最後の裏切り
魔王は滅びた。
勇者は役目を果たしたのだ。
王都にて勇者の凱旋のパレードが行われる中、勇者はひっそりと姿を消した。
人々は勇者を探したが彼は見つからなかった。
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路地裏を一人歩く少女の背を勇者が叩く。
少女は振り返り面食らう。
「勇者様?」
「あぁ」
「何故ここに……?」
呆然とする少女に勇者は何かを言おうとしたが、問いの答えを聞くよりも早く少女は言った。
「って! どうでもいいですから! とにかくパレードに戻ってください!!」
「いや、それが……」
「いいから!!」
喚く少女を見て勇者は小さくため息をつく。
彼女との付き合いは長い。
故に知っていた。
このように騒ぎ出したら彼女の燃料が切れるのを待った方が良いと。
「き、聞いているんですか?」
案の定、彼女は様々なことを捲し立てた後に息切れをしながら勇者に尋ねて来た。
「もちろん、聞いてるさ。効力がなくなるまでに皆の期待に答えた方が良いってことだろう?」
そう言って笑う勇者を見て少女は息を飲んだ。
もう随分と魂が消えかけている。
そう。
勇者は本当は魔王に敗北して死んでいたのだ。
それを勇者の従者にして友人であるネクロマンサーである少女が魂を繋ぎ止め、そして残された時間で勇者は大義を果たした。
これが魔王退治の真相だった。
「勇者様! あなたは皆の勇者様です! だから、最期は皆の前で……!」
少女の言葉に勇者は首を振った。
「僕は君だけの勇者で居たい」
息を飲む少女に勇者は微笑み、そして彼女の体を抱きしめた。
「これが最後だから」
その言葉と共に勇者の体から少しずつ魂が抜け落ちていく。
呆然とする少女を残し。
「君の期待を最後に裏切ってしまってごめん」
そう言い残して勇者は眠りについた。
「勇者様……」
魂のなくなった体に少女は声をかけたが声が返って来ることはなかった。
少女はしばらくその骸を見つめた後、静かに魔力を行使する。
「ありゃ、ダメだったか……」
「勇者様。雰囲気で誤魔化さないでください」
気まずそうに頭を掻いて復活する勇者に少女は告げた。
「いや、そりゃ分かりますよ。あれだけ自信満々に魔王討伐に向かって返り討ちにあった挙句、ネクロマンサーである私の協力を得てのゾンビ戦法で辛勝したってバレるのが嫌なのは……」
「そうだろ?」
「だけど、ダメでしょう。ここで逃げちゃ……」
「いや、だけど、どんな顔をして会いに行けば……」
そこまで聞いて少女はうんざり顔で言う。
「とりあえず蘇らせちゃったんでパレードに戻りますよ」
「えぇ……やだなぁ……」
「いいから行きますよ!」
「ねぇ、次に魂なくなるのいつ?」
「十日後です」
「やだなぁ……」
「あ・の・で・す・ね! 私は勇者様の希望通り『パレードの終わりに人々が気づくと勇者は眠るように世を去った』状態に出来るよう調整していたんですからね!? そんな私を裏切ったんですから当然の報いです!」
露骨に嫌そうな顔をする勇者の腕を引きながら少女は歩き出す。
「この際だからはっきり伝えておきますが! ゾンビ戦法だろうがなんだろうが! あなたは魔王を倒した偉大なる勇者様なんですから! もっと自信を持ちなさい!!」
「はいはい……」
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その後、偉大なる勇者の細やかな余生が幸福に満ちたものであったのは語るまでもない。