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第6話 さっさと戻ってこいよ。

 言葉使いや挙動でいえば、むしろ両極端にいる二人、と言って良いだろう。

 だがちょっとした仕草やふとした時の表情、何よりも外見や所作などに左右されない、その場にいる雰囲気が二人には確かに目に見えないつながりがあると感じさせる。

 陽光が降り注ぐ豊潤な大地で育てられたか、深い森の一番奥にある陽の光の届かない暗い水辺で咲いたかの違いはあれど、二人は同じ種類の同じ花であり、同質のものから切り出された存在だ。

 幼いころからルウェルのそばにいてその存在を見つめ続けてきたトビィだからこそ、わかる。

 

 ミカは、ルウェルの父親である前ルグヴィア公が外で産ませた子ではないか。

 異母兄弟であれば、二人が似ていることも納得がいく。

 貴族が身分の低い女性に自分の子供を産ませ放置する、ということは醜聞ではあるがよくある話だ。

 ルウェルのように、二十代半ばにもなって独り身で浮いた噂ひとつないほうが珍しい。

 もし先代のルグヴィア公のことを知らなければ、トビィはそう考えただろう。

 だが。

 トビィは先代ルグヴィア公が国主の地位を継ぐまでの経緯を思い出す。


 ルウェルの祖父である先々代のルグヴィア公は、後継者を正式に定めないまま急死した。

 そのため、年長であるルウェルの父親と正妃の一人息子であるルウェルの叔父、それぞれを押す勢力によって、ルグヴィアの国内を二分する後継者争いが起きた。

 本人たちの意思は関係なく、兄弟はそれぞれの勢力の争いの旗頭として担ぎ出された。

 ルウェルの父親がルグヴィア公の地位に着いた時には、異母弟の側についた者たちをすべて宮廷から追放し、一掃せざるえなかった。

 異母弟は公都から離れた館に幽閉されたが、しばらく経って病死した。

 自害を強いられたのではないか。

 そういう噂が流れた。

 十七年前のことである。

 

 元来、穏やかで物静かな性格だったルウェルの父親は、権力闘争に巻き込まれ異母弟と争わざるえなくなったことで深い傷を負った。国主の地位についてからも政治は側近たちに任せ、自分は地方に住まいを移し、世捨て人のように過ごし生涯を終えた。

 一人息子であるルウェルでさえ、父親とほとんど会ったことがないと聞いたことがある。


 ルウェルの父親は引きこもっている時に、そこで出会った女性との間に子供をもうけた。

 その子供がミカである可能性はある。

 だがなぜ、ルグヴィアから遠く離れたエリュアで……しかも娼妓に身を落としているのか。


 そこまで考えて、トビィは慌てて首を振る。

 主家の内情のことを、あれこれ詮索すべきではない。

 何も考えることはない。

 ただ伝えられた命令をこなし、忠義を尽くせばいいのだ。

 自分は祖国ルグヴィアと、その公家の当主であるルウェルに剣と銃を捧げた銃剣士なのだから。

 


5.


 昨夜の報告が終わり、シギと他愛の話をしていると、不意に部屋の戸が開いた。

 反射的に振り返った瞬間、何かが部屋に飛び込んできて腕にまとわりついてくる。


「ミカ」

「何してんだよ、トビィ」


 ミカはトビィの腕に腕を巻き付けたまま、顔を寄せてきた。


「シギさんに昨日のお客さんのことを報告していたんだよ」


 ミカは不機嫌な顔になり、そっぽを向く。


「報告なんてすぐに終わるだろ」

「えっと……他のことも、色々話していたんだよ。お客さんのこととかエリュアのこととか」

「おっせえんだよ。用が済んだらサッサと戻って来いよ」

「ご、ごめん」

「ったく、待ちくたびれてしわくちゃの爺さんになるかと思ったぜ」


 行こうぜ、と言って、ミカはトビィの腕を強引に引っ張る。

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