退屈な話
はじめまして。
なんとなく考えたアイディアで小説っぽくしてみました。
初投稿です。よろしくお願いします。
退屈な話
この世の無常を思わせない、至って普通な空には、普通な白い雲が流れ、心地よくも悪くもない風が吹き通う。
変わらない場所、変わらない日々が続く。
うららかな木陰に囲まれた、小屋がある。小屋といっても、その横には厳重な門が構えられ、どこか物々しい雰囲気が漂う。それと、対峙するようなに広がる田舎の景色が、なんとものどかに思える。
しかし、その小屋、その門の男2人からは、そう言った感じの雰囲気は感じられずどこか上の空と言った感じだ。
「退屈だな」
一人の男は、いつもと同じ空を眺め言う。
「ああ」
少し間があって、もう一人が答える。大そうめんどくさそうに。
退屈、暇だ、と今日になってから何回言っただろうか。この国に生まれてから何回言っただろうか。
退屈だ、退屈だと言うことも退屈だ。
どうにかならないものであろうか。そんなことを考えるのも、無駄で退屈だ。
ふと、なんの感動も覚えない空から目を離したとき、走り来る車が目に入った。
1キロメートルほど先であろうか。緑と茶色ばかりが目に入る木々の間を、赤いそれは目立ってこちらに向かう。
その影から異国の車種であることは容易に把握できた。
「すこしは退屈を紛らわせてくれるかな」
入国管理門の彼は、あくまでも退屈そうに言う。多少の期待から、口調は先ほどとは変わっているが。
もう1人は全く興味が無いと言った様子で、悠然とただそれを眺めるのみである。
除除に大きくなる赤い影の中には、一人の男が乗っていることが分かった。
車の男は、門の存在を確認して、どこか呆気にとられたような顔をする。
その門、と言っても立派な城壁のたぐいでは無く、粗末な国境沿いに作られたゲートの一つだが、その前まで来て車は止まった。
「はい。車止めてくださいね」
男の1人は、すでに止まっている車に決まり文句を言う。
車の窓が開く。その中の彼が言う。
「あの、ここ・・・と言うか、これはなんでしょうかね?」
とぼけた声で、とぼけた事を言う。
答えて
「我々の国の国境ですよ。あなた、この国に来たんじゃないの?」
当たり前の様に言う。
車の彼は、すこし困った顔をして
「ははあ。ここに来た、と言うか、正確には別に・・・、いや来てしまったのだから、ここに来たんですよ。」
曖昧でよく分からないことを言う。最後に、「本当だったんだ」と小声に続けたが、聞こえない。
門の男は、未だ釈然としないが、暇つぶしを求めて彼に物語をあおった。
「こんな国にわざわざ来る人も珍しい。もしかして、あなた旅人?なら話を聞かせてくれよ。」
退屈の破壊者を求めて、すこし期待を込めて言う。
車の彼はますます困った感じで言う。
「いいえ、旅とか全然違いますよ。ただ、あれですよ。来てしまったんですよ」
余計に訳が分からない。門の男は期待を怪訝に変えて改めて問う。
「じゃあ、何しに来たんですか?」
少し考えて答える。なぜか微妙な自信をもって。
「あまりにも退屈だったんで、すこしでもましかな、と思って」
其れを聞いて門の男は、一笑してここぞとばかりに言う。
「退屈から逃れてですか?面白いことを言いますね。」
反応を楽しむかの様に続ける。
「そんなものここには全く有りませんよ。」
車の彼は、顔を元の困り顔に戻して
「はぁ、と言いますと?」
次なる言葉を待つ。
「この国ほど退屈な国はありません。」
車の彼の目が、微かに輝いた。少々の興味を込めて問う。
「退屈な国、ですか。何故退屈な国なのでしょうか?教えてもらえますか?」
どこか、なぜか機械的に尋ねる。
門の男は、さもありなんと、彼の問いに答える。
「いいでしょう。我々の国の事を話しましょう」
面倒くさそうに、だがちょっとばかりの退屈しのぎを求めて、不断な訪問者に話を始める。
「我々はね、そもそも仕事と言うことをしなくても良いのだよ」
唐突に、まずそう言った。
車の彼、いや今はパイプ椅子の彼はとりあえず相づちを打つ。
「つまり、我々の仕事は、わかりやすく言う所のいわゆるロボットがすべてやってくれるのですよ」
自慢げに門の男、もとい今はソファーの男は言う。
「はあ」
と感動も何もないパイプ椅子の彼が、すこし面白くない。
「ですから、我々は働くと言うことをしなくて良い分、自由な時間と言う物が年中好きなだけもてるのですよ」
また「はあ」と言いかけたが、ソファーの男の顔を見てやめた。
とってつけた様に
「なるほど、それはすばらしいじゃないですか」
