第一章 白い薔薇の誓い
帝国暦一二七年、春。
王都ローゼンハイムでは、皇太子オリヴァー・ルネド・プレアリーの婚約発表で賑わっていた。
「本日、皇太子殿下はブランシュ伯爵家の令嬢、ロザリー・ブランシュ嬢と婚約なさるとの御触れが下りました。二人の御結婚は帝国の安泰を象徴するものとされ、国民の祝福を受けています……」
広場の掲示板に貼られた布告を、私は呆然と見つめる。
私──セルジュヴィア・ルミエール・ドラシェン はかつて皇太子の婚約者だった。
三年前、皇太子オリヴァーと私は互いに心を寄せ合い、王室の承認も得て婚約していた。
王都一の美しさと才知を兼ね備えた令嬢と、未来の皇帝。
誰もが「天に選ばれたカップル」と称えた。
しかし、ある日を境にすべてが崩れる。
「セルジュヴィア、君は優しすぎる。この国を治める者として時に冷酷さも必要だ。君では私の支えにはなれない」
そう言い捨て、オリヴァーは私を捨てた。
そしてわずか三日後──彼はブランシュ伯爵の娘のロザリーと婚約する。
彼女は容姿も才知も私とは比べ物にならないほど凡庸だった。
にもかかわらず王室は彼女を太子妃として認めたのだ。
理由は一つ。
ブランシュ伯爵家は帝国最大の軍産複合企業を支配しており、皇太子の即位に必要な軍の支持を握っているからだ。
つまり私は、政治の駒として捨てられたのだ。