第45話 再会
「そのような話は聞いておらぬ」
「命令書がこちらに」
宮廷兵の姿をした銃剣士の仲間が、あらかじめ用意した命令書を差し出す。ザファルから受け取った別の命令書に手を加えたものだ。
守備兵は羊皮紙を受け取り、丹念に調べ始めた。
「どうも本物らしいが……」
「しかし、隊長殿から特に命令の変更は受けていない……」
二人は小声で相談し、トビィたちのほうを向いた。
「委細を確認して参る。この場で少し待て」
今にも歩き出そうとする護衛兵に向かって、銃剣士の一人が慌てて言った。
「急ぎの命令だ。そんな暇はない」
「急ぎの命令、だと?」
守備兵の声には、反感と疑念の響きがあった。
動きを止め、トビィたち五人をジロジロと眺める。
「宮廷警護の……所属はどこだ?」
トビィを含め、銃剣士団の4人はほとんど同時に視線を交わした。
一瞬の視線の交叉で4人は意識を共有し、思考するよりも早く共有した意識に従い行動を起こす。
4人は二人ずつに分かれ、守備兵に飛びかかった。
「な、何を……っ!」
一人を気絶させ、大声を出そうとするもう一人の兵を床に押さえつける。
「トビィ」
兵士を押さえつけていた一人が叫んだ。
「部屋の中に抜け道があるかもしれん。急げ! 絶対にミライカを逃がすな」
トビィは反射的に頷き、両開きの扉に手をかけた。後ろから仲間の一人がやって来て、一緒に扉を押す。
開いた扉から、トビィは室内に駆け込んだ。
扉の奥は、さらにいくつかの部屋に分かれている。
侍女の控えの小部屋、客人を迎える応接の間、身なりを整える衣裳室、次々と部屋と廊下を抜けていき、一番奥の扉にたどり着く。
取っ手に手をかけると、予想に反して扉は簡単に開いた。
何か考えるよりも早く、トビィは部屋の中に飛び込んだ。
※※※
室内には青年貴族の装いをした細い人影があった。小柄で華奢な体つきをしており、黒く艶ややかな髪に囲われた顔は、驚くほど美しかった。
生きることに倦んだような暗く翳った金色の瞳が、トビィたちのほうへ向けられる。
瞬間、金色の瞳がわずかに驚愕を映し出し、軽く見開かれた。
トビィは、信じられない思いでその姿を見つめた。
目の前に立っているのは、既に大人として成熟しつつある19歳の青年だった。三年前のミカが持っていた、少女のような容貌に似合わぬ傲慢な雰囲気、それとは裏腹の見る者を惹きつけるいたいけさはなりを潜め、代わりに人を否応なく深みに引きずりこむような、蠱惑的な美しさを身にまとうようになっていた。
あれから三年も経つのだ。
変わっていて当たり前だ。
そう頭ではわかっているのに、再会したミカが自分の記憶の中にある16歳の姿ではないことに、トビィは強い衝撃を受けた。
そしてその強い胸の痛みとはまったく別に、初めて出会った目の前の青年に心を奪われ、目が離せなくなっていた。
ミカも、にわかに自分の目が信じられないかのように、食い入るようにトビィの姿を見つめている。
形のいい唇が開き、何か言葉を象ろうとした。
だが声を放つ寸前、ミカはハッとした。
トビィの顔から引き剥がすようにして強引に視線をそらし、隣りにいる銃剣士の男のほうを向く。
その口から、感情のこもらない声が漏れた。
「公爵の銃剣士か」
独り言のように呟いたあと、ミカは皮肉な笑いで口許を歪めた。