思ってもないことを言う。なのにソファーは、またさもありなんと言った顔をして言う。
「初めてこの国の事を知った人は皆そういいますよ」
続けて言う。
「ですがね、有りすぎる自由な時間と言うのは恐ろしいもので、やることが無い退屈がもたらす苦しみは仕事のそれに勝るとも劣りません」
少し感情を込めて言う。
「えと、つまり?」
パイプ椅子は聞き返して言う。
「つまり、我々は退屈なんですよ」
そこまでかいつままれるとよく分からない。
それは、今まで黙っていた外の男も思った。外の男は、小屋に入ってきて言う。
「だからね、この国で面白いことは、全部飽きてしまったと言うことなんだよ。昔はこの国にだって遊びはあったけど、もうみんなが飽きちゃって誰もして無いし、小説やマンガといった類も当然あったけど、どれもこれも読み飽きちゃってね。と言うか、今ではもはや」
思い出したように言う。
「遊びと言えば、ちょっと前まではウィズデスティニーと言うカードゲームがありましたね。でも、あれももはや退屈この上ないですね」
「ああ、ウィズデスは流行ったねえ。まあ、所詮退屈だけど」
ソファーの男も思いだして言う。
とりあえずパイプ椅子の彼はカードゲームの事はわからないが、それよりも生じた疑問を言うことにした。
「小説やマンガは新しい物は出ないのですか?」
その問いには、ソファーが馬鹿げたことをと言った様子で答える。
「出ませんよ。ちょっと考えたら分かることですよ」
「はあ」
またつまらない態度をしてしまったと思ったが、本当によく分からないと言うこともあった。
入ってきた男が説明する。
「さっきこいつが、私たちは仕事をしなくて良いといったね。つまり、そういうことなんだよ。仕事をする人間は居ないから、小説やマンガを仕事として描く人間は居ない。むろん、ロボットにはそういった類の、つまり創造する仕事は不可能だからね」
「なるほど。そういうことですか。」
わかったが、新たな疑問が生じた。
「でも、人間の中には小説やマンガを描きたいと思う人もいるのでは?」
強めに言った。これは本心からだった。
ソファーが、また馬鹿にしたように言う。
「そんなこと言われても、描けるわけがないのさ。すべてはロボットがやってくれる仕事をしてるんだ、無論我々は勉強などしない、する必要がないからね。それで昔の産物である文字を駆使できるはずがないんですよ。」
すこし怪訝顔をして問い返す。
「えと、つまり、貴方達は小説やマンガを描けないのはおろか読めもしないのですか?」
「まあ、そうなりますね。だけど、それ故に退屈と言うわけでは有りませんよ。過去に読み尽くされ、過去の人間にも飽きて放置された文字の羅列に興味はありません。興味無いものを読めないからと言って、つまらないわけではないでしょう?」
淡々と説明をする。
正直言って腑に落ちないが、とりあえず確かにと同意した。
パイプ椅子の彼は、そのことよりも重大な矛盾に気づいて尋ねてみることにした。
「さっき、貴方達は仕事をしなくてもいいと言っていましたね?」
「ええ、そうすが」
当たり前の様に答える。
パイプ椅子の彼は、2人を見渡して言う。
「ではなぜ、貴方達2人は仕事を、門番と言う仕事をしているのですか?」
ソファーは、またしても当たり前のように言う。
「仕事をしなくていいから退屈だと言いましたよね。そこなんですよ。今、まさに逆転の発想とでも言える、仕事をすることがブームなんです。退屈しのぎにはちょうど良い。」
そこにもう一人がわってはいって言う。
「まあ、最初はそうだったんですがね。今となってはこうやってロボットのすることを真似るのも退屈でしょうがない」
パイプ椅子の彼は、今度は多少の感動を込めて相打ちをうった。
そして、提案をしてみる。
「では、別の仕事をしてみるのはどうですか?」
「それはそうですよ。我々は現に、何度もいろいろな仕事を経験してきていますよ。まあ、そうですね。ここも退屈になってきたので、次の仕事に赴くとしますか。どっちにしろ、次の仕事もそのうち退屈になりますが」
想像通りの答えだ。
そこで、今度は自分から語ってみることにした。ある提案が思いついたから。
「実はですね。僕はいわゆる小説家なんですよ」
2人の死んだ目が多少輝いた様に見えた。
「ほお、小説家の方でしたか。過去の産物と興味の無いものですが、異国のそれとあっては別ですよ。具体的にどういった仕事をされているのですか?」
食いついてくれた。パイプ椅子の彼、小説家の彼はここぞとばかりに話し出す。
「いやあ、実に面白い話でしたよ。久しぶりに退屈で無い時が過ごせました。」
