわかっていてもその(なまめ)かしい様は、トビィの心を激しく揺さぶった。

 トビィの様子を見つめて、ミカは満足そうに微笑む。


「トビィは俺の銃剣士さまだからな」


 甘い響きを帯びる声で耳元で囁かれて、トビィは応でも否でもない言葉を口の中でもごもごと呟く。

 シギはそういった様子から、さりげなく視線を外して言った。


「ミカ、トビィさんはルグヴィア公家から正式に銃剣士として叙任されている。本来であれば俺らが、顔を拝むことさえ(はばか)る身分の方だ。客に対するような振る舞いはよせ」

「何だよ、焼いてんのか? シギ」


 ミカはシギの言葉など聞き入れる風もない。

 シギの反応を面白がるように、益々トビィの腕にしがみつく力を強くする。

 細く華奢な体つきのミカと、女性にしては背が高く体も鍛えているトビィは、わずかにトビィのほうが大柄な程度で、背丈も体の横幅もほぼ同じくらいだ。

 トビィが今にも失神するのではないかと思うほど顔を赤くしている以外は、仲のいい二人の少女がピッタリとくっついているようにしか見えない。

 シギは半ば呆れたように半ば諦めたようにため息をついた。


「トビィさん、済みません。道理を知らない下々(しもじも)のすること。そう思って下さると助かります」

「トビィは、俺にこうされるのが好きなんだよ。俺は俺の銃剣士さまに、いつでもどこでもご奉仕しているだけだぜ。それが()()()って奴だろ。余計な口出しすんなよ、シギ」


 ミカはシギを横目で見ながら、これみよがしにトビィの浅黒い頬に唇を当てる。

 その姿勢のまま、ミカは言った。


「行こうぜ、トビィ」


 体を硬直させているトビィを、ミカは強引に部屋の扉の外へ押し出す。

 出て行く直前、室内のシギのほうをジロリと一瞥いちべつした。

 シギが顔を上げると、勢いよく顔を背け、部屋の外へ出て行った。



6.


 部屋の外へ出ると、ミカはトビィの腕を掴み、ずんずんと通路の奥へと進んでいく。

 媚を含み、馴れた関係であることをことさら見せつけるような先ほどの様子とは一転し、引かれる手から苛立ちが伝わって来る。


「ミカ、ねえ、ミカ」


 トビィはつんのめるようにして歩きながら、先を行くミカの背中に声をかける。

 しばらく歩くとようやく、ミカは立ち止まった。手首をしっかりと握りしめたまま、じろりとトビィの顔を睨み、またすぐに視線をそらして言った。


「シギの部屋で何してたんだよ」

「えっ?」


 トビィは思わず声を上げる。

 もう何度も答えているではないか。

 そう思い、トビィは視線をあやふやにさまよわせる。

 不意に手首を掴む力が強まり、トビィは驚いてミカの顔を見た。

 

「……何もされなかったか?」

「へ?」


 余りに意外なことを言われてトビィは思わず間の抜けた声を上げる。

 ミカの金色の瞳はひどく真剣で、底光りして見えた。

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