後日談
それから数日が経った頃。
浄化の仕事もなく、カフェのバイトで忙しくしていた私の元に、暁人さんから連絡が入った。先日の依頼の件で話したい、と言われたので、バイトが終わったあと三人で夕飯を食べに行くことになった。
待ち合わせた近所のファミレスに入った時、一角がやけにキラキラしているなと思っていたら、柊一さんと暁人さんだった。ううん、久しぶりにあの顔を見るとやっぱり人間離れした綺麗さだなと唸る。
二人は並んでソファ席に腰かけ、メニューを見ているようだった。
「お待たせしてすみません!」
「ああ、井上さんお疲れ様です」
「遥さん、どうぞ座ってーお疲れさま!」
私は二人の向かいに座る。メニューを渡されたので、中からハンバーグセットを決めてそれぞれ注文すると、暁人さんが早速本題に取り掛かった。
「三石さんから連絡が来ました」
お冷を飲んでいた自分は、しっかりそれを飲み込んで落ち着けてから続きを促した。
「そ、それでどうなったんですか?」
「あの家は売りに出して引っ越すそうです」
ああ、やっぱりか。私は心の中でそう呟いた。
普通、引っ越したばかりの家をまた売り、違う家へ移るなんて簡単に決断できることではないが、答えは案外すぐに出たみたいだ。それだけあの家に住みたくないと思ったのだろう。
その意見には深く同意できる。
「そりゃそうですよね……」
柊一さんは頬杖をつきながらため息をつく。
「だって、昔とはいえ放火で七人が亡くなった土地で? その霊が自分の家にだけ出没しまくる、と思ったら、いい人だと思ってた近所の人たちがそうなるように仕組んで、自分たちを見張ってた、なんてさー住み続けるの無理だって」
「ですよね! お子さんもこれから生まれますしね。そんなところで子育てなんて無理ですよ! あの人たち、子供にもなんかするかもとか思っちゃいますもん!」
「だよねー。だからまあ、こうなることは想定内ではあったかな」
私は力強く頷いた。暁人さんも苦い表情をする。
「俺もそうなるだろうなと思ってました。それで、あの夜録音した音声は三石さんへ送っておいたんです。それを使って、近所の人たちとバトルしたようで」
「バトル……」
「ご主人が頑張ったそうですよ、弥生さんはあれ以降ずっと実家に避難されてるそうなので。不法侵入して家に細工したことを警察に届け出ない代わりに、引っ越し料金や、今回の件で赤字になる部分を支払ってもらうことにしたそうです。二か月とはいえ、一旦住んでしまったら家を売るときに購入時より価値が下がりますからね。赤字では納得いかないとのことで、取引をされたそうです」
「なるほど……!」
「証拠の音声や、回収した鏡などの証拠もありますから、あちらもみんな素直に従ったそうですよ」
「ということは、結局除霊はしてないんですか?」
「そうです」
引っ越しが決まった家の除霊などをしても、三石さんたちにはあまり意味がない。だから結局、あの霊たちはそのままにしているということか。
それを聞いて、私は黙り込む。
この数日ずっと考えていたことがあった。バイトが終わった一人になると、ふと頭の中に浮かぶ。それを悩んでいた。
「遥さん?」
「……あの、除霊の料金ってどれくらいかかりますか?」
「え?」
「ローンでもよければ私が支払うので、除霊してもらえませんかね……?」
私がそう言うと、二人が驚いたように目を見開いた。私は俯いたまま言う。
「正直に言いますと、三石さんたち以外の人が怖い思いをしようがどうなろうが、全く興味はないんです。ただ、あそこにいる人たちはあんな苦しい思いをして亡くなったまま、何十年も彷徨ってるんだって思うと……早く楽にしてあげたくて」
廃ホテルで西雄さんの霊が浄化されるとき、とっても穏やかな顔をしていたのが印象的だった。傷だらけの顔が元の綺麗な顔になって、安らかに微笑んで……。
あの時私が会った少年も、同じようになってほしいと思ったのだ。熱くて苦しくて、顔がひどく焼けただれてしまったあの子も、楽にしてあげたい。勿論、あの子だけではなく、そのほかの人たちみんなも。
「だからその、暁人さんに除霊を」
私が言いながら顔を上げると、二人がとっても優しい目でこちらを見ていたので驚いた。それはもうこっちが恥ずかしくなってしまうほどの表情で、つい体が強張った。
「あ、あの?」
「遥さんってやっぱり凄く優しい人なんだなあって感心してたところ」
「同感ですね」
「ととととんでもない、お二人の方が優しいし気遣い出来るしイケメンでもう」
首をぶんぶん振って否定した私を小さく笑った後、暁人さんが穏やかな口ぶりで教えてくれた。
「その件に関しては大丈夫です。あの周辺の人たちに、除霊師を紹介しておきました。ちゃんと力があって、それでいて法外な料金を請求しない除霊師をね」
「あ、そ、そうなんですか!」
顔が熱くなってしまった。そうだよね、あれだけ優しい二人が、あの状態の霊を放っておくわけがない。私が心配するまでもなく、きちんと対処してくれていたのだ。




