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出した答え




 三日が経った頃、私は迷いつつもまずは、片瀬さんにラインを送ってみた。あの美人な黒崎さんには、なんとなく送る勇気が出なかったのだ。片瀬さんはすぐに返事を返してくれ、家の近くにあるカフェで三人、落ち合うことになった。


 最近はぐっと冷えてきている。昼間よりさらに気温が落ちてきた夕方、震えながら言われた通りの場所へ向かうと、二人はすでに中に入っており、ひときわ目立っていた。黒崎さんはやはり美人すぎる人だし、片瀬さんだってタイプの違う素敵な男性だ。女性客たちがちらちら見ているのが分かる。


 気まずく思いながら彼らの席に向かうと、まず片瀬さんがこちらに気付き頭を下げてくれた。


「井上さん! こんにちは!」


「こんにちは! お待たせしてすみません」


「どうぞ座ってください」


「失礼します……」


 座ってみるとやはり、視線が痛い。痛すぎる。こんな場所で幽霊の話とかをするつもりか私は? まあ、隣と席は離れているから、会話までは聞かれないだろうけども。


 女たちの好奇心と嫉妬の気を浴びながら、片瀬さんが差し出してくれたメニューを眺める。ちらり、と前を見た。


 前に座っている黒崎さんが、にこっと笑いかけてくれた。おおう、破壊力凄すぎて死にそう。幸運の体質も、イケメンパワーで心臓が止まるのは止められないかもしれない。


「私は紅茶で」


「はい。俺はコーヒー、柊一は?」


「おにぎり、ある?」


 そんな小さな声が聞こえてきて、つい二度見してしまった。おにぎり? こんなおしゃれなカフェに、おにぎりを求めてるの?


 呆れた片瀬さんの声がする。


「おにぎりはない」


「じゃあいらない」


「一つはオーダーしろ。じゃ、オレンジジュースにしといてやる」


 そういった片瀬さんは、店員に注文してくれる。店員が去っていくと、片瀬さんが改めて私に頭を下げた。


「今回は本当に、色々ご迷惑をおかけした挙句、突然変なお願いをしてしまって……」


 そんな彼を、黒崎さんが止めた。どこかふわりとした柔らかな声で言う。


「もう、暁人は固いな。そんなんじゃ、遥さん緊張しちゃうでしょ」


「お前は自由すぎるんだよ」


「ねえ、好きな食べ物はなに?」


 黒崎さんがにこにこした様子で聞いてくるので面喰う。確かに片瀬さんの言う通り、この人は自由人みたいだ。と、いうか天然?


「えーっと……ケーキ、ですかね」


「わあ、女の子って感じ。甘い物美味しいよね」


「黒崎さんはおにぎりが好きなんですか?」


「すごい! なんでわかったの、読心術?」


 目を見開いて驚いているので、天然確定した。何だこの人、変わった人すぎる。


 頭を抱えた片瀬さんが、咳ばらいをして話を本題に戻した。


「好きな食べ物は置いといて。これは先日お世話になったお礼です、ほんの気持ちですが」


「え! ありがとうございます!」


 菓子折りらしきものを差し出される。自由人な黒崎さんとは反対に、片瀬さんはしっかりしてるなあ。彼は背筋をピンと伸ばし、姿勢よく座っている。一方黒崎さんは、軽く背もたれにもたれ、ぼんやりと天井にあるシーリングファンを見ていた。


 そんな彼は放っておいて、私はさっそく、母と電話した内容を告げた。


 私の家系の能力についてや、母も昔仕事を手伝っていたこと。そして、時間が経てば浄化の成功率も下がってしまうことも。


 二人は興味深そうに聞いていた。黒崎さんも、感心したように私を見ている。タイプの違う男性二人に見つめられ、恥ずかしく思っていると、注文したドリンクが運ばれてきた。


 私はストレートティーを、片瀬さんはブラックコーヒー、そして黒崎さんは、オレンジジュースを飲む。


「……というわけで、昨日はたまたま成功しただけみたいなんです」


 片瀬さんが腕を組んで考える。


「そうか、食べてすぐじゃないと効果が薄れる……井上さんはそうなのか」


「私は?」


「ああ、今までも井上さんみたいな能力を持った人に浄化を手伝ってもらったことがありまして。その人はとても強い霊力を持っていたので、時間が経っても浄化出来たのですが、思えば俺たちより強い人だったので、特殊だったんだな、と」


 聞いてなるほど、と思った。母も、慣れるまで浄化できる人間と行動を共にすることが多いはずと言っていた。やはり黒崎さんたちには、元々浄化できる人間がそばにいたのだろう。何か理由があって辞めてしまったのかな、と想像する。


 片瀬さんは困ったように眉尻を下げた。


「今まで知りませんでした、時間が経つと成功率が落ちることもあるなんて。そうなると、先日のように部屋で手を握ってもらうという形ではなくなるのですね」


 そういいながら静かに肩を落とす。せっかく黒崎さんの苦痛を和らげる方法を見つけたのに、希望が無くなってしまったと落ち込んでいるのだろう。


 だがその隣にいる黒崎さんは、特にショックを受ける様子もなく口を開いた。


「じゃあ、しょうがない。僕がもっと頑張ればいい話なんだよ」


「……俺も浄化か、食う能力があれば」


「暁人は暁人で、他の霊を祓ってくれたり頑張ってるじゃない。いいんだよ」


 そんな会話を交わす二人に、私は割って入った。この三日間考えた自分の答えを、今伝えるべきだ。


「あの、一度仕事に同行させてもらえませんか?」


 二人が同時に目を見開いた。予想外の答えだったのだろう、沈黙が流れる。私はさらに言った。


「どんな感じなのか、一度試してみよう、と思って……よければ、黒崎さんが食べた直後すぐに浄化できるように、お仕事についていってみたいんです」


 片瀬さんが口を開いたが、それより先に黒崎さんが声を上げた。普段と違った、厳しい声だった。


「君をそんな危険な目に遭わせるのはだめだよ。気持ちは嬉しい、でも無謀すぎる」


 見れば、まっすぐな目で私を見ている。私は小さく反論した。


「でも、うちの家系は幸運の家系なので、怪我や健康被害の心配はないと母は言っていました」


「万が一ってこともあるでしょ。そこまで君が体を張る必要はないんだよ」


「……でも、母は言っていました。慣れるまで食べる除霊は本当に辛くて、最悪死に至ることもあるって。私、黒崎さんにそんな風になってほしくありません。まだ決意は出来ないけど、お試しにやってみるだけやってみてもいいと思うんです」


 私の言葉に、黒崎さんは口をつぐんだ。困ったように視線を落とす。

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