表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

断片 2022~2023

作者: 墨田ゆう


『幸福』

幸福になりたければ他者を支配すればいい。支配者になって弱い人間を管理すれば、権力を得られるんだ。法律的根拠に基づいて、他者の衣食住を左右できるちからを奮う。



『どうして』

どうしてわたしだけを正しくしようとするの。

父親も父親の子どもも、

わたしや母さんを殴ったりどなったりする。

母さんはなんにもしないでいる。

わたしの周りにはそんな人がいた。

どうしてあの人たちは変わらないでよくて、

わたしだけ……。



『グループホーム』

ねえ、どうして誰もほんとうのことを言わないの? 窓を指さして、丘の向こうの街を、頭のなかで見ている。 グループホームに行くことがいいって、本気で思ってるの?


わたしたちはここでわたしを捨てているだけなのに、それが自分らしいってことなんだと思いこんで救われようとしてるんだ!みんなどうしてわからないふりするの?自分なんてどこにもない、わたしなんて無くなっていっちゃうよ!



『あなた』

ほんとうのことを言ってくれるひと。



『正しさ』

正しさなんて鎧にならない。

けれども憎悪の剣をとれば、はみ出し者になる。

どちらもいらないと選択しなければいけない。



『選択』

選択しても、選択しなくても、

わたしの行いになる。

親がわたしのことを決めると、

それはわたしが決めたという結果になる。

わたしが口をいちども動かさなくてもね。



『夢』

「若いんだからなにかあるでしょう」

「夢……目標?

いちばんちいさな箱で眠りたいの

そしてもう起きないように

起きないように……」



『米』

先生から診察のたびに米食べな!って言われる。

わたしってご飯食べても良いんだね。

米も肉も魚も。

働いてなくても食べていいんだね。

知らなかった。



『意味』

私気づいたんだけど、生きる価値とか、生きる意味とか、そんなのいらないみたい……そんなのなくても……生きなきゃいけないみたい。



『えっとね』

親に殴られて育ちましたとか、ご飯食べさせてもらえませんでしたとか……大人になったら、もう、関係なくなるみたい。それって子どもの頃の話であって、今じゃないですよねって、ふつうの人たちは平気で言うんだよ。だからキミは今のうちにいっぱい暴れたらいいよ。



『円卓』

「誰がいちばん悲惨な人生決定戦!」



『つぶやき』

「ひとりになる練習をしなきゃ……」



『大人』

 大人たちは子どものからだが死ぬことをすごく怖がってて、わたしはその気配に気づくと笑っていた。笑わないとリストカットしそうだった。

子どものからだがどこに有るかがだいじだった。


 こころの置き場所はどこかしらにあった。雲からのぞく青色だとか、ご近所さんの庭に植わったあじさいの青色だとか。


 けれども身体の置き場所は無かった。もう子どもでもない私の肉体は実家にも職場にもおさまる場所が無く、時間とおなじくらい持て余していた。



『わたしのことば』

わたしは、わたしのことばが記録に残ればなんだっていい。手段はどうでもいいの。結果だけが有れば。声に出しても出さなくてもいい。メモ書きひときれ渡して、ハイこれってかんじがいちばんラク。


誰かと話すことで感情を解放したり、共有するってことに飽きたから。


どうせみーんな辞めるから意味ないの!


泥棒だと思うの。いままで出会って別れた人間たちってさ、わたしとの記憶を持ち逃げしたんだから。わたしだけ、残されて……だから、もっと確かなものがいい。記録なら、動けないから



『十年』

この十年はなんだったんだろうって思うんだ。

わたしは、おなじ場所でぐるぐる回って息をしていただけだった。薬を飲んで、学校に行って、病院に行って、話をして。

ね、あんたは、あんたはさ、ちゃんとした大人になれた?



『声』

ずっと誰にも、先生にさえ言わなかったけど、声が聞こえるんだ。

もう死のっかなってときに、頭の中で誰かが言ってくれるの。言ってくれるんだ……。



『からだ』

からだが有るってことがつらい。

からだが有るから生存している。

人間になるには?

