最終話 二人の選択
ルウェルはトビィの手から銃と剣を受けとる。
そのままの姿勢で、膝まづき頭を垂れているトビィに向かって言った。
「ルグヴィア公国、国主ルウェルの名においてここに宣する。レトビィア・ヴィカ・ラトカーシュ。そなたから銃剣士の称号、名誉、ルグヴィア公家からの祝福を剥奪する。これより先、そなたが銃剣士を名乗ること、このルグヴィア公宮に足を踏み入れることを一切許さぬ。ルグヴィアとは無縁の者、公爵の銃剣士ではない、何者でもない者として、どこへなりと行くが良い」
淡々とした声音でそう伝えるルウェルの前で、トビィは深々と頭を下げる。
しばらくその姿勢でいた後、トビィは顔を上げた。
仰ぎ見たルウェルの顔は、最前と変わらず静かで感情のさざ波すら見られなかった。
万感の思いを込めてその顔を見つめていると、ルウェルの表情が微かに動いた。
トビィがハッとしてルウェルの唇の動きを追う。
身を翻し奥の部屋へと去っていくルウェルの背中に、トビィはもう一度深々と頭を下げた。
幸せにな、トビィ。
(ありがとうございます、ルウェルさま)
駆け寄ってきたミカを抱きとめながら、音になることのなかったかつての主君の言葉にトビィはそう答えた。
10.
そのひと月後、トビィとミカは旅の途上にいた。
目指すはトビィの実家の領地、ラトカーシュ領である。
戦があり国内の政情が不安定になった時は、他領地に侵入し略奪を働く者も多い。他国から傭兵としてやって来て、そのまま野盗になる者もいる。
戦の後のほうが、秩序が壊れ領民たちの被害は大きくなる。
国主の力が弱体化している今は、地方の領主たちは自力で自分の土地と民を守らなければならない。人手はいくらでもいるだろう。
アルフルーレ辺境伯と公座を取り戻したルウェルに挟撃されたグランヴァルドは、未だに生死が不明だ。既に死亡しているとも隣国に逃げたとも伝えられている。
今のルグヴィアの状況では、第二、第三のグランヴァルドが出てきて再びミカが狙われないとも限らない。現在のルグヴィアの支配者になったアルフルーレもミカが生きていることが知れば、刺客を向けてくるかもしれない。
「おい」
後ろに乗っていたミカが、トビィの肩に顎をのせて顔を覗きこんだ。
「なに、小難しい顔しているんだよ」
トビィは言った。
「ミカのことを頑張って守らなきゃ、って思っていたの」
「へえ?」
探るような眼差しを向けられた瞬間、胸が大きく波打つ。
トビィは慌てて視線をそらした。
再会してからずっと一緒にいるのに、ミカが自分の魅力を遺憾なく発揮する時は、未だにその力に抗うことが出来ない。
ミカはトビィが狼狽する様を満足そうに見守ったあと、体を預けるようにして赤くなったトビィの首筋に唇をつけた。
「ミ、ミカ」
「頼むぜ、俺の銃剣士さま。俺を二度と他の奴に渡すなよ」
ミカはトビィの首に口づけたまま、唇の動きだけで囁いた。
お前が公爵さまの銃剣士をやめて俺の銃剣士になることを決めたように、俺も自分でお前の側にいるって決めたんだ。
「うん」
ミカの言葉に、トビィは顔を赤らめて嬉しそうに頷いて言った。
「もう二度と誰にも渡さないよ、ミカのこと」
二人を乗せた馬影は、長く伸びた街道を進み、やがてその先へと消えた。
(終)
「公爵さまの銃剣士」を読んでいただきありがとうございます。
この話は
「受難に遭い続けるさらわれツンデレ男の娘を、強い女の子が助ける話が好き」
という自分と同じ嗜好を持つ人に楽しんでもらいたい、と思って書きました。
概ね楽しく書けたのですが、グランヴァルドやアルフルーレのような野心家のおっさんたちをもう少し書き込んで活躍させたかったということが若干心残りです。
という次への課題(?)も残りましたが、難産だっただけに今は書き終わった喜びでいっぱいです。
楽しかった、と思っていただけたら、↓の★評価を押していただけると大変喜びます。
最後になりましたが、ミカとトビィ、二人のことを最後まで見守っていただきありがとうございました。
苦虫うさる