ソファーは、大きに喜ぶ。もう1人も、悲観にとりつかれた表情が多少和らいだ様に見える。
気が付けば小説家の彼は、小説のなんたるかから始まり、自分が小説家になった経緯や、自分の代表作のあらすじ、はたまた国の文学についてまで語り出すしまつで、ゆうに2時間以上は語った。空の変化が時の経過を告げだしたころ。話すべくネタはつきた。退屈な人たちが、退屈ではなく興味をもって聞いてくれることが意外であったが、それ以上に嬉しかった。
「私も、自分が退屈だと言うことばかりに悲観して、探求する心を忘れてた気がしますよ。興味の無かった者でも、こういった異国の興味と入り交じって聞けばなかなか面白いものですね」
小説家の彼は、それを聞いて、ふと提案してみる。
「でしたら、今度私の小説をあなた方に差し上げましょう。言葉を覚えるのは困難ですが、その困難な難行こそがあなた方の退屈を解消してくれるかもしれませんよ」
それに対して、はじめこそ戸惑った様な顔をして見せたが、目を輝かせて
「それは面白そうですね。宜しく頼みますよ」
快く小説家の彼の提案を承諾した。
ソファーの男は、天を仰いで感嘆したように言う。
「退屈なこの空に下には、まだ退屈で無いことがあったんですね」
小説家の彼、つまり僕は次なる小説のプロットを考えた。
「行って、よかったかな。あの国を題材にしたら・・・」
「しかしなあ。まったく、わけがわからない」
退屈な話をした、したはずだった彼は一人呟く。
小説「退屈な国の最期」についての対話より。一部抜粋
「それにしても、今回の話は貴方の体験談を元にしたと、伺っているのですが、本当ですか?」
「ええ。確かに僕が体験したことは大いに生かされていますよ」
「でしたら、この作中に描かれている『退屈な国』は実在したと?」
「まあそうなんですが、僕がそこに至るまでにも経緯がありましてね」
「といいますと?」
「ちょっと次回作のアイディアに行き詰まって、町はずれをぶらぶらしてた時に、偶然に旅人を名のる男に出会いましてね。次回作の参考になれば、と思ってその旅人にこれまでの旅の話を聞いてみようと思ったんですよ。そしたら、その男が語り出す『仕事は皆ロボットがやってくれる国』の話は、まるっきり嘘っぽくて、それに退屈な話で、途中から逃げ出そうと思ったんですよ。そしたら、その旅人がしつこくて、よっぽど孤独で誰かと話しをしたかったんでしょうね。なかなか逃がしてくれなかったんですよ。あまりにも退屈な話が続くから、僕は旅人に行ってやりました『その国が本当にあるなら、どこにあるのか?』とね。これで困ると思ったんですよ。けど、旅人は意図も簡単に答えてしまいました。『この国を出て、西に20キロほどだ』とね。信じられませんでしたよ。そんな国の話は聞いたこともないし、20キロなんてあまりにも近いじゃないですか。けど、実際に国を出たことは無いし、閉ざされたこの国の情報に依存してきた訳だから、知らないそんな国が近くに本当にあるともふと思いましたよ。そしたら、旅人が『疑うなら行ってきて見ろ』と心を見透かしたように言うんですよ。不本意でしたが、どうせアイディアも浮かばないし、早くこの旅人の退屈な話から逃れたかったんで、騙されたつもりで車で国外に出てみましたよ。」
「なるほど。で実際にその国はあったんですか?」
「ええその国は確かにありました。簡易な小屋とゲートが見えたから、もしやと思って近づくと、本当に旅人の言うところの『仕事は皆ロボットがやってくれる国』はあったんですよ!」
「それは私も知らなかったですね。この国は近隣諸国との貿易は盛んですが、それは商人達の仕事であって、商人以外の我々は国内に居て何でも手に入りますからね。私を含めて国外の事には疎い人は多いと思いますよ。あ、すみません話がそれましたね。で、そこでどの様に過ごされたのですか?」
「それは、物語のはじめに書いたことを聞いてきたのですよ」
「つまり、仕事はすべてロボットがやり、国民はみな暇な時間に退屈している。学ぶことをしない国民の興味は、興味向くべきところにも向かず、つれづれと日々を送るだけである。この部分ですね」
「ええ、大まかですが、だいたいそんな感じの国だったんですよ。」
「では、次の質問ですが、この小説では退屈な国の無惨な最期が描かれていますが、なぜこのような発想に至ったのですか?」
「それは、物語を読んでいただければわかる通りですよ。無論、実際にモデルの国は滅びていなかったですが、僕が思うに同じ運命をたどると思いますよ。」