人間として生まれたから人間だといえるのか。

否、

正しい行いをすれば人間になれるはず。

だって人間は善いものだから。

けれど違った。

善いことをしなくても人間で、

悪いことをしても人間でいられる。

優劣はなかった。

ずっと美しさのために生きてた。

どうでもいい徳のために。

人間とは、

法律と道徳のなかで生きている生き物だった。

じぶんが善と思ったとおりに有るのが、

主観的な人間の生き方である。

それぞれの正しさがあるのだった。



『楽しい』

思い出したんだ。

大人は子どもが死ぬことに敏感だった。

いちばんされたくないことのようだった。

ーー今ならわかるよ。わたしも子どもが死ぬとどうしてか胸が痛むよ。

死ななきゃどうなってもいいんだ。そう悩める子どもに言いたくなる。無責任だろう。

中身が空でも、身体さえ有れば生きてるってことにできるんだもの。



『守る』

守ると支配するはおなじだからね。

大丈夫だよ、守ってあげるよって。

傷つかないように管理してあげるのは大人の特権なんだ。

けれどわたしは大人になれないんだ。

なんにも支配するものがないから。

というか支配される側だから。



『きれいさ』

きっと、トラウマなんてものは誰にでもある。この国の人間はおきれいなものが好きだから。精神科に行こうとしないから。みんな助けられなかったあの日のじぶんを背後に感じて生きてる。それが立派なのだと勘違いしてる。


時間が解決してくれるわけない。時間がたつほど動けなくなって周りに置いてかれる気がして……。


そんなふうに生きていくんだよ。耐えるのが素晴らしいみたいに。誰かに寄りかかる方法さえよくわからないのに、生きていくの、同じ場所で。過去から遠い日をめざして。



『高揚、諦め』

この世界、わたしが見てる世界、

生きる意味なんていらなかったみたい!

そんなものなくても生きていていいらしいよ。

というか生きていくもんらしいよ……どうしてか、わたし、それが悲しいの。


だって価値ある存在しかこの世界にいちゃいけないと思って、じぶんにはこの世界にいる価値があるに違いないと力をいれてきたんだもの。


わたしは仕事することだと思ってた。仕事ができる人間はすごい価値があると思ってた。だってお父さんは仕事をしてるからあんなに威張ってる。わたしも仕事をすれば偉くなれると思って就職した。でもうまくいかなかった。だからODしたし腕を切った。じぶんを傷つけなければ生きてられなかった……それから、さきに行きたかった。苦しみの向こう。なにがあるんだろうって、やっぱりそれは死なんだけど、ほんとうに行けるか試したかった。執着だった。





『高揚』

人はどうして死にたがるかわかるかい?

想像して。


わたしたち人間はひとり1台天秤を持っているの。二つの皿のうえには魂と肉体が乗っていて、ちょうどよい重さを保っているんだ。けれど、とてもつらい目にあった人間の魂は、欠けてしまって、どこかへ消えてしまうんだ。だから肉体の皿は傾いて、重いよ、重いよって教えてくる。


そういうとき人間は無意識のうちに、欠けた魂と肉体の重さをおなじにしたがるんだ。


君ならどういう方法で肉体を痛めつける?

腕を切る?

odする?

それとも飛び降りる?


人間が死にたがるのはね、あたりまえの衝動なんだ。けれど人間の寿命より前に、さらにずっと若くに死にたがるという異常性に他人は黙っていてはくれなくて、これは病気という分類に入れられることになった。


