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第14話 まずはご入浴を。

「では、トビィ様。まずはご入浴室へご案内いたします」

「にゅ、入浴?」


 仰天するトビィを丁重に、だが断固とした態度で立たせると、サルディナは侍女たちに向かって言った。


「すぐにご入浴室の準備を。お若いかただからこうは……そうね、レミーの香りがいいわ。季節も合っているし。小袖は深紅で体の線がはっきり出るものがいいわね。トビィ様、失礼いたします」


 サルディナは立ちすくんでいるトビィの体を様々な角度から見、体のそこかしこに手をすべらせる。


「無駄のない体つきですわね。肌も柔らかくて引き締まっている。体の線をすっきり出したほうがいいでしょうね。お稽古事は何を? ……銃剣士? まあ、ルグヴィアではそのようなくらいがあるのですか。申し訳ございません、こちらでは女性のかたが騎士や剣士になられることは、そうそうないので。……今は、こちらでは細身の服装が特にお若いご令嬢がたの間で流行っているんですよ。トビィ様なら、かなり細い服でも着こなせそうですわね。

 ……銃と剣は手放せない? ご主君から授かった、命よりも大事なものなのですね。わかりましたわ。では、長衣をゆったりとしたものにして、下につけても目立たないようにしましょう」


 サルディナはトビィの髪をうやうやしく手に取り、瞳をのぞきこむ。


「髪のお手入れは……普段はされていない? まあ、もったいない。豊かな美しい髪ですのに。香油を濡ればすぐに光沢が出ますわ。色がうんと濃い単衣ひとえに淡い色合いの上物を合わせたほうが、よりお肌の色や瞳の色が引き立ちますね」


 サルディナが納得したように頷くと同時に、侍女がやって来て入浴の準備が出来た旨を告げた。

 サルディナはトビィの背中に手を置き、丁寧に侍女の前へ導く。


「トビィ様、どうぞ。ご入浴のお世話をさせていただきます」


 トビィは目を白黒させて辺りを見回す。

 いつの間にか、部屋の中にはトビィとサルディナ、侍女たちだけになっていた。

 サルディナはトビィの中の疑問を察したように、微笑んで言った。


「ミカ様は、隣りの部屋でご準備をされています」


 さあ、トビィ様。

 もう一度促されて、トビィは侍女に取り囲まれて入浴室に入った。



9.


 部屋のすぐ隣りは衣装室になっており、トビィはそこで手早く着ていた服を脱がされる。

 侍女たちの動きは手馴れており素早かった。

 気付いた時には、トビィは入浴用の下着のみをつけた姿になっていた。

 腰に下げていた銃と剣も衣服と一緒に持って行かれそうになったが、何とか手元に残す。


「こちらへどうぞ」


 入浴着を纏った別の侍女の案内で、衣装室の隣りにある入浴室に導かれる。


 入浴室の真ん中には、石をくりぬいて作られた湯舟があった。  

 湯舟の中には、体を伸ばしてくつろいだり腰かけたりできるように様々な形の台が設置されている。湯にはレミーと呼ばれる南国の白い大ぶりの花が一面に浮かべられ、優しく爽やかな香りが室内いっぱいに広がっていた。


 侍女たちはトビィの体に湯をかけて、軽く体を流すと、手をとって湯舟の中へと導いた。 


「こちらに冷たいお飲み物をご用意しております」

「は、はい! ありがとうございます!」


 温かい湯の中に体を横たえていたトビィは、バネ仕掛けの人形のように背筋を伸ばす。


 湯に浸かってしばらくすると、侍女が羽織り物を持って来る。

 腰から下だけを湯につかっているトビィの肩を冷えないように通気性のいいもので覆い、侍女たちは大きな団扇でゆったりとした風を送る。

 湯でのぼせないようにと冷たい飲み物をすすめられて、慌てて用意された杯を一気に飲み干した。


「まあ」


 侍女たちは口元に手を当てて、一斉に笑いさざめいた。こういった場に慣れていないトビィの朴訥さに、好意を持っているようだ。

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