「ロボットへの依存と、学ぶことを失った者たちの悲劇は・・・、この出だしの章からですね。」
「ええ。実に簡単なことです。文字も書けないほど、低落した知識の国民達の前で、現在動いているロボットたちが止まったら、どうして直すことができるでしょうか?まず無理ですね。あ、ちょっとネタバレ含んじゃったんでカットしてくださいね(笑)」
「いえいえ、それはあらすじにも書いてあることなんで大丈夫ですよ」
「ああ、そうでした」
「まあ、とにかくそう言うことです。ロボットを失い、混乱し、労力を失った社会システムは崩壊し、それはつまり国の崩壊への序曲です。ここからさらなるトラジェディーの展開が・・・、まあ読んでからの楽しみですね。」
「はあ、まあ次の質問ですが、実際にその退屈な国に行ってみた時の詳しい様子を教えていただけますか」
「まず、不本意ながら訪れた時、彼らはまさに退屈でしたね。そう、目が死んで居るんですよ。ただなんの感情もなく生きているだけの様に」
「まさに、退屈な国民だったんですね」
「そうですね。でも退屈なのは彼らだけじゃなかったんですよ」
「といいますと?」
「僕はね、さんざんあの旅人から、嘘じゃないかと思われる退屈な話しを聞かされて、逃げて来たんですよ。なのに、その国は実際にあった。彼らは、ここぞとばかり退屈しのぎに、退屈な国を語りだしましたよ。それはもう退屈でした。なにせ、あの旅人から聞いた話とそっくりそのままで、同じ事を二度聞かされましたからね」
「なるほど。それで貴方も退屈だったんですか」
「それでね、僕もちょっと意地悪してやろうと思ったんですよ。今思えば馬鹿げたことですよ。彼ら、つまり退屈な国民に、僕の小説家になった経緯だとか文学の蘊蓄だとかを永遠と語ってやったんですよ」
「それはまさに退屈な話ですね(笑)」
「けど、誤算でしたね。退屈な彼らにとって、それは面白かった様なんですよ。興味を持って聞いてくれましたね。でも、途中から興味津々に聞いてくれるのも嬉しかったんで、目的をわすれて話にのめり込んでしまいまして、結果2時間も永遠と話すことになってました。複雑な心境ですね」
「それは良かったですね。なにせ貴方の蘊蓄は・・・」
「どうせ退屈で有名ですよ(笑)。でも彼らは興味を持ってくれた。やっぱり嬉しかったというのが本心ですね」
「退屈な国民にしては、意外ですね」
「そして、最後に彼らにこう約束してきました。興味を持ってくれた僕の小説を今度持ってきます、と」
「でも彼らは文字すら読めないと、作中にありますが?」
「ええ、本来の目的はそこですよ。異国の文字を読める様になるには、そうとうな努力必要でしょ。さもあれば、退屈どころではありませんよ。彼らの退屈しのぎにちょうどよいと思って、提案してみたんですよ」
「とか言って、自分の国では売れてない自分の小説に興味を持ってくれたのが嬉しかっただけなのでは?(笑)」
「まあ、それはそうですよ(笑)」
「でも、今回の作品には自信があるとおっしゃってますね」
「ええ、自信はあります。帰りの車の中で、これだとひらめきましたからね。それに題材自体が二度も聞いて散々頭にたたき込まれてますのでね」
「えーと、個人的に思ったことを聞いていいですか?」
「え、なんですか?」
「ロボットに依存する学ぶことを忘れた退屈な国民の末路を描いたカタストロフィ、と銘打ってますが」
「ええ、まあ」
「確かに知識ない国民の目の前で、ロボットシステムが停止したら復旧は難しいと思いますが」
「かと言って、ロボットが止まったからと言って国は滅亡しますでしょうか?」
「いえ、だからそれは」
「それに、働くことが新鮮で唯一のブームになってる、とおかしげに書いてありますが、むしろこれは良い傾向なのでは?ロボットが止まっても自分たちでなんとかなるように思いますが・・・?」
「・・・・・それは」
「・・・・どうしました?」
「ええ!どうせこれもつまらない、そうつまらなく退屈な話ですよ!」
「え?あ、ちょっとまってください!そんなつもりでは・・・」
以上抜粋
「何これ、つまんねえ」
暇つぶしに買ってみて、暇つぶしに読んでみた文芸誌。その掲載小説と、その後の対話なる茶番をひととおり読んだ。全くもって、時間の無駄、至って退屈だった。対話の最後の方で、作者が退屈な小説と認めている。もしかして、狙ったのか?つまらない小説を読ませるのが振りでオチが、この最後・・・。
「どっちでも、いいけどね」
バサっと雑誌をベッドの上に投げ出して
「ああ、退屈だなあ」
そうして自らもベットに投げ出す。
これは、退屈な話の話。