死ぬために生まれてきた。

死ぬためにこの肉体は有るんだよ。

でも死んじゃだめだよねって価値観を人間は生みだしちゃった。





『おなじこと』

なんや子供時代とおなじことを大人になっても考えてる。

死ぬとどうなるか。

墓には入りたくないとか。

答えないとわかってて疑うこととか。



『花火』

 あのね、ひとと目が合うとね、ちいさな花火がきらめいて、まぶしくて、目をそらさなきゃいけないの



『わからない』

 わからないんだ。

どこにいればいいのか。

だからいっそ死にたくなる。


 わからないよ。

じぶんのきもちなんか。

だから生きていいのかわからなくなる。

身体が固まって動けなくなる。

みんなの言うことにうんうんって頷いていればいいのかなって。


わたしがお金を稼げなくても、

誰かの役に立てなくても、

もういいんじゃないかって……できないことをできないって言っても。





「きみとわたしの脳みそはつながってるの?」





『縁』

切っちゃいけないんだろうなって頭のすみで考える。

無かったことにはできないから



『医師』

検査したり手術したりして治療してあげて、治るってことがゴール地点だなんて自分勝手だ。

わたし耳もとで囁いてあげたいなぁ。

あなた支配者になってますよ、って。



『薬局』

「あの看板を見てよ。どの病院の処方箋も受け付けますって。けど、わたしたちの薬はきっと置いてないよ。」



『知ってるんだ』

わたしは知ってるんだ。

みんなはわたしがいなくても暮らせるんだ。

だからわたしはいつもどこかへ走らなきゃって思う。

遠くからみんなを見て、よかったって言うじぶんでいたいんだ。



『終わり』

わたしたち、終われないんだよ。

寿命でしか死ねないんだよ。

どれほど魂がすりへっても。

この身体を終わらせてもらえない。



『病棟』

ここしか居場所ってないと思うの。

わたしはもう失敗したくないの。

恥ずかしい思いをしたくないの。

だからここにいるしかない。

世間の人間は、こんな場所、見てないから。



『病棟』

“わたしなんて”ってことばを使わないでいられる場所だった。



『戦友』

あの人と過ごした日々を忘れないよう。



『ささやき』

人間は、人間のために便利な道具を開発してきた。けれども、そんな時代は終わらせてしまおうよ。耳を鼻を目を、蓋することで救われる魂があるならば、人間は、人間のために便利な道具を捨てられると思うの。人間自身の体でさえ。

不便なことは不幸せじゃないって、わたしはいつだってきみに頷いてあげるよ。



『嘘つき』

きみがほんとに守りたいものって、わたしじゃないよね。

わたしの身体じゃないか。



『射抜く』

あなた、裁かれる覚悟はある?

わたしもあなたも、この時代から逃げ切れるのよ。

ただ待っていれば、寿命で死ぬ。

けれど矢面に立って……背負うこともできる。

わたしとあなたで、終わらせられる。



「おめでとう」

 死にたいって思えるのはね、きみが2度生まれた証拠なんだ。一度目は母親から、二度目はじぶんから。

 生き物は産まれる瞬間を知らない、だからきっと死ぬ瞬間もわからないと思う。

 でもね、二度目の生を受けた人間は、じぶんがいつ死ぬかをじぶんで決めることができるチカラをもってるんだよ。つまり、寿命がくるまえに死ぬってことを選択できるんだ。

 きみが死にたいって思うとき、ね。



『悲しい』

身体が有るってことがつらい。

ヒトは、身体があるから生きているのだと思う。だから内側、内蔵じゃないです、目には見えないほうの内側が死んでいても、生きていなくてはいけない。



『嘆き、怒り』

 わたしはただ知りたいだけなんです。いつまで生きればいいのか。けれど誰も教えてくれない。

 いつ死ぬかわかればいいと思うんですよ。だって、わたしっていつまで生きていればいいんですか? もういいと思うんですよ。もう。でも寿命がわかればその分だけ頑張らなければいけない、そのためにはって道筋がたてられるでしょう。今はそれがないから荒んでいます、わたし。





「いつだって形のないもの」





『部屋』

病棟の窓から見えるーーいや想像しているーー街が疎ましくてしかたがなかった。

外にはあんなにも建物があるのに、わたしが借りられる部屋はないんだって現実があった。

アパートの狭いベランダには室外機が備え付けてあって、窓ガラスがあって……



『グループホーム』

グループホームに行くことがいいって、本気で思ってるの?

わたしたちはここでわたしを捨てているだけなのに、それが自分らしいってことなんだと思いこんで救われようとしてるんだ!

みんなどうしてわからないふりするの?

自分なんてどこにもない、わたしなんて無くなっていっちゃうよ!



『マック』

まえに、ここを出たらなにを食べたいかって話をみんなでしたけど、わたし、なにも思い浮かばなった。いまも。なにもないの。わたしには。やりたいことも友だちもいない



『番号』

私たちは連絡先を交換しないほうがいい。

きっとまた会えると信じているから。



『ハンドソープ』

戦友と握手した日は、手を洗わずにいた。

消したくなかった。



『退院』

まえをむく。

外の空気を吸う。

駅に向かう。

雑踏。

ひとびとの声がざわめく。

みんなきれいな髪と服をしている。

じぶんがすこし恥ずかしくなる。

けど信号を歩いていく。

ただいま、故郷。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 独特でゆったりとした言葉から感ぜられる感情の起伏がとても好きです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